藤原さくら×髙木麻穂「初恋のにおい」対談 “切なさ”を描き切った楽曲&アニメーション制作秘話

 藤原さくらが新曲「初恋のにおい」を配信リリースした。同曲とコラボレーションし、アニメーター・髙木麻穂が初めて監督を務めたショートアニメーション『初恋のにおい』も現在公開されている。

藤原さくら - 初恋のにおい (Official Audio)

 もう戻らない初恋の思い出を重ねる主人公の姿が浮かび上がる楽曲、そして繊細な心の移り変わりを描いたショートアニメーションはどのようにして生まれたのだろうか? 今回リアルサウンドでは、藤原と髙木の対談を企画。もともと藤原のファンだったという髙木は藤原の歌に何を託したのか、友達のような距離感で進められていったという楽曲制作の裏側からアニメーションの完成まで、語り尽くしてもらった。(編集部)

友達のような距離感で作り上げた「初恋のにおい」

藤原さくら
藤原さくら

――今回のコラボレーションは、どのようなきっかけからスタートしたのでしょうか。

髙木麻穂(以下、髙木):私からさくらさんにお声がけさせていただきました。普段、私はアニメーターとして作品に参加しているのですが、今回は自分が監督となってアニメーションをひとつ作り切ってみたいというところから企画が始まりました。そこからMVを作ることになり、“初恋のにおい”というコンセプトを立てて、ある程度のストーリーやキャラクター、世界観を作った段階で、その映像に合うアーティストさんは誰なのか?と考えた時に、藤原さくらさんしかいないと思ったんです。

――最初からコラボレーションのお相手は、藤原さん一択だったんですね。

髙木:単純に、私がもともと藤原さんのファンだったというのが大きいのですが(笑)、今回のMVのテイストにさくらさんの歌声がぴったり合うと思ったので、お声がけさせていただいたのがきっかけです。

――藤原さんは今回のコラボレーションのお話を伺って、どのように思われましたか?

藤原さくら(以下、藤原):麻穂さんとは今回はじめましてで、最初はたくさん人がいるような会議室でお会いしました。麻穂さんがプロジェクターに、ご自身が描いた絵を映して、こういう作品が作りたいって紹介してくださったんですが、その時に見せていただいた絵が本当にかわいくって。私、アニメも好きですし、絵を描くのも大好きなんですよ。アニメーションのMVを作ってもらえるなんて、「絶対にやりたいです!」というお話をしたのが、去年の春頃でした。

髙木麻穂
髙木麻穂

――結構、長期的なプロジェクトだったんですね。

藤原:そうですね、アニメーションなので。「制作するのにどれぐらい時間がかかるんだろう?」って麻穂さんやスタッフさんに聞いたら、「シーンによっては1秒増やすごとに何十枚も重ねなきゃいけない」って。

髙木:しかも今回は、先に音楽を作っていただいてからスタートしたので、通常のアニメーション制作よりも時間がかかったと思います。

――藤原さんはこれまでいろいろなコラボレーションやお仕事をされてきたと思うんですけれども、今回のような形は新鮮だったんじゃないんですか?

藤原:新鮮でしたね。しかも、同世代の女性の監督と。今回の題材が恋愛だったので、会議室での話し合いやメールのやり取りだと、パーソナルなことはお互いに言い出しにくかったと思うんです。だから、ふたりでご飯を食べに行って、恋バナしたり(笑)。「昔こういうことがあって……」と、友達に話すような感じで打ち明けられたから、こういう作品ができたんだと思います。

――でも、最初は会議室で初対面だったんですよね。そこからふたりきりで自分自身をさらけ出せる関係性になれる確信はあったんですか?

藤原:麻穂さんが私の音楽をずっと聴いてくださっていたというのもあるし、私のほうから恋愛の話とかいろいろと明かしていって、緊張がほぐれていったところはありましたね。

髙木:私は「芸能人の方にこんな話を聞いていいのか!?」と迷いながら話していたんですけど……(笑)。

藤原:いやいやいや(笑)!

