トゲナシトゲアリが確立したロックバンドの強靭さ 武道館ワンマンや劇場版『ガルクラ』などトピックだらけの2025年を総括

トゲトゲが手にしたロックバンドの強靭さ

 本稿では『全部をさらして生きてやる』に収録された4曲(インスト除く)について、歌詞やサウンド面での聴きどころを、先の『RAISE MY CATHARSIS』でのライブ初披露時の印象も踏まえて解説していく。

M1. もう何もいらない未来

 理名(Vo/井芹仁菜役)の力強い歌声からスタートするという点では、テレビシリーズのオープニング主題歌「雑踏、僕らの街」を踏襲しており、メロディの放つ空気感やバンドアンサンブルのベースにあるものも「雑踏、僕らの街」との共通点を見つけることができる。それもそのはず、この2曲はともに大濱健悟が作詞・作曲を手掛けており、“物語のはじまりのうた”としての役割を果たすという点で同じ目的のもと制作されたと予想される。ただ、今回の「もう何もいらない未来」においては演奏面の難易度がさらに高くなっており、間奏パートでテンポが倍になるアレンジや、ドラムの細かなフレーズの連発、場面によってギターやピアノがリード楽器にもバッキング楽器にも変わるフレキシブルさ、随所にスラップ調の印象的なフレーズを叩き込むベースの存在感……これは朱李(Ba/ルパ役)がステージで映えることを意識してのアレンジだろう……など、制作陣がトゲナシトゲアリの面々に要求するものがより高度になっていることに気付く。それはボーカルも同様で、シンガーとしての存在感を常に高め続けている理名の歌声、表現力は「雑踏、僕らの街」の頃と比べても格段の成長が窺える。

M2. 命をくれよ

 どこか抒情的な空気を放つギターのストロークに導かれ、感情を抑え気味に歌う理名のボーカルに、子供と大人の間で揺れ動くアンビバレンスさを感じずにはいられないこの曲。歌い出しの〈空が泣いていてくれるから / 私は大丈夫だよ〉やサビの〈何がいけなかったのか教えてよ / 神様 命をくれよ〉というフレーズこそ若さゆえのストレートさが伝わるが、これを大人の道へと一歩踏み出した(劇中の)仁菜が歌うとイメージすると、よりアンビバレンス感が伝わるのではないだろうか。そんな歌詞を、理名はライブにおいて一言一句丁寧に、感情をたっぷり込めて歌っており、それがストレートなギターロック調サウンドと合わさることでよりエモーショナルに響く。『【後編】なぁ、未来。』への期待を高めながら次作へ繋ぐという意味では、『【前編】青春狂走曲』エンディング主題歌としての役割を見事に全うしている。

M3. arrow

 ひんやりとしたシーケンスサウンドに合わせて、抑制されたダイナミズムを伴うバンドサウンドを打ち出していくこの曲は、同じオープニング主題歌でも「もう何もいらない未来」とはタイプが異なるもの。ボーカルのトーンもAメロでは抑え気味ながらも、Bメロで熱を高め、サビではファルセットを多用した伸びやかな歌声でエモーショナルさを表現。アレンジにおいても、2番では演奏をパッと止めるキメがフックとなり、スリリングな印象が強まっている。キラキラしたギターソロに関しては、ライブでは夕莉(Gt/河原木桃香役)がトリッキーなタッピングを取り入れたプレイで見せ場を作っている。コテコテした派手感こそないものの、ジワジワとボディブローのように効いてくるこのテイストも、今のトゲナシトゲアリだからこそ表現できると信じて制作チームが与えたものなのかもしれない。

M4. 荊の薔薇

 テレビシリーズのエンディング主題歌「誰にもなれない私だから」は、物語に余韻を残すような仕上がりだったが、劇場版総集編2部作のエンディングを飾る本作は意外にも開放感の強い1曲。理名の歌声に絡み合うように鳴り響く演奏は、各パートともに個性的なフレーズなのだが、それらが重なり合っても歌やほかのパートの邪魔をするようなことがなく、自然なバランスの上で構成されていることに気付かされる。かつ、スピード感を抑えることで全体のスケール感を大きくすることに成功しており、アンセム感が強まっているような印象も受けた。歌詞においては締めくくりの〈願った夢なら咲かせてゆけ〉含め、どこか「運命の華」との関連性を感じずにはいられない(奇しくも、2曲ともカイザー恵理菜が作詞を手掛けている)。アニメシリーズと劇場版総集編という2つの“道”を別の側面/視点から除くことで、今回の楽曲たちが生まれたと考えれば、こういうテイスト/内容になるのも納得いくのではないだろうか。

