Nikoん「今、日本で一番カッコいいバンド」 音に宿る“情緒”ーー47都道府県ツアーで得た自信を示したステージ

私のように普段から時代も国もチャートもあまり関係なく音楽を聴いている人間からすると、聴きたい音楽がストリーミングやサブスクにない、というのは当たり前のようによくある話で、あるいは「数年前のあの日のライブで聴いた、あの日だけの演奏の、あのバンドのあの曲」みたいなものは、もう一生聴くことができないわけで(いくらその日のライブ盤が発表されても、現場で聴くのと音源とではもう全然別物、みたいに感じられる可能性だってあるわけで)、あるいは「あの日あの子が歌った鼻歌」みたいなものも2度目を聴ける可能性はなかったりするわけで、つまり、ずっと記憶の中で再生し続ける音楽もあるわけで、「音楽はどこにあるのか?」というのは難しい話である。でも、その難しさは、時々切ない希望である。いや、そもそも難しい話などではなく、シンプルに、音楽は響いている場所にあるのだ。ただ、「同じものが、いつでもそこにあるはず」という過剰な幻想を抱くことは、ときに人を苦しめてしまう気もする。それは音楽に限った話ではないのだが。
Nikoんは、昨年1月にそれまで行っていたストリーミング配信をすべて停止し、9月には2ndアルバム『fragile Report』をCDのみでリリースした。彼らの選択は、間口を狭めて聴き手をふるいにかけようとした、というより、むしろそれとは真逆で、音楽の先に広がる広漠とした領域、そこにある数多の可能性を感じ取っているからこその判断だったのだろう。
そんな2ndアルバム『fragile Report』のリリース後、Nikoんは47都道府県を回るツアーに出た。ツアータイトルは『アウトストアで47』。『fragile Report』のCDを購入した人は無料で参加することのできるツアーである。そのツアーの東京公演(一応ファイナルと銘打たれてはいるのだが、実際はそのあとに沖縄公演があったので、実質的にはセミファイナル)が、2月15日、SHIBUYA WWWにて開催された。このツアーは各地にゲストアクトが招かれていて、東京公演のゲストはFallsheepsと神々のゴライコーズ。今年1月にも、長野県・伊那 GRAMHOUSEで3マンライブを開催している3組による対バンである。一応、Nikoんは正式メンバーがふたり、ドラムはサポートという形なのだが、結果的にこの日のステージに立った3バンドすべてが「3ピース編成」でのライブを行うバンドだった(もちろん、ライブ中はそこにさまざまなゲストが行き交っていたのだが)。「同じ3人でステージに立つにしても、こうも違うか」と思えるくらいに3バンドがそれぞれ違った生き様を音楽によって表現していて、しかし同時に、「でも通じ合っている」という幸福感もまた、会場を支配していた。私が開演前に会場に入ったら、そこではエリック・B&ラキムのぶっといビートとラップが流れていた。
1番手に登場した神奈川県横須賀市出身の3人組バンド Fallsheepsは、約40分間のステージを通して、見事に観客を自分たちの世界に没入させた。“ギターロック”と簡単に書いてしまえば淡泊だが、Fallsheepsは曲によって儚いメロウネスも激しいファンクネスも見事に操り、曲は決して一本調子ではない。そして、ラスト2曲に演奏された「こころをだいじに」と「snowyyy-」は圧巻の演奏だった。“俺は俺である”という原初的な状態に向かって、バンドが一丸となって潜っていくような演奏。しかも、もはや3人が向き合って演奏しているにも関わらず、生まれる音楽は決して閉じ籠ったものではなく、開かれたもので、“俺は俺である”という確信が音の渦になって、フロアを清々しく飲み込んでいくようだった。


2番手の神々のゴライコーズのライブは、もはや“祭”の様相だった。ドラム&ボーカル、ギター、ベースが縦横無尽に動きまくる、血沸き肉躍るリズム。生活と心の片隅から零れ落ちてきた叫びのような歌。そのパワフルな演奏にどうしようもなく体を突き動かされながら、時々無性に「懐かしい」という気持ちが湧き上がってくる瞬間があり、しかし「懐かしい」は「自分を取り戻す」ときに感じることだから、その胸を締めつけるような懐かしさは、とても幸福なものだった。「just city」ではNikoんのマナミオーガキ(Vo/Ba)がゲストボーカルで登場し、「レインボーロード」ではバンド・くぐりの和田知久(Vo/Sax)がサックスとして登場。神々のゴライコーズの3人のコーラスから始まる「らりたった」も名曲だった。



