Nikoん、音楽で焚きつけていく本音 生きづらい世界のヒリついたロックーーその“真意”に迫る

Nikoん、ヒリついたロックの“真意”に迫る

 9月24日に2ndアルバム『fragile Report』をリリースした二人組、Nikoん。サブスクリプションサービスを含めデジタル配信を行わず、CDでのリリースにこだわる上、同作を購入した人は47都道府県ツアーのうち1公演を無料で観られるという、他にはない活動スタンスを取っているバンドである。後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)や福岡晃子(ex.チャットモンチー)といった多くの音楽人も賞賛するNikoんとは、一体どんな人たちなのだろうか。

 以下は、渋谷 CLUB QUATTROでのライブ『Nikoん 1st album "public melodies" release extra tour final「(no)public melodies」』を目撃した音楽ライター・黒田隆太朗氏がNikoんに取材を行い、そこでの発言を中心に構成したコラムである。Nikoんの音楽に込められた意志、Nikoんの思考とはどのようなものなのか。ぜひ各々で感じながら読んでいただきたい。(編集部)

Nikoん 撮り下ろし写真

ーー今の軽薄な社会を見ていると、みんな自分の人生を生きていないのではないかと思う時があります。

オオスカ:まあでも、しょうがないんですよ。軽薄にせざるを得ない状況があると思う。今の世界、自分の人生を生きづらいんです。何か思いのこもったことを大事に発言したとしても、それが世間から見て少数派の意見だったら糾弾されるわけですよね。それは誰だって怖いじゃないですか。

「頼むから放っておいてくれよ」

 元気? あるわけないだろ。いつからこんな陰惨な社会になってしまったのか。私と言えばすっかり眠れない日が増えている。大体、地元の好きなパン屋もラーメン屋も古本屋も次々と潰れていくのである。書店に行っても海外の小説コーナーは縮小の一途を辿っており、ほんの気持ち程度にしか置かれていないのが実情だ。まあ、(とりわけコロナ禍以降の)東京都外で生きる者のリアリティはこんなものだろう。大事なものから消えていく。

 タイムラインに流れてくるのは排外主義と歴史修正主義ばかりでうんざりする。互いに監視し合うSNS社会においては、一歩でも規範から踏み外そうものなら「正論」の名の下に袋叩きにされるわけである。自分と違う意見を叩き潰したいという欲求は、不安の裏返しだろうか? 「今の世の中、自分の人生を生きづらいんですよ」というのはまさしくそうで、本当に何と言えばいいのか……そう言えば、先月行われた渋谷 CLUB QUATTROでのNikoんのライブのMCで、オオスカ(Gt/Vo)はこんなことを話していた。「SNSで誰かが言ったことを、自分が考えたかのように話しているように感じた。自分の言葉じゃない言葉がどんどん入ってきているのに、それを自分の言葉みたいに語っている気がして嫌だった」。まさに村田沙耶香の『世界99』のような世界じゃないか。この社会においては自分の「本音」や「願い」を見つけるのも、もはや簡単ではないのだろう。

 だから正しいと思う。「頼むから放っておいてくれよ」と言ったNikoんは正しい。「俺たちは好きなことをやるから」。そう、それは萎縮する社会に対するささやかだが誠実な抵抗である。何よりも暗い時代を楽しく生きるコツだろう。

Nikoん 撮り下ろし写真

 昔から不機嫌そうな声が好きだった。あるいは所在なさげな声が。渇いた歌が、反抗的なサウンドが、挑発的な音楽が好きだった。親しみやすいリズムやメロディがありながら、どこかに毒を含んだロックバンドに惹かれてしまう。Nikoんの音楽はこんなにポップなのに、なぜ浮かんでくるのはざらついた心象なのだろう。「彼らは何に楯突いているんだ?」ーーNikoんを初めて聴いた時に浮かんだのはそんな思いである。

 Nikoんに関してはそう、まずはアーティスト写真が印象的だった。会議室に佇む仏頂面の男と女ーー「ここが自分たちの居場所じゃない」とでも言いたげだ。それでいてこちらを見つめる(アザーカットの)オオスカの目には主張が漲っており、頭を刈り上げた表情からは、無駄なものを削ぎ落としたサウンドを想像させるではないか。しかし何より1stアルバム『public melodies』に収録された「ghost」である。暗闇がのしかかったような重たいベース、強い歪みがかかった仄暗い空気を纏うギター、オオスカの渇ききった声もおあつらえ向きである。〈光を 光を 光を 正しく見てる〉という歌は、むしろ底から光を求めて喘いでいるような飢餓感を抱かせる。この1曲がなければ、このバンドにこれほど興味を抱くことはなかったかもしれない。

