【漫画】不妊に悩むウサギとカエルの夫婦が気づいたこととは? Twitterで話題『男性不妊戯画』制作の背景

根強い「お産=女性の仕事」というイメージ

――サラリ医マンさんは普段何をされているのでしょうか?

サラリ医マン:15年目の泌尿器科医師です。現在働いている常勤先では、男性不妊外来に加えて、顕微鏡下精索静脈瘤手術や精巣内精子回収術(MicroTESE)、精管吻合といった男性不妊に関わる手術等を行っています。担当日は週1回程度ですので、それ以外の日は、一般泌尿器科の診療が担当です。

――「男性不妊戯画」を手掛けた背景をお聞かせください。

サラリ医マン:不妊治療を希望するカップルの多くは20~40代。多くの男性は仕事をしているため、大前提として来院のハードルが高いといえます。 また、世間に溢れる「妊活」情報の多くは女性側に立ったもの、 女性へうったえるものが多く、 パートナーから入る情報には若干のかたよりが生じます。 さらには、 「お産=女性の仕事」という意識が未だに根強く、 「俺は大丈夫」という根拠のない自信から、男性側からの協力が得られにくいのが現状です。男女での意識の差によって、不妊治療に対する意識のギャップが生じやすい構造になっています。

 一方で、公的機関等が用意している情報は堅苦しく、 (不妊を他人事と考えている)男性には、資料を読み進め、行動を変えてもらうことは難しいと感じていました。そこで、「男性目線で、受け入れやすい内容を、産婦人科から配っていただけるような形式で啓蒙したい」というコンセプトのもと、男性不妊戯画を作成しました。

――なぜ鳥獣戯画タッチのデザインにしたのでしょうか?

サラリ医マン:自分が今まで育児マンガなどを読んだ印象は、「人間が登場すると非常に生々しい」「リアルすぎて感情移入しにくい」ということでした。そこで、マンガには人間以外を登場させようと思い、認知度が高く、男女のキャラ分けをしやすいものとして、鳥獣戯画を選択しました。

――SNS上では大きな反響を集めましたが、このリアクションは予想していましたか?

サラリ医マン:「我が家もそう」「夫に読ませたい」といった女性の声が多かったことは予想外でした。また、いいねの量に対して、リツイートの量が多かったことも印象的で、「周りにも知って欲しい」「悩んでいる」という声が根底にあったのではないかと思っています。内輪で盛り上がる程度を予想していたので、ここまで爆発するとは思わなかったです。

状況を変えるにはメディアの力が必要

――様々なオマージュやパロディが散見され、不妊というセンシティブな内容を扱いつつも、読みやすさに対する配慮も随所に感じられました。読みやすさと不妊に関する情報のバランスはどのように意識しましたか?

サラリ医マン:読みやすさは最優先事項として構成しました。これまでに自分が育児本などを読んだ、読まされた感想として、女性にとっては共感できる内容だと思うのですが、正直「いまひとつピンとこない」という印象が強く、繰り返し読もうとは思いませんでした。

 「男性不妊戯画」も、チラ見されてその辺に投げられるかもしれません。ですが、ふと気づいた時に読んでもらえるように、内容の面白さは意識しました。また、医療内容としては、「ウソは書かない」「誇張したことは書かない」「変な期待は持たせない」と医学的なフラットな視点も重視しました。

――男性自身に不妊に関する知識のアップデートを促す内容に感じましたが、男性不妊戯画を通して女性読者にはどのようなメッセージを伝えたいですか?

サラリ医マン:女性の方はご自身でいろいろと調べていらっしゃるかと思います。意識を変えて、行動を起こすべきは男性ですが、男性にもプライドを含めて様々な事情があることをご理解ください。お互いを尊重していただき、お二人で協力してもらえればと思います。

――今後も啓蒙活動として漫画の執筆を行うのでしょうか?

サラリ医マン:正直私としては出し切った感があったのですが、続編を希望する声もいただいて結構驚いています。ただ、男性不妊戯画は1年近く練り上げ、男女双方から意見を聞いて修正を繰り返したネタですので、すぐ次の作品を創るのは難しいでしょう。正直なところ、作成に活用した助成金も無くなったので、スポンサー含めたお金の問題もあります。

 ただ、「男性不妊の知識を深めてもらう」「正しい医療情報を広める」といったことは必要だと思っており、医療情報を含めた資料の作成は水面下で行っています。本マンガの巻末に資料を追加したような冊子を作り、次の作品までの時間稼ぎを考えています(笑)ので、引き続き注目していただければ嬉しいです。男性不妊に関する情報は質・量ともに満足できる状況ではありません。男性不妊戯画に限らず、男性不妊に関する適切な情報を発信するため、尽力するつもりです。

■サラリ医マンさんのTwitterアカウント
https://twitter.com/saraly_man
■サラリ医マンさんのブログ(マンガが一気読みできます)
https://saraly-man.hatenablog.com/entry/2021/11/09/005211

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