Nikoん、“血の通ったコミュニケーション”への渇望 No Busesと鋭く共振したCLUB QUATTRO公演を目撃!

Nikoん、No Busesとの対バンレポート

マナミオーガキが開演前に急きょソロライブ

 8月27日、開演予定より40分近く前に渋谷 CLUB QUATTROに到着したが、会場からは伸びやかな歌声が聴こえてくる。フロアの中央に鍵盤を置き、マナミオーガキ(Ba/Vo/Nikoん)がピアノ弾き語りのサプライズソロライブをやっているところだった。

Nikoん ライブ写真
マナミオーガキ(Nikoん)

 原曲では雷のようにワイルドなNikoんの「step by step」は、楽器が変わったことで随分印象が異なる。が、弾き語りになっても不思議と焦燥感があるのが印象的だ。むしろ彼女の声にはどこか張り詰めた空気があり、こちらの方がずっと胸を締めつける。この1曲を聴けただけでも早く来た甲斐があると思った。

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 「本編よりも緊張している」と言った彼女は、宇多田ヒカルの「In My Room」とNikoんの「ghost」をミックスした「Ghost in My Room」を披露。オーガキの声は時折子供のようにも聴こえるーーというか、どことなくユニセックスな響きがあるのだ。それがこの歌の緊迫感に繋がっている、とまでは言わないが、しかし〈光を 光を 光を 正しく見てる〉というフレーズには、無垢な祈りを正面から聴かされるような迫力を感じて気圧された。彼女はひとりで歌うとこんなにも印象が違うのだ。

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 ソロ曲の「とおり雨」は優雅なワルツ調でこれまた新鮮。この後に控えるソリッドなバンドたちとは凄い落差である。最後は「public melodies」を情感豊かに歌ってひとまず終演。この曲はメロが良いからソロでも十分魅力的だと思う。何はともあれ、早めに足を運んだ観客にとっては思わぬ幸運だったのではないだろうか。また聴きたい! と思ったリスナーは多いはずだ。

No Buses、ズバ抜けたリフで圧倒

 転換中には何故か久石譲が流れており、のほほーんとした気分になった。ああ、今年も夏が過ぎていくのだ......とぼんやりと思っていたのも束の間、ステージに出てきたNo Busesは最初からブッチ切っていた。サポートメンバー2人を含む5人編成で、3本のギターが痛快なサウンドを生み出している。情動的なリフにノックアウトされる「Imagine Siblings」から始まったライブは、1番だけを歌って2曲目の「Sunbeetle」に即移行。ソリッドで危なっかしいスピードを感じるポストパンク調のリズムが、腰と頭を同時に刺激してくる。倦怠混じりのボーカルがひんやりとした空気を運んできた「In Peace」もカッコよく、冒頭3曲だけで彼らの魅力にとりつかれてしまった。というか、このバンドはリフのセンスがズバ抜けている。「つまるところロックはリフと歌である」というのはオカモトショウ(OKAMOTO'S)の言葉だが、No Busesの魅力もそこにあるように思うのだ。

No Buses ライブ写真
No Buses

 クールなイメージを抱かせるサウンドとは打って変わってMCはグダグダである。ボソボソと喋る近藤大彗(Vo/Gt)の言葉はところどころ聞き取れない。とりあえず「今日熱中症になりました」とのことで、え? それって歌って大丈夫なの? というこちらの心配はよそに、ライブの熱気はグングンと高まっていく。中盤は「Our Broken Promises」「Hope Nope Hope」「Eyes+」と今年リリースされた『NB2』の楽曲が続き、そして再びMCを挟んで突入したラストスパートが凄かった。

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 まずはすこぶるポップな「Girl」、爆発的なドラムに魅せられる「Rubbish:)」、壊れた機械と共に踊り明かすような不気味な音色の「Kaze」、さらには轟音の彼方へと突き抜けていくような「Home」とまさしく息もつかせぬ展開だ。エモーショナルなボーカルと肌が焼けつくようなヒリヒリとしたアンサンブルはどちらも魅力十分で、魂ごと持っていかれるような引力を感じた。最後は「Imagine Siblings」の2番に接続して終幕、というクールな演出を見せて終わっていったが、ここら辺は放心していてほとんど覚えていない。

No Buses ライブ写真

Nikoん、ブチギレた勢いが乗り移ったかのようなステージ

 さて、お待ちかね、主役のNikoんである。まず最初に申し上げておきたいのは、今このバンドは脂が乗っている時期であるということだ。maximum10と契約を結び、2ndアルバム『fragile Report』をリリースすることを発表したのが6月のこと。それから今日まではほとんど怒涛の日々である。1回のライブを行い次の土地へと向かう通常のツアーとは異なり、彼らは九州で連続13公演、関西でも連続13公演をこなすなど、現地に留まり連日ライブに明け暮れた。その後、東京に帰ってからも幾つかのステージをこなし、全30公演を行い辿り着いたのがこの度の『Nikoん 1st album "public melodies" release extra tour final 「(no)public melodies」』である。この日のMCでは、九州に凱旋できたことを鹿児島出身のオーガキが喜んでいたが、終演後には早くも47都道府県ツアーに出ることをアナウンス。さらにアンコールでは「3rdアルバムに入る」という新曲を披露するなど(まだ2ndも出てないのに!)、もうどう考えてもブチギレた勢いを感じるのだ。

