『攻殻機動隊』批評:今こそ未来をリセットするとき King Gnu/MILLENNIUM PARADEが描く不定形なレトロフューチャー

 2026年7月7日、新作TVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』が放送を開始した。士郎正宗の原作コミックへの原点回帰を掲げ、サイエンスSARUが制作を手がける本作は、単なるリブートではない。作品全体を貫く大きなモチーフとして「レトロフューチャー」が機能している点にこそ、この新作の批評的な射程があるように見える。本稿では、King Gnuが手掛けたオープニングテーマの「GO GHOST」およびMILLENNIUM PARADEのエンディングテーマ「Blue」を基軸に、ポップカルチャーの“現在”を展望する。

「あの頃の未来」を問い直すということ

 カルチャー誌『EYESCREAM』No.195の特集にて、筆者は監督のモコちゃん、キャラクターデザイン・総作画監督の半田修平、そしてサイエンスSARUのプロデューサー・崎田康平各氏へインタビューを行った。そこで三者が口を揃えて重視していたのは「あの頃の未来像」である。「あの頃」とはつまり、士郎正宗の原作が世に出た1989年前後、すなわちインターネットも携帯電話も一般に浸透する以前に思い描かれていた、義体化やネット社会への想像力のことだ。

 今日の視点から見れば、その未来像はすでに「過去のもの」である。生成AIが日常のツールとなり、義体化どころか身体そのものの拡張がSNS上の日常語として消費される現在から見れば、1989年当時に想像された「電脳化された未来」はむしろ素朴にすら映るかもしれない。しかし本作の制作陣は、そこをあえてアップデートしない。むしろ、当時の未来観が持っていた手触り――無骨な義体、粗い解像度のディスプレイ、電脳空間への漠然とした恐れと憧れ――を、現代の作画技術と演出でもう一度なぞり直すことを選んだ。トグサは80年代ロックスターを想起させるマレットヘアーをなびかせ、肩幅が大きくバブリーなパワースーツを身にまとっている。仮想現実に意識を飛ばす装置もやたらデカい。

 これは単なる懐古趣味ではなく、「今日的な未来像」そのものへの懐疑の表明として読むことができる。

TVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』予告編|2026年7月7日 放送開始

レトロフューチャーは、いま同時多発している

 というのも、こうした身振りは『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』に限った話ではない。『サイバーパンク:エッジランナーズ』の制作陣もまた、オープンワールドRPG『鳴潮』とのコラボイベントの場で明確に「レトロフューチャー」という言葉を用いてサイバーパンクの概念を語っていた。『エッジランナーズ』は、1980年代に思い描かれた「サイバーパンク」という未来像そのものを、現代のアニメーション技術で鮮烈に再演してみせた点で、レトロフューチャーの極致とも言える一本だ。同ジャンル自体が、そもそも1980年代的な未来像の産物であることを踏まえれば、これは偶然の一致というより、必然的な回帰と見るべきかもしれない。

 だが、ここ2〜3年(2023〜2026年)を振り返るだけでも、同種の身振りは枚挙にいとまがない。2025年に発表された『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』は、ほぼひとりの監督の手による3Dアニメーションでありながら、1980年代のOVAを思わせる質感をあえてまとい、2026年には劇場版も公開された。2021年放送の『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』も、2030年という近未来を舞台にしつつ、昭和レトロな家電やブラウン管、旧式デザインのロボットを配し、最新のSF考証とレトロフューチャーな意匠を同居させている。1980年代の日本のポップカルチャーに強く影響を受けたイタリア出身のイラストレーター、ルカ・ティエリの作品群が、2025年に画集として日本初刊行された。

 これらに共通するのは、テクノロジーの進歩そのものを賛美するのではなく、かつて誰かが「こうなるだろう」と夢見た未来のかたちを、いま一度なぞることで、現在の未来観を結果的に問い直している。

 もっと言えば、現代のクリエイターや消費者にとって、「今日的な未来観」――AIやメタバース、Web3といった言葉で語られる、リアルタイムに更新され続ける未来像――は、必ずしも創作やファッションの起爆剤として魅力的に映っていないのではないか。むしろ、一度「終わった」はずの過去の未来像を経由することでしか、いまの閉塞を突破する想像力を立ち上げられない。そうした状況が「レトロフューチャー」の同時多発を生んでいるように見える。

TVアニメーション『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』プロモーションビデオ第3弾|2026年7月7日(火)放送開始