 サザンオールスターズ『キラーストリート』のセルフライナーノーツで、「ロックンロールとは悲しみを大声で歌ったものである」と桑田佳祐は書いている。全くもってその通りだと思う。あるいは悲しみだけではない。ロックンロールには引き裂かれた内面(鬱屈とした精神、その憂鬱な思い)をアンプリファイする力がある。「Nikoんは今後どういうバンドになりたい?」という質問に、オオスカは「ロックバンドであり続けたい」と返してきた。「何にもこだわらない、素直に自分たちが思っていることをやるだけ。すべてを削ぎ落として、自分がカッコいいと思うことをやる。それがもし人と違ったとしても、素直に生き続けることが俺の中でのロックバンドだから」。この寄る辺のない人生に、夢を見ることが難しくなったご時世に(このご時世だからこそ?)、Nikoんは不器用なくらい矜持を持ってロックバンドをやっている。〈悲しみだって苦しみだって/誰も奪えやしないさ〉(「mouton」)。

Nikoん 撮り下ろし写真
オオスカ(Gt/Vo)
Nikoん 撮り下ろし写真
マナミオーガキ(Ba/Cho)

 しかしまあ、私はこのバンドに関しては新参者である。Nikoんの音楽に出会ったのは2025年の春頃で、その時の彼らと言えば、ちょうどサブスクリプションサービスからの撤退を表明した時期だった。つまり出会うと同時にオンライン上から姿を消した二人組である。ということで、Nikoんに聞いてみたいことは山ほどあった。限られた時間で話せたことは僅かだが、その精神の一端に触れることはできたのではないだろうか。9月上旬、Nikoんの二人ーーオオスカとマナミオーガキ(Ba/Cho)に会うために下北沢に足を運んだ。同地にある雑誌編集部に勤めていた頃にはホームのように感じていたこの街も、数年前から加速度的に開発が進み、今はもう他人のようによそよそしい。簡単な挨拶を済ませた後、「生涯で最も聴いた音楽は何ですか?」という質問からインタビューを始めた。

オオスカとオーガキ、二人のルーツや趣向性を紐解く

 1問目から熟考……「凛として時雨」と答えたのがオオスカで、「アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)」と答えたのがオーガキである。

「若くて暇な時期に音楽をたくさん聴くじゃないですか。俺はアニメが好きで、時雨がアニメの主題歌をやり始めた頃でした(「abnormalize」で『PSYCHO-PASS サイコパス』の主題歌を担当。バンドにとって初のタイアップ作品)。当時アジカンもすごく聴いていたんですけど、そういうバンドとは違って(時雨は)暗いじゃないですか。めちゃくちゃ暗くて、展開的にも予測できない音楽だけど、ポップさもある。聴いていて居心地が良かったというか、『探していたものがやっと見つかった』と思いました。人生で初めてライブに遊びに行ったのが時雨の武道館で、高校2年生の時です」(オオスカ)

「アジカンは同じ部活の先輩からCDを借りました。(部活とは別に)もともと先輩と自分は同じピアノ教室に通っていてリスペクトしていたから、その先輩がおすすめしている音楽だったら自分も聴いてみたいと思ったんです。そこで借りたのが『フィードバックファイル』で、一番好きな曲は『絵画教室』」(オーガキ)

 「じゃあNikoんの活動に影響を与えている音楽は?」と投げ返す。さっきよりも長い沈黙……熟考。人は話している時よりも、黙っている時に人柄が浮かび上がるように思う。二人ともテキトーなことを言わない。吟味し、頭の中に浮かんだいくつかの候補から、最適と思える言葉を選んでいるような印象を受けた。

Nikoん 撮り下ろし写真

Nikoん 撮り下ろし写真

「『こういう風に音楽性の幅を持って、伸び伸びとやっていけたらいいな』と思うのはriddim saunterです。バンドを聴き漁り始めた中学生くらいの頃に聴いていたんですけど、Nikoんの活動を始めてから聴き直すことが多くて。riddim saunterにはジャンルを柔軟に飛び回っていくカッコよさを感じます。だから変に身構えずに、自分たちがカッコいいと思ったものをやるという柔軟さは参考にしていますね。Nikoんの2ndアルバム(『fragile Report』)は1stアルバム(『public melodies』)に比べて『ポップになった』と言われるんですけど、単純に自分らがカッコいいと思えるアレンジをやっているだけなんです」(オーガキ)

「曲作りや音の出し方はRadioheadがキーになっています。トム・ヨークの作る楽曲のような構築された音楽というか。ただ、Radioheadの音ってすごく緻密に作られているけど、たぶん計算されていないところもあるんですよね。その塩梅が面白くて、そういう意味でも参考にしています。そしてライブ活動やマインド感で参考にしているのがMy Hair is Badです。THE NINTH APOLLOの社長がバンドにインタビューをするという企画があって、『My Hair is Badが一番大事にしていることは何ですか?』という質問に対して、彼らは『とにかく搬入搬出が早いこと』と答えていたんです。要はライブハウスの人は撤収があるから、それに対するリスペクトみたいな話だと思うんですけど、そういうバンドとして当たり前のことを100%やっている感じがすごくいいと思う」(オオスカ)