Nikoん ライブ写真
Nikoん

 とにかく自分たちの足でリスナーに会いに行き、生身のコミュニケーションを取ることーーそれはライブだけではない。この日の会場物販では、「400字以上のレビューを提出する」という条件で、『fragile Report』を予約した人にはその場でアルバムの試聴用白盤を渡すという企画を行っている(そのレビューは後日特設サイトにて全て掲載。批判も大歓迎とのこと)。つまりNikoんは音楽を通して、「俺/私はこう歌う、お前はどう思う?」と投げかけているのだ。ストリーミングサービスに楽曲を上げないというスタンスも、場合によっては音楽が軽薄に消費されることへの抵抗だろう。その是非はともかく、彼らが渇望しているのは血の通ったやり取りなのである。

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オオスカ(Nikoん)

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 ライブはポストロック風の感触を持った「Vision-2」で始まった。メンバーはオオスカ(Vo/Gt)とオーガキ(Ba/Vo)、そしてサポートドラマーの東克幸である。鍵盤の弾き語りとはがらりと変わり、オーガキは太くうねるような低音で楽曲に厚みをもたらしている。オオスカのギターは存在感抜群。というより、迂闊に触れたら切れてしまうんじゃないかと思うような鋭さがあり、ニヒルなボーカルとの相性もバッチリだ。

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 「bend」から「step by step」へと移った辺りでギアが上がったように思う。脳みそに直接電流を流されるような刺激的なギターフレーズ、加速を感じるドラムとドライブしていくベース、灰になるような熱量のアンサンブルである。オーガキのバキバキに歪んだベースと猛々しいボーカルが魅惑的な「とぅ~ばっど」、オオスカの乾いた歌が不穏な風を運んでくる「ghost」と、前半はハードな楽曲が続いていく(〈光を 光を 光を 正しく見てる〉という歌詞が、演奏が変わるだけで意味が反転したように感じる)。

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 「友達の曲をやります」と言って歌ったNo Busesの「Tic」から、近藤大彗をフィーチャーした「public melodies」を立て続けにプレイ。もちろん登場が期待される近藤は、フロア中央付近に作ったブースに現れ、観客を挟んでステージにいるNikoんと向き合うようにコラボレーション。電子音とあたたかい生音の融合が心地よく、清涼感のあるメロディが会場をふんわりと包み込んでいく。ハイライトは光の洪水みたいに綺麗な中盤のアンサンブル、そして高ぶった精神をそのまま開放するような近藤の叫びだろう。

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 清らかな音色を引き継ぐように抒情的な「Fly,」を歌い、「今年の夏をNikoんが終わらせます」という宣言から「さまpake」へ。後者はバチバチに踊れるベースが気持ちいいオルタナティブロックといった風体で、ライブでは何度も聴きたくなるような楽曲である。最後は身体の中にある悪いものを全部取り除いてくれるような爽快ポップな「(^。^)// ハイ」「グバマイ!!」を歌って本編終了。

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 本当にあっという間のステージだった。というか、清々しいライブである。「自分の言葉で喋れてないような感じがした。SNSで誰かが言ってることを自分が考えたかのように言ってるんじゃないかって。ツアーを回って自分はロックスターじゃなかった。自分の弱さを実感した」(オオスカ)とMCで語っていたが、もちろんこれは後ろ向きな言葉なんかではなく、逆説的に浮かび上がってくるのは「ありのままの自分を受け入れることができた」という自信である。

 アンコールでは本ツアーの他公演でサポートドラムを務めた有島コレスケ(arko lemming)、Itsuki Kun(Fallsheeps)の2名をギタリストとして招いた5人編成で登場。奇しくもNo Busesと同じ編成である。演奏したのは「mouton」「新曲」の2曲だが、上音の厚みが増したことで楽曲がダイナミックになった印象。機会があればまた5人編成でのライブも見たいと思った人は多いのではないだろうか。

Nikoん ライブ写真

Nikoん ライブ写真

 今年の10月から来年の2月にかけて行われる『fragile Report』のリリースツアーだが、アルバム購入者は各日程のうち1公演を無料で鑑賞できるというきっぷのいいサービスがついている。ぜひこの機会にこのバンドの音源をキャッチしてみてはどうだろう? 今のNikoんはたぶん、今か今かと爆発の時を待っている。そんなドキドキするような時期なのではないかと思う。

◾️Nikoん リリース情報
2nd Album『fragile Report』
2025年9月24日(水)発売
予約:https://nikon.lnk.to/fragile_report
Nikoん Official Website:https://niko-n.jimdofree.com/

◾️No Buses リリース情報
NEW ALBUM『NB2』
配信中:https://tugboat.lnk.to/NoBusesNB2
No Buses関連リンク:https://linktr.ee/nobusesband

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