髙木:でも、さくらさんは本当に素敵な方で、「聞きにくいと思うので」と、ご自身のほうからたくさんお話ししてくださったんです。作品の内容がうまくいかなかった初恋の物語ということもあり、初恋が実っている方にはあまり刺さらないかもしれないMVを作ろうとしていたので、さくらさんに響いてもらえるかどうか気になっていたのですが、そういった部分にもさくらさんからの共感を得ることができたので、楽しくお話しをさせていただくことができました。

――どんな話題で盛り上がったんですか?

髙木:その時やっていた恋愛リアリティ番組をおすすめして、さくらさんに観てもらったりして(笑)。

藤原:そうそう! 『ラブ トランジット』ですよね。私、観てめっちゃ泣いちゃって。『バチェラー・ジャパン』、『バチェロレッテ・ジャパン』、あと『テラスハウス』とかの恋愛リアリティ番組は好きだったんです。『ラブ トランジット』は、もともと付き合っていた元恋人同士のふたりが一緒に恋愛リアリティ番組に参加して、よりを戻すのか/戻さないのかっていう番組なんですよ。だから、今作の題材的にも、女の子のなかにやり直したい気持ちがある時に、また元カレと会ってどうするのか……という部分にもハマっていて。『ラブ トランジット』を観ていたから書けた歌詞もあるかもしれない(笑)。

――そういうものも参考にされるんですね!

藤原:好きで観ていただけなんですけどね(笑)。麻穂さんもお好きですよね?

髙木:はい(笑)。でも、たしかに作品と被るところもありましたよね。

藤原:今まで書いてきた歌詞も、全部が全部自分の話ではないので。観た映画やドラマ、聞いた話と自分の共通点を重ね合わせて書くこともありますし。今回は、麻穂さんにもいろんなお話を聞かせていただきましたし。私自身も、「こういうことがあって……」とお話をしていったなかで、どんどん歌詞が見えてきました。

――髙木監督はもともと藤原さんのファンだったとおっしゃっていましたが、どういうところを魅力的に感じていらっしゃったんですか?

髙木:最初にさくらさんを知ったのは、福山雅治さん主演のドラマ(フジテレビ系『ラヴソング』)に出演されていた時。「すごくかわいらしい方がギターを弾いている!」と思ってそこから惹かれていったんですけど、歌声を聴いて一層好きになりました。さくらさんの歌は世界にひとつだけの、本当に特別な才能だなって思っています。

藤原:イエーイ(笑)!

――(笑)。藤原さんは先ほど、髙木監督の絵に一目惚れしたというお話をされていましたが、髙木監督の作品のどういったところに魅力を感じていらっしゃいますか?

藤原:初めてふたりで会った時、麻穂さんがイラストを描いた同人誌をくださったんです。今回の作品もですけど、女の子のフェティシズムと言いますか、ちょっとニッチだけれど、こういうのってあるよね、って共感が得られるようなところを作品に落とし込むのが麻穂さんは上手だと思います。本当に幸せそうな女の子の顔とか好きな人の服をギュッと抱きしめちゃうところとか、「どうやったらこういう表現ができるんだろう?」と感動しましたね。

藤原さくら - 初恋のにおい

――今作は、最初に監督が“初恋のにおい”というコンセプトやキャラクター、ストーリーがもともとの構想にあったとおっしゃっていましたけれども、デビュー作ではそういったものを描きたかったんですか?

髙木:もともと、恋をしている女の子や、そういう女の子の幸せな顔、不安そうな表情を描くのが好きだったんですが、最近の恋愛事情を見ていると、依存している子が悲しい選択をしてしまうようなニュースを目にすることが多いですよね。私自身、そういった気持ちがわかってしまう部分もあって。でも、未練があったり引きずってしまったりって、誰しも普通にあることだと思うんです。それを肯定してあげたいというか、そういった感情を美しい作品として残せたらいいなあとは思っていました。

――では、初恋というものに“におい”、それこそさっき藤原さんがおっしゃっていた、フェティシズム的なものを紐づけた意味合いというのは?

