Fukaseの表現はなぜヒップホップへ向かったのか? ソロ活動で浮かび上がったルーツから分析

 SEKAI NO OWARIのFukaseが自身のソロプロジェクトを本格始動させ、1stシングル「Bad Entertainment」を配信リリースした。

 この楽曲はLLクール・JやPublic Enemy、ジェイ・Z、カニエ・ウェストなどの数々の名盤をリリースしてきたヒップホップ界の名門レーベル・Def Jam Recordingsより発売。SEKAI NO OWARIでの音楽とはまた違う、彼のヒップホップ愛を詰め込んだものになっている。

 とはいえ、リスナーによっては“Fukase”と“ヒップホップ”の組み合わせを意外に感じる人もいるかもしれない。そこで今回は、彼とヒップホップのつながりについてまとめたい。

ラッパーになるか迷っていた過去

 SEKAI NO OWARIではポップスやロック、クラブミュージックなど、ありとあらゆる音楽を呑み込んだ楽曲を生み出しているFukaseだが、彼のルーツがジャパニーズヒップホップにあることはファンにはよく知られている。というのも、彼は音楽を始めた当初、バンドを組むかラッパーになるか迷っており、自分の声質の相性を考えて最終的にバンドを選択(※1)。それがSEKAI NO OWARIの結成に繋がっている。

 中でも当時ハマっていたのが “ハマの大怪獣”ことOZROSAURUS。「YOKOHAMA blues」や「炎と森のカーニバル」など、SEKAI NO OWARIの曲に横浜が度々登場するのは、実はOZROSAURUSの影響が大きいそうだ(※2)。日本のヒップホップが盛り上がる契機となった『さんピンCAMP』周辺の音楽にも触れており、2016年に開催された20年ぶりの復活イベントには、彼も実際に足を運んでいる(※1)。また、ファッション面でもヒップホップに影響を受け、高校生時代には「K・SWISS」のスニーカーや、「Def Jam Recordings」の創設者であるラッセル・シモンズのブランド「Phat Farm」などを好んでいたそうだ(※3)。

 こうした背景もあり、SEKAI NO OWARIの活動からもヒップホップの影響を見つけることができる。まず思いつくのは、バンドの活動形態や成り立ちについてだろう。

コミュニティの連帯を大切にするバンドの精神性

 SEKAI NO OWARIは活動初期、東京都大田区にある工場を作りかえてライブハウス「club EARTH」を設立し、そこに住み込んで活動をしていた。バンドメンバーはもちろん、周りでサポートをしてくれるスタッフにも地元の友達が多く加わり、親しい仲間たちで共同体を作る様子は、コミュニティの連帯を大切にするヒップホップマインドに通じるものを感じる。

 また、1DJを加えてさまざまな楽器を鳴らす様子もヒップホップバンドに近い。「バンドらしい要素」に「バンドらしくない要素」が加わることで、自分たちをどんな姿にも変えられるSEKAI NO OWARIらしさが生まれているように思える。

 さらに、楽曲においても「ANTI-HERO」(2015年)や「Like a scent」(2021年/『scent of memory』収録)などでラップを披露。さらに「Habit」(2022年)では、直接的にヒップホップからの影響が感じられる。その中でも自身の過去がテーマと思しき「Like a scent」では、坂本龍一の「Happy End」をループしたトラックでFukaseは喋り言葉にも近い、ラップにも近い形で歌っている。コラボレーションにおいては、End of the Worldとして2018年に韓国のEPIK HIGHと制作した「Sleeping Beauty」も記憶に新しく、ここでは生楽器を活かしたオーガニックなサウンドを聴かせてくれる。

Like a scent

 直接的にヒップホップを取り入れた曲以外でも、Fukaseは時折リズムやビート感を重視してメロディを歌う瞬間があり、歌においてもラップの影響は表れていると言っていいだろう。その影響が特に顕著だった2010年のインディーズデビューアルバム『EARTH』の頃から現在に至るまで、ヒップホップはいつも彼の側にあったのだと思う。

 とはいえ、SEKAI NO OWARIでのボーカルに言えるのは、一部の例外を除いて、ラップ的な歌を歌う瞬間に韻を踏んでいない場合が多いこと。しかし、今回のソロ1stシングル「Bad Entertainment」では、彼が本格的に韻を踏んだラップを披露している。

Fukaseが「Bad Entertainment」で見せた新たな表現

 「Bad Entertainment」は自身でトラックをプロデュース。ビンテージ感のあるジャズサウンドが心地よいトラックに、世相を皮肉ったりからかったりするFukaseのリリックが乗り、全編通してSNSなどで蔓延る嘘やゴシップ、人々の自我などが垂れ流される現代の空気を、“Bad Entertainment”として魅力的に描いている。その様子はまるで、現代エンタメの多様性を詰め込んだ賑やかなサーカスのようだ。MVも自らストーリー原案や企画などすべてをプロデュースし、監督も務めている。

Fukase「Bad Entertainment」

 楽曲全体を通して、SEKAI NO OWARIでのメロディを大切に生かすような歌とは異なる表情豊かなラップが広がっていて、このプロジェクトが自身の中でのバンドとはまた違った興味を表現するものだと伝えるよう。自身のルーツの一部を拡大して、興味が赴くままに冒険を繰り広げるような自由な雰囲気がとにかく楽しい。

 12月26日にはソロ名義でのアルバム『Circusm』をデジタルリリースする。タイトルは“circus”(サーカス)に“sarcasm”(皮肉/からかい)を合わせた彼の造語で、「現代社会、メディアの両面性と多様性について表現するアルバム」になるという(※4)。この作品ではさらにヒップホップを追究しているのだろうか? どんな内容になるのか注目したい。

※1:https://highsnobiety.jp/p/highsnobiety-issue03-fukase/
※2:https://www.cinematoday.jp/news/N0123896
※3:https://www.fashionsnap.com/article/marchbyamazon-badmood/
※4:https://www.instagram.com/p/DRmCbrZk-9w/

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