Plain Jay & Huncho Fox、M3R、BYORA…2026年ブレイク必至 シーンの未来を担う気鋭ラッパーの最新作に迫る
ここに記しておきたいのは、ベテラン勢の力作の目立った2025年のヒップホップシーンにおける、それぞれの特色を持ちながら多様性に満ちた、しかしまだまだ聴かれて然るべき若手アーティストたちの存在だ。年末に差し掛かった今、注目すべきリリースがいくつもある。そのなかから、来年の動向に期待したいアーティストの新譜3作を紹介しよう。もしも、画一化された社会に不満を感じていたり、自分の人生がひとつのレールに乗ってしまっていることに違和感を感じている人がいたとしたら、彼らの存在、そして作品は、そんな人々にこそ響くものになっているはずだ。
Plain Jay & Huncho Fox『Family Business』
仙台出身。実兄弟であり、ヒップホップコレクティブ S4L所属のラッパー・Plain JayとHuncho Foxの両名義でリリースされたコラボアルバム。Plain Jayの固いライミングの畳み掛けと、Huncho Foxの高音で、時に現れるメロディに叙情が乗る滑らかなフロウが掛け合わされることによって、停滞する瞬間は一時たりともない。硬質で華やかなトラップサウンドに統一された本作は、自らの境遇を語るハードかつストーリーテリングの妙味を感じさせる作品で、アルバムというひとつのフォーマットとして聴くことの強度を携える。
歌詞のレトリックに宿る強烈なイメージ、多くのトラックで鳴らされるサブベースの内臓に響いてくるような重みは、現行のアメリカ南部のヒップホップサウンドからの影響を感じさせるS4Lの文脈に重ね合わせながらも、彼らのストーリーが真に響いてくるリアルな感覚、その強度がここにはある。「Diamond」における〈小6まで住んでた石巻/ ぶっといChain以外巻く気ない/もう作業着、袖通さない〉といったような出自とこれからのあり方をリリックに刻む姿勢や、「119」で“消防車”というモチーフを起点に現在のラップゲームの渦中にいる感覚を紡いでいく様など、巧みなワードプレイも決して聴き逃せない。アーティストの生き様が高い鮮度で刻まれた、この時代におけるドラマチックなヒップホップアルバムだ。
M3R『LIF③STYLE』
Red Bullサイファーのインタビュー(※1)で、アトランタのトラップサウンドへの傾倒を語ったM3Rも要注目のアーティストだ。名古屋を拠点とするヒップホップコレクティブ・L.O.S.Tに所属し、イランと日本にルーツを持つこのラッパーの特色のひとつは、マンブル的なスタイルをベースにした柔軟なフロウにある。その身軽さは、同じくトラップサウンドを指向する数々のアーティストのなかでも、スタイルの部分で独特な耳触りを持って聴く者の耳に残る。
前述のRed Bullサイファー企画のマイクリレーや、コンピレーションアルバム『X-FACTOR 3』に収録された「Faith」の彼のヴァースを聴いても、その独自性は確認できるが、このミックステープ『LIF③STYLE』はその確信をより強く高める。たとえば、楽曲「MONOPOLY」における、ひとつのモチーフに対するアプローチ、その言葉をスライドさせ、意味を拡張させていくスタイルは、アメリカのトラップを聴いてきたヘッズの耳にも馴染むものだろう。しかし、あくまで人のスタイルを真似ようと思ったことはないと語る彼の、ワードプレイや細かくフロウを変えていくその所作に宿る自分らしさを貫く姿勢は、極めて豊かなものに映る。ラフな気分で聴ける魅力的な作品のなかで、多様な思想の人々の存在を捉え、それらが入り乱れることを肯定する最終曲「DOMESTIC CLOTHES」が放つメッセージには、素直に勇気をもらえる。
BYORA『jun!』
“音楽の未来性”という言葉について考えるとき、そこには多くの解釈が生まれるだろう。今までにない画期的なものか、あるいは時代を振り返ったときにビジョナリーなものと再評価されるか。Shogo Mochizuki、Urban、MUKUの3人からなるヒップホップクルー・BYORAの音楽に自分が未来性を感じる理由のひとつは、固定化されたジャンルや画一的な価値観に縛られることなく、枝分かれしていくようなパラレルな在り方を提示しているという点だ。
「abura」が、ファーストトラックのイントロからシームレスに繋がることでこのアルバムにエンジンをかけ、「goodluck / damper」に用意された苛烈なビートスイッチなど忙しなく濃い情報量のなかを突っ走り、開けた景色にたどり着いたかのような「yoru」から、アウトロ「jun (is dead)」へ。全体の音をざらついたテクスチャーに統一しながら、多くの場面で現れるグルーヴィーなドラムや我々に投げかけられるような言葉の数々は、はっきりとした確かな感触として存在感を放つ。前衛性と、時代や社会に問いを投げかけるような真っ直ぐまっすぐな感覚の両立から感じ取ることのできる反骨と自由な精神は、国内のユースカルチャーとしてのヒップホップが決して廃れることはない――その証明としても有効だろう。「jun (is dead)」というタイトルで幕を閉じるこのアルバムには、自由に生きていくことを肯定するような希望に満ちている。
※1:https://www.redbull.com/jp-ja/rasen-32-m3r





















![Mrs. GREEN APPLE、[Alexandros]、UVERworld、RADWIMPS……周年を迎えたバンドが“ライブ”で示す想い](/wp-content/uploads/2025/12/20251214-band-co-99-702x395.jpg)