髙木:意識していなくても、“におい”というものは常に感じているものだと思います。初恋というコンセプトを考えた時に、「あの人のシャンプーのにおい、こんなんだったな」とか「あのご飯を食べた時にこんなにおいがしたな」とか、結構覚えていることに気づいて。あと、においで人を好きになるような友達もいたり。「こういうことは女性の特徴のひとつなのかな?」って思ったんですよね。

――藤原さんは、初恋をテーマにすること、さらにそこに“におい”を紐づけることに関して、どのように感じましたか?

藤原:自分のなかで初恋というと、幼稚園や小学校の頃に遡っちゃうんですけど(笑)。でも。初めてグッとのめり込んだ恋愛を思い出すと、私のなかでも“におい”の記憶はあって。街中ですれ違った人が、たまたまその人と同じ香水をつけていて「うわっ!」って全部を思い出す体験をしたことがあるんです。それまでは、自分のなかの引き出しの奥のほうに閉まっていた記憶が、バッ!と蘇ったっていう。その時も「においって本当にすごいな」って歩きながら考えたりして。私自身、アロマや香水が好きで、つけたり作ったりすることもありますし、「“におい”というテーマなら思いあたります!」みたいな感じでした(笑)。

――それぞれの想いを持ち寄って制作が始まったと思うんですが。先ほど、恋バナもお話ししたとおっしゃっていましたけれど、細かいところもリクエストはしたんですか? たとえば、髙木監督から藤原さんにこんな歌詞やメロディがいいって言ったり、逆に藤原さんが髙木監督にこういうふうに歌詞と絵をリンクさせてほしいって言ったり。

藤原:何度も打ち合わせをしていくうちに、たくさん曲ができたんですよね。だから、何曲か麻穂さんにお渡しして。そうしたら、麻穂さんのなかにはアコースティックな曲のイメージや、ギターの「キュッ」っていう音(フィンガリング・ノイズ)を入れてほしいとか、具体的なビジョンがあって、サウンドや歌詞もたくさん相談に乗っていただきました。アニメーションに関しては、全部が素晴らしくって、想像の遥か上のクオリティのものが送られてくるので、「頑張ってください! 楽しみにしてます!」としか言えなかった(笑)。

――髙木監督のなかには、かなり細かいイメージがあったんですね。

髙木:そうですね。冒頭のマフラーのにおいをかいでフラッシュバックするシーンのイメージはもともとあったので、その場面までは30秒ぐらいイントロにしてください、といったお願いをしたりしました。ほかにも、サビが流れる時に海のシーンを持ってきたいので、そこでいちばん盛り上がるようにしてほしいとか、困らせるような注文をたくさんしました(笑)。

藤原:いやいや(笑)。でも、アニメーションと一緒の作品だから、うまい具合に融合できたほうがどちらにとってもいいだろうなと思ったので、何回も確認を取りながら作業させてもらいました。最初は「3分ぐらいの作品かな?」って話していたんですけど、「こういう要素も入れたい」「こういうこともしたい」と言っていたら4分半とかになっちゃって。でも、麻穂さんも「気持ちいい長さにしてください!」って言ってくださりました。

――藤原さんの楽曲によって、アニメーションの尺やストーリーが広がっていったところもあったんですね。

髙木:そうですね。さくらさんからいただいた曲が切なくて美しかったので、「そういう路線なら……」と、ストーリーの結末を決めました。初恋が終わったあとの物語を、“次に進もうエンド”にするか、“そのまんま引きずっていくエンド”にするか、最後まで悩んでいたんですけど、さくらさんからいただいた曲が、切ないけど癒される感じでもあったので、それなら未練たらたらのエンディングにして、曲を聴いているうちに癒されていって、そのうちに忘れていく、というふうにしようと思いました。

――楽曲によってアニメーションが変化していくというのも、監督にとっては刺激的だったんじゃないんですか?

髙木:夢のような時間でした。好きなアーティストの方とやり取りしながら作るっていうのが、すごく楽しくって。さくらさんとできたことが本当に光栄です。

藤原:こちらこそです。

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