 凛として時雨、ASIAN KUNG-FU GENERATION、riddim saunter、Radiohead、My Hair is Badーーオルタナティブロック、エモ、ポストロックあたりを根幹に据えつつ、同時にヒップホップやダンスミュージックへの目配せを感じさせるNikoんの音楽。その背景の解説としては十分だろう。中でも「暗くて、展開的にも予測できない音楽だけど、ポップさもある」という凛として時雨への評価は、形を変えてNikoんの(とりわけオオスカが作る)音楽へと移植されているように思う。何より上の5つのバンドがそうであるように、Nikoんの音楽はエモーショナルだ。

 二人共がソングライターであり、同時にボーカリストであるという体制が、言うまでもなく彼らの強みである(The Beatlesがそうであるように、良いバンドは大体みんなが歌うし曲を書く)。というか、オーガキが作曲面でも積極性を発揮することで、このバンドに潤いが与えられているように思う。今年2枚のアルバムを発表したNikoんだが、1st『public melodies』ではオオスカ、2nd『fragile Report』ではオーガキがメインボーカルを担当するという棲み分けが行われている。あえて言うならば、シャープな印象を与えるオオスカの声に対し、オーガキの歌にはいろんな表情があり、だから楽曲は伸び伸びと景色を広げているように思う。ということで私は、この2作は共にNikoんの名刺代わりのアルバムであり、いわば『オオスカ盤』と『マナミオーガキ盤』のようなイメージで聴いている。

Nikoん 撮り下ろし写真

 作品のムードがガラッと変わったのも、「基本的に(歌詞も楽器のフレーズも)自分が担当しているパートは全部その人が作る」という制作方法によるものだろう。詞の雰囲気の違いは顕著であり、アレンジ面でもボーカリストが変わった影響はすべからく表れているはずだ。『fragile Report』の中でもとりわけ爽快感のあるラスト2曲、「グバマイ!!」「(^。^)// ハイ」はその象徴だろう。オオスカ曰く「(オーガキは)ポップな曲を作るイメージが前からあった。だから超ぺやんぐな曲だと思う(オオスカはオーガキのことを“ぺやんぐ”と呼ぶ)。『ぺやんぐと言えばこれです』と言える曲にしたくて。普段はぺやんぐの曲を壊すようなギターを入れることが多いけど、この2曲ではぺやんぐの精度を加速させるように心がけた」ということだ。なお、制作について付け加えることがあるとすれば、「前のバンド(Teenager Kick Ass)ではスタジオセッションで曲を作っていたんですけど、Nikoんではパソコン上で二人でセッションするような感覚で制作しています」(オオスカ)という点だろうか。アレンジの幅が広がっているように思うのは、DTMを使って作るようになったこととも無関係ではないはずだ。

 ちなみに「『fragile Report』の中で一番気に入っている曲を挙げるとしたら?」という質問に対し、それぞれ「nai-わ」(オーガキ)と「bend」(オオスカ)という答えが返ってきた。前者は「シンプルにこの曲が一番自分の曲っぽい感じがします。歌に関しては宇多田ヒカルっぽい歌をやりたいと思っていました。英詞が乗ってそうなメロディを日本詞で歌っていて、でも歌い方は洋楽っぽく、リズムが楽しい。口ずさみたくなるリズムを意識して作った曲です」とのことである。オーガキは、先述した渋谷 CLUB QUATTROでのソロ弾き語りライブでも宇多田ヒカルのカバーをするなど(「In My Room」)、影響を受けているところがあるのだろう。なお、「nai-わ」は一捻りすることが多いオーガキが、珍しく「普通のバッキングを初めてやった」楽曲でもある。「プライドを捨てた、という言い方は違うけど(笑)。できるんだ、と思いました」(オーガキ)という、歌の面でもフレーズの面でもちょっとした新風を感じる曲である。

Nikoん 撮り下ろし写真

 一方、後者の「bend」である。こちらはマスロックとオルタナティブロックをコンパクトな尺でブレンドしたような、非常にNikoんらしい曲と言えるだろう。「わりとこういう曲を書き続けてきた人生なんですけど。作り続けているとジャンルでしか喋れなくなるというか。『エモっぽくていいよね』『マスロックっぽいよね』『オルタナっぽくていいね』となってくるんですよね。でも『bend』は結構訳わかんない曲になった感触があって。演奏だけで言ったらちょっとループっぽいんですけど、楽曲としてはポップで短い曲になっている。この分数(2分52秒)にこれだけの情報量を詰め込んでも溢れなかったというのは、何か強いものがあるんだと思いました」。

 その他、「Led Zeppelinをいっぱい聴きました」という、オーガキが荒々しい歌唱を聴かせる「とぅ~ばっど」も印象的。「4〜5時間かけて録った曲ですね。叫ぶとはこういうことだと(笑)。最初はすごく綺麗に歌われていたので、そんなのでは伝わらないと思ったんです」(オオスカ)という辛苦の1曲だ。なお、私がダントツで好きなのは「靴」である。が、「(ファンからは)この曲が一番酷評でした。いや、酷評とまでは言わないんだけど、『何も感じなかった』という人が多かったです」(オオスカ)……マジかよ。

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