対照的な「GO GHOST」/「Blue」

 この文脈を踏まえたとき、本作の主題歌の布陣は極めて示唆的だ。オープニングテーマ「GO GHOST」を手がけるKing Gnuと、エンディングテーマ「Blue」(feat. Saya Gray, Daniel Caesar)を手がけるMILLENNIUM PARADE。両者はともに常田大希が率いる/主宰するプロジェクトでありながら、その振る舞いは対照的だ。

 King Gnuは、タイアップに積極的なバンドである。『呪術廻戦』をはじめとした人気作のアニメ主題歌を数多く手がけ、そのイメージは作品と分かちがたく結びついてきた。これは本人たちの意図とは無関係な可能性もあるが、姿かたちが具体的でなおかつ演奏もフィジカルな“バンド”という形態は、どうしても有機的な結びつきから逃れられない。それゆえにKing Gnuは、自らの楽曲が特定の物語・特定のキャラクター・特定の感情と結びつくことを回避できないわけだ。

 象徴的なのはTVアニメ『呪術廻戦』「死滅回游 前編」オープニングテーマ「AIZO」が、数多くのMAD動画のテーマ曲(『呪術廻戦』に限らず)として使われ続けている事実だろう。積極的に数多のイメージを引き受けにいく。「GO GHOST」というタイトルからしてすでに、「攻殻機動隊」という具体的な世界観との一体化を志向している。これは、いわば「具体」へと踏み出す音楽のあり方だ。

『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』ノンクレジットオープニング映像|「GO GHOST」King Gnu

 一方のMILLENNIUM PARADEは、これまでのディスコグラフィーを辿るだけでも、ダンスミュージック、ジャズ、ロック、エレクトロニカが渾然一体となった、混沌とした様相を呈している。今回の「Blue」も、Saya GrayやDaniel Caesarといった海外アーティストをフィーチャーし、日本のアニメ主題歌という枠組みそのものを軽やかに越境してみせる。

 MILLENNIUM PARADEもタイアップを引き受けているが、King Gnuと比較すると、属人性が低い。間違いなく常田のプロジェクトなのだが、可能な限り自らと切り離そうとしている。事実、YouTubeで公開されているMVの中で彼らの生身が映されているのは、椎名林檎との共作「W●RK」のみだ。他はライブ映像とプロモーションビデオである。MVとティーザーをわざわざ分けていることから、彼らにとっていかに重要なポイントなのかが窺えるだろう。

 「U」や「FAMILIA」ではタイアップ先の映像がふんだんに使われているが、徹底的に奏者(演者)としてのMILLENNIUM PARADEは排除されている。そこには作品だけがあり、徹頭徹尾受け手に委ねられているのだ。そして今回も、聴き手それぞれのなかにある茫漠とした感覚――「Blue」というタイトルが示すような、名指しがたい感傷――を呼び起こす。これは「不定形」の音楽であり、「抽象」へと向かう音楽のあり方だと言える。

『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』ノンクレジットエンディング映像|「Blue」MILLENNIUM PARADE

具体から抽象へ――OPからEDへの飛翔

 こうして並べてみると、2026年版『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』のオープニングとエンディングは、単に「良い曲を2つ配置した」以上の構造を持っていることが見えてくる。「GO GHOST」が、レトロフューチャーという「あの頃の未来像」を、草薙素子という具体的な身体、公安9課という具体的な物語に引き寄せて歌う。対して「Blue」は、その同じ世界観を、匿名性の高い感傷へと解き放ち、抽象化していく。

 1話が終わるたびに、視聴者はこの往復運動を繰り返し体験することになる。過去の未来像という具体的なモチーフから出発し、物語という枠組みのなかで一度は強く固定されながら(GO GHOST)、エンディングでは再びその輪郭を溶かされ、名づけがたい感覚へと解き放たれる(Blue)。この往復こそが、まさに“現在の未来観”を問い直しているようではないか。

 『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』が試みているのは、懐古でも予言でもない。かつて誰かが夢見た未来像を、もう一度手に取り、そこから新しい「不定形の未来」を立ち上げること。King GnuとMILLENNIUM PARADEという、同じ常田大希を起点としながら正反対のベクトルを持つ2組が、オープニングとエンディングという対の構造のなかで、その運動そのものを体現している。

 多くの人が「今日的な未来像」にうんざりしているのかは定かではないが、少なくともカッティングエッジなアーティストによってそれとは異なる「レトロフューチャー」も展開されている。見えてきた未来が望むものではなかったとしても、また新たに問い直すことができるのだ。それこそが、今回の一連のプロジェクトによってもたらされる救いのひとつと言えるのではないか。

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