そして、トリに登場したNikoん。1曲目は2ndアルバムと同じく、アルバムの表題曲「fragile report」からスタート。サポートドラム・東克幸(Dr)による、沸点ギリギリの状態をキープしながらも時折どうしようなく感情が弾けて、また収束していくような、そんな情景を想像させるドラムプレイも素晴らしく、Nikoんの生み出す情緒的な世界に観る側も引きずり込まれていく。“情緒”と言っても、それは「風流ですねえ」なんて言いながら眺めていられる類のものではなく、疲弊と、喜びと、答えのない問いと、選択と、後悔と、また次の選択によって繋いでいく僕らの生活に絡みついてくるような情緒。



オオスカ(Vo/Gt)の奏でる豊かな音色のギターは、人間という生き物が如何に止め処なく溢れる“感情”や“思考”を浅はかな正論などではコントロールし得ないかを表しているようであり、思考と感情を見つめながら、思考と感情に飢え続けているようだった。マナミオーガキの歌声には、歌を“発散”には利用しないような芯の強さがあり、歌に刻まれた人間の生の感触を、確かに“存在”として今この瞬間に着地させていく力強さがあった。Nikoんはボーカリストがふたりいるバンドだが、この日は2ndアルバム収録曲が網羅的に披露されたこともあり、『fragile Report』でメインボーカルを取ったオーガキの歌声が大きく響いた夜だった。

東の柔軟なドラムプレイが深い情景を生み出した「dried」、鋭利でファンキーな「さまpake」、FallsheepsのItsuki Kunとラッパー €NELがゲストとして登場した「とぅ~ばっど」、ニューウェイブチックなサウンドが現実を突き刺すように響いた「靴」……『fragile Report』収録曲を中心に、音楽というものがどれだけ人間の生活や感情を激しく、美しく、表現に昇華し得るのかということを証明するようなライブだった。


MCでは、オオスカが47都道府県ツアーを回ってきた感想を語る場面があった。彼は「この47都道府県ツアーを回って、自分は人間として変わった」と告げると、続けて「ずっと『自分はいい人間じゃない』と思っていたけど、このツアーを回って自信がつきました。僕に対してではなく、バンドに。だから、たぶん大丈夫です」と告げた。そして、「大体みんな、やりたいことをやっている。それに帰結するんです」と、47都道府県を回り、多くの人たちに出会ったからこそ得たのであろう、生きるうえでの希望となり得る確信を彼は言葉にした。そして最後に言った。「今、日本で一番カッコいいバンドが、Nikoんです」。
アンコールはなく、スパッと終わるライブだったが、その潔さもよかった。ラストに披露された「(^。^)// ハイ」には、光に包み込まれていくような神々しさがあった。Nikoんの音楽には、混乱が、生活の澱が、答えのない問いが、たくさん刻み込まれている。でも、きっと彼らは一貫して、光に向かって走ろうとしている。彼らは、そのためのコンパスだけは見失うことはないだろう。もし見失っても、また目を凝らして拾い上げるんだろう。この夜のライブを観て、そんなことを感じた。
■ライブ情報
『hitomiとNikoん / LIVE TOUR 2026』
・2026年3月04日(水)/愛知県・名古屋 RAD HALL
・2026年3月10日(火)/大阪府・難波 Yogibo META VALLEY
・2026年3月18日(水)/東京都・新代田 LIVE HOUSE FEVER
出演:hitomi(BAND SET)、Nikoん
前売り:¥3,900
イープラス:https://eplus.jp/hitomi_niko-n/
ぴあ:https://w.pia.jp/t/hitomi-nikon-o/
ローソン:https://l-tike.com/hitomi-nikon/
※ 3月28日(土)に開催されるhitomiのワンマン公演、あるいは、3月2日(土)に開催されるNikoんのワンマン公演、いずれかのチケットをお持ちの方は、当日会場にて1,000円キャッシュバック。























