『RAPSTAR 2025 FINALS』全パフォーマンス徹底レポート 今日、人生を変える――5人のラッパーの生き様を観た

『RAPSTAR 2025 FINALS』徹底レポート

 次世代ラッパーを発掘するオーディションプロジェクト『RAPSTAR 2025』(ABEMA)。2017年、応募者228名とともに始まった同番組も、今シーズンで8回目に。応募総数は過去最多の6,780名にまで膨れ上がり、その頂点を決めるのがもはや困難を極めてきている。

 11月末までのオンエアのなかで決勝の舞台までに勝ち上がったのが、sh1t、Pxrge Trxxxper、Masato Hayashi、Sonsi、VERRY SMoLの全5名。番組を通して純粋に発掘された才能から、さらなるブレイクスルーを狙う“キャリア組”まで、間違いない顔ぶれが並んでいる。優勝を決める『RAPSTAR 2025 FINALS』を行うため、彼らに用意されたのが、12月13日に東京・京王アリーナTOKYOにて開催された『STARZ 2025』。約1万人の観客が見守るなか、6,780分の1の王座を掛けて、ファイナルパフォーマンスが繰り広げられた。

sh1t

sh1t
撮影=cherry chill will.

 大阪府出身の22歳。「SELECTION CYPHER」でGROUP Dのトップバッターを務めたところから、番組のあらゆる場面で1番手を担ってきたこのラッパー。自身のステージネーム=sh1tにも“1”が入っているように「こんなに1番が似合う男はいねえだろ、ほかに」とは、本人のMC中の言葉である。数年前とは違い、名だたるラッパーたちの豪華な“前座”が用意されている『STARZ』では、ファイナルステージを迎えた時点で会場が温まりきっているため、出順による有利不利はあまり影響しない。とはいえ、おそらくそれ以外の選択肢もあったなかで自ら先陣を切る決断をしたのは、やはり好印象に映る。

 パフォーマンス全体としては、審査員のOMSBから「終盤までバイブスをキープさせられていた」との評価が。一方で、Benjazzyからは「お客さんに聴き取らせる感じが見たかった」との指摘も。スタイルとしては“ドリル使い”がゆえ、リリックに詰め込む言葉数が多くなる。このあたりを運動量の多いパフォーマンスと掛け合わせると、どうしてもラップが続かない部分が生まれ、やや荒削りな様相となってしまう。なにより、こうした“swag”重視の戦い方は、手練であるPxrge Trxxxper、Masato Hayashiに分があるところ。

sh1t
撮影=cherry chill will.

 そんな彼が活路を見出すのはやはり「RAPSTAR CAMP」での制作曲。Neetz(KANDYTOWN)提供ビートでの「8point」だ。フック終盤のフロウに感じる祝福感は、ゴスペルのそれにかなり近く、客席も自然と声を重ねていた。番組チェアマンを務めるRYUZOのオンエア当時の言葉を借りると、和製Pop Smoke。普段とは異なるタイプのビートながら、普段と同じスタイルで乗りこなし、しかもそれを名曲に昇華してみせる。

 しかも、このステージのために2バース目を用意し、かつフックまでのブリッジの部分で、この曲の象徴といえるハミングを1バース目以上に長く持ってきたあたりも見事。全体的に未来への希望でまとめたリリックを含めて、この時点で「このまま優勝……1番になるのでは?」と思わされる逞しさだ。というか「RAPSTAR CAMP」に登場したなかでこのビートが、優勝したときに最も鳴っていてカッコいいと思った。

sh1t
撮影=cherry chill will.

Pxrge Trxxxper

Pxrge Trxxxper
撮影=cherry chill will.

