SEKAI NO OWARI「眠り姫」が愛され続ける理由 「Happy Ending Version」が奏でる重ねた歳月を慈しむ響き

 SEKAI NO OWARIの楽曲「眠り姫(Happy Ending Version)」が話題だ。同曲は、デビュー15周年という節目に、代表曲「眠り姫」を再録したアニバーサリー作品。5月11日の配信リリース、そして同日放送の『CDTVライブ!ライブ!』(TBS系)での披露を機に、SNS上では「懐かしい」「よく聴いていた」「やっぱり名曲」といった声が溢れた。5月15日にはYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』にSEKAI NO OWARIが初登場し、一発撮りパフォーマンスを公開。コメント欄には、彼らの楽曲とともに人生を歩んできたリスナーたちが集まった。

SEKAI NO OWARI - 眠り姫(Happy Ending Version) / THE FIRST TAKE

 「眠り姫」は、SEKAI NO OWARIが2012年にリリースしたシングルの表題曲だ。しかし初披露は、2010年12月のワンマンライブまで遡る。この曲の作詞作曲を手掛けたFukaseは、「パッと出してサラッと消化されたくない」という思いから、ベストな完成形を追求し、リリースのタイミングを窺っていたと語っている(※1)。それだけ大切に温めてきた曲だった。

SEKAI NO OWARIがポップスへ手を伸ばした転換点

 「眠り姫」は、A~Bメロとサビでテンポが異なる構造が特徴的だ。1番Bメロとサビの境目には、ドラムによる1小節にわたるフィルが配置されている。1番サビと2番Aメロの間の切り替えも、バスドラムとハイハットのビートによって接続されている。2番Bメロとサビへ向かう場面では、ボーカルのロングトーンの裏で演奏のテンポがゆるやかに落ちていく。いずれもかなり大胆な手法であり、14年前に初めて聴いた時は正直面食らった。DJを擁する彼らの編成だからこそ可能だったアレンジだろう。

 演奏は、Fukase、Nakajin、Saori、DJ LOVEのメンバー4人のみで完結している。そのサウンドにはどこか手作りの温度感がある。当時の彼らは、仲間たちとともにライブハウス「clubEARTH」を自ら作り上げ、共同生活を送りながら活動していた。現在の洗練されたサウンドと比べれば粗削りな部分もあるが、そのDIY的な質感こそ、「眠り姫」が持つ温かさの源だったのだと思う。

 音像は温かく、素朴でメルヘンな響きを持っている。コード進行には王道のパターンが用いられている。大胆なテンポチェンジを内包しながらも、誰もが口ずさめるメロディで、間口の広いポップスとして制作された「眠り姫」。この曲はSEKAI NO OWARIにとって大きな転換点でもあった。当時のインタビューで、Fukaseは「自分たちが過激なロックバンドとしてやっていくのか、それとも過激なロック性とポップ性を持った二面性でいくかを考えていた時に、この楽曲ができた」と振り返っている。また、Nakajinは、「ロックって、エンタテインメントという大きな枠の中のひとつでしかなくて。その小さな枠には止まりたくない」と語っていた(※1)。

 今のSEKAI NO OWARIに対して、“ロックバンド”というイメージを強く持つ人はそこまで多くないかもしれない。しかし、かつて“世界の終わり”という表記のバンド名を掲げ、真っ白な衣装を纏って現れた彼らは、その音楽性も含めセンセーショナルな存在だった。どこか不穏で危うい空気を漂わせながら、驚くほど人懐っこく、メルヘンでもある。「眠り姫」は、そんな彼らが明確にポップスへと手を伸ばした一曲だった。

歌詞から滲み出る切実な感情をポップスに昇華したバランス感

 歌詞に焦点を当てると、「ずっと一緒にいたい」「死なないでほしい」という思いを歌ったセカオワ流のラブソングと言える。〈ボーっと火を吹くドラゴン〉〈勇者の剣〉〈星が降る夜〉といった言葉選びはファンタジーの冒険譚を連想させる。しかし歌詞を読むと、眠る〈君〉の傍らにいる〈僕〉が〈このまま君が起きなかったらどうしよう〉と最悪の未来を想像し、ただ寝顔を見守る物語であることが分かる。王子のキスで姫が目覚める童話『ねむりひめ』とは違い、この曲の語り手である〈僕〉は、自分にそんな力がないことも、そもそも人の命は永遠でないことも分かっている。「~きたけど」「~たね」という過去形の蓄積は「でも、もうすぐ終わる」という不安の根拠として機能しており、〈いつかは いつの日かは〉と言い直すことで、漠然とした恐怖を避けられない未来として捉え直している。

 この曲の制作背景について、Fukaseは自身のSNSでこう明かしている。

 「眠り姫」はCLUB earthで四人で折りたたみベッドを並べて寝てた時、隣だった寝てるサオリちゃんを横目で見ながら作った曲です。彼女が俺をここまで来るまで全部投げ打ってついて来てくれました。(※2/原文ママ)

 そもそもFukaseは、“仲間と楽しむ”ことを目的に音楽を始めた人だ。活動の拠点を自分たちの手で作り上げ、4人で生活をともにしながら、楽曲制作やリハーサルに明け暮れる――その日常こそが、彼にとって音楽を続ける理由だった。仲間の寝顔は幸せの象徴。その寝顔を眺めながら、ふと「このまま目を覚まさなかったら」という恐怖がよぎる。そんな感情から、この曲は生まれている。だからこそ、「眠り姫」は長く愛され続けたのだと思う。不安や孤独、大切な人を失うことへの恐れ。そうした個人的で切実な感情を内向きな叫びではなく、誰もが口ずさめるポップスとして成立させることで、この曲は多くの人の心の拠り所となった。

Nemurihime

豊かな音像と成熟した歌声がもたらす新たな感動

 15周年という節目に再録された「眠り姫(Happy Ending Version)」は、原曲の魅力を残しながらその印象を大きく変化させている。イントロやテンポ切り替え時のアレンジなど、リスナーの耳に馴染んでいる要素は踏襲されている一方で、サウンド面は大幅に刷新された。さらにオーボエ、フルート、クラリネット、ファゴットといった木管楽器も加わっている。原曲が持っていた温かな雰囲気はそのままに、生楽器ならではの呼吸や奥行きを伴った、より豊かな音像へと生まれ変わった。アレンジの細部も変化している。特に印象的なのが、サビで鳴るストリングス。連符の滑らかなフレーズが楽曲全体にやわらかなうねりを与えている。

 Fukaseのボーカルも大きく変化した。かつての歌声にはどこか切迫感や危うさが滲んでいたが、現在の歌唱には深みと穏やかさがある。原曲がいつか来る終わりを見つめる歌だったとすれば、「Happy Ending Version」から強く伝わってくるのは過去への慈しみだ。終わりが避けられないことを知ったうえで、それでもともに過ごした時間を愛おしむような響きが、現在の歌唱には宿っている。仲間と肩を寄せ合いながら、先の見えないまま音楽シーンへ漕ぎ出していった彼らが、重ねた歳月を抱きしめるように今この曲を歌っている。タイトルに付けられた「Happy Ending」という言葉もまた、その時間の積み重ねを象徴しているように思える。

Nemurihime (Happy Ending Version)

 SNSに溢れていた「懐かしい」という声は、単なるノスタルジーではないのだろう。当時「眠り姫」を聴いていたリスナーたちもまた、この15年を生きてきた。だからこそ今改めて歌われる「眠り姫」は、過去を抱えながら未来へ進むための曲として響いているのかもしれない。

※1: https://mfound.jp/interview/sekainoowari.html
※2:https://x.com/fromsekaowa/status/451383158961762306

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