【漫画】街に横たわる黒い巨大な塊……好奇心で中に入ってしまうと? シュールな漫画『人間デパート』が話題

ーー『人間デパート』は独特な雰囲気がやみつきになる、非常に興味深い作品でした。創作のきっかけを教えてください。

氷山:2019年の作品なのですが、なかなか作品が見てもらえない時期だったので、自分の作風を考えなおしていました。全体的に静かな雰囲気があったのでホラー要素のあるものが描けるのではないかと思い、当時つけていた夢日記の内容を漫画にすることにしたんです。女学生が、優秀な生徒だけが使う廃墟の通学路を通ると、違う場所にワープしてしまうという夢。それを脚色し漫画にしたのが、この作品です。

ーー本作のテーマやメッセージはありますか。

氷山:基本的には、「科学の発展のためには犠牲を払うべきか」というテーマだと思います。ただもとが夢で脈絡のないものだったので、あくまでテーマは後付けで、雰囲気とビジュアル優先で進めていました。

ーーやはり作中に登場した巨大な建造物は、異彩を放っていました。奇妙な形をした黒い塊は、どのような存在だったのでしょうか。

氷山:漠然とした不安を表現したものです。あるいは宇宙そのものなのかもしれません。人類は森に住む猿だった頃から、少しずつ安全地帯を広げ文明を発展させてきた歴史があります。しかしそれは、環境との闘いで未知の領域をどんどん減らしていく行為だったと思うんです。

 廃墟は最後に残された未知の空間で、偽物の先輩はそこを探求している。間違ったルートを通って犠牲になった命が数え切れないほどあって、それが謎のオブジェ"先輩"となり積み重なっている。偽物の先輩は主人公を空間の最奥へ導き、未知の探求を進めようとしますが、主人公はそれを拒絶します。このままだと科学を否定するような意味合いのストーリーのようですが、あの空間の探求に果たして意味があるのか。無意味な袋小路なのではないか、そこまでの犠牲を払う必要があるのか。もしかしたら人類は遠い未来、いつの間にかそんなところに迷い込んでしまうのではないか……という感じの話なのです。

 ですが、これはあくまで描き手である自分の見解。僕としては読者それぞれの抱いた印象を大事にしてほしいと思っています。いろんな解釈があっていいと思うんです。

ーー氷山さん自身が気に入っている点やこだわった点、注目してほしいポイントはありますか。

氷山:廃墟の表現に粘土を使うというアイデアです。元々は3DCGを使う予定でしたが、あえてアナログな手法で粘土をちぎったり、ひねったりしたものを写真に撮って使うことにしました。この表現はCGでは難しかったと思います。写真をPCに取り込んでからディザリングという処理をしているのですが、ソフトウェア標準の処理では満足できなかったので調整レイヤーを何重にも使ってザラザラした質感に仕上げました。

ーー好きな作家や影響を受けたクリエイター、作品を教えてください。

氷山:水木しげるさん、西村ツチカさんなどを参考にしました。特に水木しげる作品の緻密な背景とディフォルメされたキャラクターのギャップが醸し出す雰囲気を目指しました。女の子が主人公なのは西村ツチカさんの作品の影響です。

ーー今後の活動について一言お願いします。

氷山:SFを中心に、アナログ、デジタルを組み合わせて面白いビジュアルの漫画を描いていきたいと思います!

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