 本稿の序文で、2025年のトゲナシトゲアリは「ロックバンドとしての強靭さと、どんなことがあろうとも決して揺るがない信念を確かなものにした」と記したが、今回のEP収録の4曲を聴けば、なんとなくその意味をご理解いただけるのでは。と同時に、こうした進化を遂げた彼女たちが2026年、どんな活躍を見せてくれるのか。初の全国ツアー開催や『ガールズバンドクライ』完全新作映画の製作決定など、新たなトピックが控えているだけに、ここからの動向が楽しみでならない。

※1:https://realsound.jp/2025/02/post-1920024.html
※2:https://realsound.jp/2025/02/post-1931097.html
※3:https://realsound.jp/2025/05/post-2018326.html
※4:https://realsound.jp/2025/06/post-2056936.html
※5:https://realsound.jp/2025/10/post-2179794.html
※6:https://realsound.jp/2025/11/post-2223988.html

■リリース情報
トゲナシトゲアリ EP『全部をさらして生きてやる』
発売中
形態:CD
品番:UMCK-1811
価格:2,200円(税込)
購入:https://togenashitogeari.lnk.to/Ill_live_with_my_heart_on_my_sleeve_cd

▼CD収録内容
もう何もいらない未来
命をくれよ
arrow
荊の薔薇
もう何もいらない未来 (Instrumental)
命をくれよ (Instrumental)
arrow (Instrumental)
荊の薔薇 (Instrumental)

トゲナシトゲアリ EP『小指立てませんか』
発売中
形態:CD
品番:UMCK-1805
価格:2,750円(税込)
購入:https://togenashitogeari.lnk.to/Lets_give_them_the_pinky_finger_cd

▼CD収録内容
碧いif
無知のち私
渇く、憂う
吹き消した灯火
生きて生きてゆく
臆病な白夜
最期の禱り

■公演情報
『トゲナシトゲアリ Zepp Tour 2026 “拍動の未来”』
【開催日時・会場】
2026年2月11日(水・祝)OPEN 17:00 / START 18:00 KT Zepp Yokohama(神奈川)
2026年2月14日(土)OPEN 16:00 / START 17:00 Zepp Fukuoka(福岡)
2026年2月23日(月・祝)OPEN 16:00 / START 17:00 Zepp Nagoya(愛知)
2026年2月28日(土)OPEN 16:00 / START 17:00 Zepp Sapporo(北海道)
2026年3月8日(日)OPEN 16:00 / START 17:00 Zepp Osaka Bayside(大阪)
2026年3月13日(金)OPEN 18:00 / START 19:00 Zepp DiverCity(TOYKO)(東京)
2026年3月14日(土)OPEN 16:00 / START 17:00 Zepp DiverCity(TOYKO)(東京)

【チケット金額】
グッズ付き1階スタンディング 14,400円(税込)
1階スタンディング 9,900円(税込)
グッズ付き2階指定席 15,500円(税込)
2階指定席 11,000円(税込)

グッズ付きチケット特典:「トゲナシトゲアリ スペシャルBIGタオル」
※グッズは「トゲナシトゲアリ Zepp Tour 2026 “拍動の未来”」キービジュアルを用いたデザイン。
※複数公演申し込み可、複数公演申し込みの場合は1公演ごとに申し込みのこと。1公演につき第4希望まで申し込み可。
※グッズ付きチケット・グッズなしチケットで、整理番号、座席の優劣はなし。
※ドリンク代が入場時に必要。
※未就学児入場不可/6歳以上チケット必要

■関連リンク
ガールズバンドクライ公式サイト:https://girls-band-cry.com/
ガールズバンドクライ公式 X(旧Twitter):https://x.com/girlsbandcry
ガールズバンドクライ公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@girlsbandcry
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ガールズバンドクライ公式TikTok:https://www.tiktok.com/@girlsbandcry
トゲナシトゲアリ - Official Web Site:https://ageha.agehasprings.com/archives/artist/togenashitogeari

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