藤原さくら「10年経ってこんなに仲間が増えた」 日本武道館で鳴らした希望――『大音楽会』を振り返る

藤原さくら『武道館大音楽会』レポ

 藤原さくらが2月23日、デビュー10周年を祝うライブ『藤原さくら 10th Anniversary 武道館大音楽会』を開催した。最新アルバム『uku』を携えて行われたこの公演は、単なる祝祭を超え、彼女が10年という歳月をかけて深化させてきた音楽性が見事に結晶した、幸福感あふれる一夜であった。

藤原さくら(撮影=廣田達也)
Photo by 廣田達也

 開演とともに会場に流れてきたのは、穏やかな波の音と小鳥の囀りのSEであった。まるでどこか遠い島のビーチに迷い込んだかのような平穏な空気のなか、8人の精鋭からなるサポートメンバーが静かに位置につく。最後に藤原が登場し、自然な流れで1曲目「My summer」へと滑り出した。

 バックスクリーンがあたたかなオレンジ色に染まり、ステージはさながら夕暮れ時の浜辺。レイドバックした心地好いリズムに身を任せ、観客も一気にリラックスムードへと引き込まれていく。10周年の幕開けはあくまで彼女らしい、肩の力の抜けた極上の音楽体験から始まった。

藤原さくら(撮影=廣田達也)
Photo by 廣田達也

 3曲目の「Dance」のイントロで藤原が「みなさん、こんばんは!」と弾けるような笑顔で挨拶すると、会場からは割れんばかりの拍手が送られた。続く「Walking on the clouds」のあとのMCでは、この日の天候についても触れられた。2月下旬にもかかわらず、東京の最高気温が20度を超えたこの日。小春日和のようなこの奇跡的な天候も、彼女の10周年を祝福しているかのようだった。

藤原さくら(撮影=廣田達也)
Photo by 廣田達也

 中盤、藤原はセンターステージへと移動。前夜に会場を下見した彼女は、夜な夜なスタッフたちが自分たちのためにステージを組み上げる光景を目の当たりにしたという。会場を作り上げる裏方の情熱に触れ、彼女はあらためてこのステージに立つ重みを噛み締めていた。また、彼女にとって日本武道館は憧れの場所でもあった。特にポール・マッカートニーの来日公演の印象が強く残っているといい、「ここにあるポールのパワーを吸収したい」と語る。

藤原さくら(撮影=Kana Tarumi)
Photo by Kana Tarumi

 センターステージで披露された「500マイル」は、シンプルながらも彼女の声の芯の強さを際立たせる。圧巻だったのは「sunshine」で、ドラムの石若駿が演奏に加わり、ふたりきりでのパフォーマンスが披露された。歌詞にある〈Here comes the sun〉の一節は、直前のポールの話題もあり、The Beatlesへのリスペクトを感じさせると同時に、会場に光を射すような輝きを放っていた。

藤原さくら(撮影=Kana Tarumi)
Photo by Kana Tarumi

 続く「Ellie」は、藤原が18歳の頃に作った楽曲。センターステージで歌う彼女の背後で、メインステージのメンバーによる演奏が徐々に厚みを増していく演出は、10年という歳月をかけて、彼女の世界が少しずつ、しかし確実に広がってきた過程を象徴しているかのようだった。メインステージに戻ると、藤原はあらためて8人のサポートメンバーを紹介した。パーカッションは松井泉、キーボードは渡辺翔太、コーラスはermhoi、ギターは井上銘と閑喜弦介、ベースはMarty Holoubek、マニピュレーターはTaikimen、そしてドラムは石若駿。この鉄壁の布陣による豪華かつ緻密なアンサンブルが、ライブ後半のドラマチックな展開を支える。

藤原さくら(撮影=Kana Tarumi)
Photo by Kana Tarumi

 「my dear boy」では、照明演出によって武道館全体が深い海の底へと誘われたのような幻想的な空間に一変。泡のような光に包まれながら響く彼女のウィスパー系の歌唱は、決して楽器の音に埋もれることなく、たしかな力強さをもって客席の隅々まで届いていた。

藤原さくら(撮影=上飯坂 一)
Photo by 上飯坂 一

 その後、スピッツのカバー「春の歌」を境に、ライブはラストスパートへと突入。アルバムタイトル『uku』を体現するように、重力から解き放たれ、海のなかから地上へと“浮く”ような軽やかな疾走感が会場を支配した。冒頭の夏(=「My summer」)から始まり、季節を巡ってたどり着いた“春”のような穏やかな祝祭感がステージから感じられた。終盤は「Soup」「Super good」といったヒットナンバーを畳み掛け、会場のボルテージは最高潮に。最後は「「かわいい」」で、会場を笑顔にして本編を締めくくった。

藤原さくら(撮影=廣田達也)
Photo by 廣田達也

 アンコールのステージに再び現れた藤原は、静かにこの10年を振り返る。「上京したばかりの頃はひとりだったけれど、10年経ってこんなに仲間が増えた」「積み重ねてきたものが、どれもこれも本当に大切なものだった」と話す。

 その後、「mother」と「I Wish I Knew How It Would Feel To Be Free」で会場を包み込み、あたたかい歓声とともに終演。ひとりの少女が多くの仲間を得て、奥深いアーティストへと成長を遂げたこの10年間。藤原さくらという才能が、これからどのような景色を見せてくれるのか。そんな期待を抱かせてくれる希望的な一夜であった。

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