 茨城県出身。“Wassup 出来レース”でおなじみの19歳。「RAPSTAR CAMP」にて敗退するも、審査員6名から満場一致の支持を受け、敗者復活としてファイナルステージに進出。そんな屈辱を晴らすかのように、個人的にはこの日の舞台で最もアグレッシブにスピットをしていたように思う。

 用意してきたのは代表曲「DEATH NOTE」など、アカペラを含めて全4曲。自身が得意とするトラップ〜ドリル〜メタルコア系譜のノーガードで会場を殴打するような楽曲を揃えてきた。佇まいも然り、その歳で出せるとは思えないダークヒーローぶりに鳥肌を立てられると思っていたところ、Benjazzyもそうだったらしい。講評にて「マジで、めちゃくちゃブチ喰らいました。久々にライブで10分間、鳥肌立ちっぱなし」と、本当にそのままの感想を言ってくれた。

Pxrge Trxxxper
撮影=cherry chill will.

 大方の予想通り、自身が屈辱を味わう理由となった「RAPSTAR CAMP」でのineedmorebuxビート曲「Revenge」は、バース/フックともにリリックとフロウの両方を大幅に書き直してくることに。その内容はタイトルから想定される通りで、“このままじゃ終われねえ”というもの。

 以前にBenjazzyから指摘されていた、Pxrge Trxxxperだからこそな早口で詰めるフロウ、さらにはアレンジ面で日頃より多用しているラジオボイス、音抜きを使った緩急と、彼の本領が決勝の舞台でようやく発揮。新たに用意してきた2バース目は、リズムを崩してそれまでとまったく違った雰囲気に仕上げてくるなど、若手ながら気迫と風格はベテランの域である。

Pxrge Trxxxper
撮影=DaikiMiura

Masato Hayashi

Masato Hayashi
撮影=cherry chill will.

 東京都出身の34歳。一時は「SELECTION CYPHER」にて早々に敗退するも、そこから繰り上げ通過、「HOOD STAGE」1位通過を経て、気づけば決勝の舞台である。底辺から来たB-BOY。審査員のkZmによれば、不死鳥(フェニックス)。番組放送前から、年齢や“プロ”同等のキャリアを含めて「ヒール側だったのに、いつの間にか主人公になっている」と、これまた気づけば視聴者の心を掴んでいた炎の男である。おそらく選択肢も多かっただろうなかで、3番手を選んでくるのも憎い。

 そんな彼のパフォーマンスはとかく、“構成の鬼”だった。全体でいえば、タイトルからして開幕に相応しい、「HOOD STAGE」で披露したChaki Zuluビート曲「RAPSTAR2025」に始まり、旧Pablo Blasta名義での「Tokyo Young OG」アカペラ、オリジナル曲「Vibes!」、「SELECTION CYPHER」でのNoshビート曲「Ain’t No Love」、喉を癒すための魂のオリーブオイル摂取を挟んで、最後に「RAPSTAR CAMP」で生み出したineedmorebuxビート曲「HIROYUKI」。バンガー → エモ → バンガーと、最も綺麗なフォーマットである。

Masato Hayashi
撮影=cherry chill will.

 かつ、楽曲面でもできる“構成”の話。「Ain’t No Love」「HIROYUKI」とも、終盤にフックを2回繰り返す形にしたのだが、ほかラッパーと異なるのが、2バース目を用意してこなかった部分。インパクトや目新しさとしては後者の方が大きいものの、デメリットとして客席のファンが初聴で歌詞を聴き取るのも、一緒に歌うこともほぼ不可能。だが、今回の場合であればむしろ、会場全体でのシンガロングがますます促される。フック前のブリッジ部分など細かな調整こそ入れてはいるが、あるものを工夫して違うもののように聴かせる、というのも年長者の知恵が光ったところといえる。

 そのほか、配信では伝わらなかったかもしれないものの、既発曲「Vibes!」を会場のかなりの人数が歌っていたこと、息が続かないところも気迫で乗り切っていたことなど、ハイライトはさまざま。特に前者はキャリアゆえの“継続は力なり”といえるアドバンテージだったところ。唯一、ほかラッパーも多少の超過を見せていたなかで、10分間という時間制限に対して、Masato Hayashiのそれは約2分と大幅なものに及んでいた。この点については一考の余地がありそうだが、「RAPSTAR CAMP」でバリケードを作ったのと同じく、たとえ本人に言及したとて「最年長の知恵」として蹴散らされるのは想像に難くない。

Masato Hayashi
撮影=cherry chill will.

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる