常田大希率いる新生MILLENNIUM PARADEの新機軸 グローバル展開でなぜ“4つ打ち”に活路を見出した?
King Gnuのメンバーでもある常田大希が主宰のMILLENNIUM PARADEが7月26日にニューシングル「M4D LUV」をリリースした。この作品にあわせて、MVも公開されている。彼らは今年の5月にアーティスト表記を小文字から大文字へと移行し、米レーベル・EPIC US、並びに英・RCA UKと契約した。改名後初の音源として、本作は「GOLDENWEEK」に続く2曲目である。
いずれの2作は直球のダンストラックだが、個人的な感覚としては新機軸が展開された驚きよりも「ついに来たか……!」という歓喜のほうが大きい。本稿ではこの「M4D LUV」について、ダンスミュージックの視点から紐解いてみたい。
本作リリースにあたり、常田から寄せられた公式コメントは以下の通りである。
最近では日々“踊れる音楽”ってものと向き合っている私ですが、これぞ新生MILLENNIUM PARADEに相応しいものが作れた事が自分自身とても嬉しいです。
誰もが踊れるパルスを持ちながら、それでいて同時にプログレッシブなエッセンスをもしっかり内包できましたので音楽家としての自分の進化を実感できた曲であります。
M4D LUVを聴きながら日常を踊ってください。
「最近」が具体的にいつなのかは不明だが、常田並びに自身のクリエイティブチームPERIMETRONがダンスミュージックと繋がりを持ちそうな場面はこれまでに何度もあった。主に小文字のmillennium parade期にはermhoi(Black Boboi)や江﨑文武(WONK)が音源の制作やライブパフォーマンスに関わっていたし、彼ら/彼女らはオールナイトのクラブイベントでも度々ブッキングされている。
2019年~2023年までinterfmにて放送されていたラジオ番組『PERIMETRON HUB』にも目を向けてみよう。パーソナリティを常田とPERIMETRONのクリエイターである佐々木集が務め、同番組は全209回にわたって放送されてきた。常田は第35回をもって離脱したが、その後は同じくPERIMETRONの神戸雄平が後を継ぎ、自身らが注目するカルチャーやエンタメを語り合った。この番組には彼らと親交のあるアーティストがゲストとして招かれており、その中にはダンスミュージックを重要なリファレンスとして採用しているバンド・yahyelやDATSのメンバーも含まれる。
millennium paradeが2020年4月に配信リリースした「Fly with me」では、「Fly with me – Steve Aoki Neon Future Remix」としてアメリカのプロデューサー/DJ・Steve Aokiがリミキサーとして参加し、ミッドテンポなインダストリアルベースに仕上げていた。
このように、「我々の目に見える範囲」にすら、MILLENNIUM PARADEからダンスミュージックに繋がるルートは確認できた。ゆえの、待望。そして常田が言うように、「プログレッシブな」要素も確かに見受けられるので、それについても触れてゆきたい。
筆者は「GOLDENWEEK」と「M4D LUV」について、“直球のダンストラック”だと書いた。これが、今日ではかなり主観的な表現だと断っておかなければならない。というのも、ポップミュージックの側から見ると、そもそも“直球”ではない可能性があるからだ。
ダンスミュージックにおいて、恐らく最も支配的なビートがイーブンキック(いわゆる4つ打ち)である。ハウスしかりテクノしかり、多くのアンセムはBPM130前後の等間隔に打ち鳴らされたリズムを孕む。そしてこのイーブンキックはあらゆるジャンルで普遍的に使われており、ドラムとキックがある限りもはや不滅と言って差し支えないだろう。
その優位性は変わらないように感じるが、昨今のポップミュージックを見渡すと緩やかにリズムのパラダイムシフトが起きているようにも見える。NewJeansが2022年12月にジャージークラブを携えたスーパーキラーチューン「Ditto」をドロップし、今年1月にリリースされたCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」とNumber_iの「GOAT」によって、等間隔のキックに亀裂が入る。
北米のチャートに視点を移しても、カミラ・カベロが「I LUV IT」でジャージークラブ的なリズムを採用し、ポーター・ロビンソンも「Knock Yourself Out XD」で実に見事なビートを鳴らしている。ちなみにこの2曲は、音楽批評サイト『Pitchfork』で「BEST NEW TRACKS」の評価を受けた。
こうなるとイーブンキックの支配に陰りが見え始める。すなわち、「今ここ」のリスナーの耳にはかつて“直球だった”リズムが新鮮に聞こえる可能性があるのだ。あるいはまさに、“待望の”4連打なのだろうか。Charli xcxが「GOLDENWEEK」とほとんど同時期に『BRAT』をリリースし、クラブミュージックの「ド真ん中」を貫いてきたが、これには同時代性を感じざるを得ない。
Charli xcxはA・G・クックや故・SOPHIEらと共にバブルガムベースやハイパーポップの荒波を乗り越え、リズムに特徴のある楽曲をいくつも世に送り出してきた。そんなディーヴァが、「Club classics」というそのものズバリなタイトルを付けてイーブンキックのダンストラックを出してきた。しかもこの曲、途中までジャージークラブのリズムで、そこから4つ打ちに変化するのである。
つまり今、4つ打ちがすこぶる面白いのだ。それこそプログレッシブにも感じられる。「M4D LUV」の話に戻るが、この曲、もちろん4つ打ちであること以外にも白眉はある。今一度、特定の箇所から聴いてもらいたい。