放送20周年『涼宮ハルヒの憂鬱』一般層にまで届いた音楽の力 「ハレ晴レユカイ」「God knows…」が今に与えた影響とは
谷川流のライトノベルを原作としたTVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』(チバテレビほか)が今年4月で放送20周年を迎え、あらためて注目を集めている。本人に自覚はないながらも超常現象を引き起こしてしまう唯我独尊な女子高生・涼宮ハルヒと、彼女が団長を務める学校未公式団体・SOS団が織り成す少し不思議な学園生活を描いた本作。TVアニメは2006年に第1期、2009年に第2期が放送、2010年には劇場作品『涼宮ハルヒの消失』が上映され、いずれも大きな話題を呼んだ。その後もスピンオフ作品が多数制作され、メモリアルイヤーとなる今年は「涼宮ハルヒの御礼」プロジェクトが本格始動し、『涼宮ハルヒの消失』のリバイバル上映やTVアニメの地上波再放送、Netflixでの配信開始など、さまざまな施策が行われている。
本シリーズが長く愛されている理由として、ハルヒや主人公のキョンをはじめとする魅力的なキャラクターたちやタイムリープなどのSF要素を取り入れた物語の面白さ、京都アニメーション制作によるアニメーションそのもののクオリティ、演出/構成のインパクトや巧みさなどいくつもの要因が挙げられるが、そのなかでもとりわけ大きいのが音楽の力だろう。20年が経った今でも色褪せることなく支持され、平成アニソンの代表格として燦然と輝き続ける『ハルヒ』の音楽がもたらした衝撃と影響について、あらためて紐解きたい。
「ハレ晴レユカイ」というアニメ史における転換点
『ハルヒ』の音楽を語るうえで絶対に欠かすことのできない楽曲、ある意味、作品の枠を超えてポップカルチャーに影響を与えた作品が、TVアニメ第1期のエンディングテーマ「ハレ晴レユカイ」(2006年)だ。ハルヒ役の平野綾、長門有希役の茅原実里、朝比奈みくる役の後藤邑子というSOS団の女性キャラクター3名の声優が歌唱する本楽曲。作詞は畑亜貴、作曲は田代智一、編曲は安藤高弘が担当しており、音楽的にはシンセサイザーのキャッチーなフレーズと小気味よいリズムに3人の明るく華やかなボーカルが躍動する、前年にヒットしたTVアニメ『魔法先生ネギま!』(テレビ東京系)のオープニングテーマ「ハッピー☆マテリアル」(2005年)の系譜に連なる2000年代アニソンのど真ん中を行くようなポップソングと言えるだろう。
歌詞においては、作詞家の畑はプッチーニのオペラ『蝶々夫人』の夫の帰りを信じて待つ蝶々夫人=何かが起こることを待っている女性像に対し、自分から何かを起こしたり引き寄せようとするアクティブで現代的(≒ハルヒ的)な女性像をイメージして書いたとインタビューで言及しており(※1)、それがサビ頭の印象的なフレーズ〈アル晴レタ日ノ事〉(『蝶々夫人』第二幕のアリア「ある晴れた日に」のオマージュ)やハルヒらしさに繋がっている。〈スキでしょう?〉などの畑らしい言葉遣いを含め、同じく畑が作詞した平野によるTVアニメ第1期のオープニングテーマ「冒険でしょでしょ?」(2006年)とともに、ハルヒや作品のイメージだけでなくポップスとしての同時代性を落とし込んだのが本楽曲なのだ。
そういった音楽的な魅力を基盤としつつ、「ハレ晴レユカイ」が当時ゴールドディスクに認定されるほどのヒットを記録した最大の理由、それがエンディングアニメーションのダンス、通称“ハルヒダンス”の流行だ。本作のエンディングアニメは、先述のハルヒ、長門、朝比奈に主人公のキョンと古泉一樹を加えたSOS団全員が、楽曲に合わせてダンスするシーンを中心に構成。その振り付けをマネて踊る行為がファンのあいだでブームとなったのだ。
いわゆる“振りコピ”と呼ばれる文化は、遡ると1970年代のピンク・レディーの頃から、主にアイドルを応援する、もしくは自身がそのアイドルになり切る“ごっこ遊び”の一種として親しまれてきた。その延長線上にあるもの、作品やキャラクターに対する愛情表現や作品の世界観に自身が入り込む“コスプレ”的な欲求を満たす活動として、ハルヒダンスは多くのファンの心を捉えた。振り付け自体も日本のアイドルのダンスを意識したもので難易度はそれほど高くなく、なおかつダンスのアニメーションがしっかりと作り込まれていたことも、振りコピしたくなる要因になったはずだ(エンディングアニメではダンスシーンは一部カットのみ使用されたが、DVDの特典映像でTVサイズのフルバージョンのダンスが公開された)。
さらにそのダンスが、当時インターネットで普及し始めていた動画共有サービスで人気を集めることに。特に『ハルヒ』の放送と同じ2006年にサービスを開始したニコニコ動画を中心に、ハルヒダンスをネタにした動画やユーザー自身がダンスする動画が多くアップされ、作品の枠を超えて波及。結果としてアニメ自体の人気の底上げに寄与することとなった。これはUGC(ユーザー生成コンテンツ)によるバズヒットの先例であり、2007年にニコニコ動画でタグが生まれたことが起源とされる“踊ってみた”の礎となった出来事でもある。
その後、ボーカロイド楽曲に振りを付けて踊ることが流行り、“踊ってみた”は文化として定着。さらにパパイヤ鈴木が振り付けを担当したAKB48「恋するフォーチュンクッキー」(2013年)やドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のエンディング映像をきっかけにブームとなった星野源「恋」(2016年)の“恋ダンス”などを経て、SNSでダンス動画を共有する行為は広く一般層にも浸透していった。近年のアニメ主題歌で言えば、TVアニメ『マッシュル-MASHLE-』第2期(TOKYO MXほか)のオープニングテーマだったCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」(2024年)もオープニングアニメのダンスとの相乗効果でヒットを記録したわけだが、「ハレ晴レユカイ」はそういった成功事例が生まれる土壌を作った、転換点とも言うべき革命的な作品でもあったのだ。























