トゲナシトゲアリ、日本武道館に万感の想いで立つ 『ガールズバンドクライ』を超えて“夢”を実現した夜

トゲナシトゲアリ、日本武道館公演レポ

 アニメ『ガールズバンドクライ』プロジェクトから生まれたガールズロックバンド・トゲナシトゲアリ(略称:トゲトゲ)が、初めて観客の前でライブを披露した2023年9月14日の『トゲナシトゲアリ修行中 公開練習ライブ』(※1)から早2年。あの日、終演後のインタビューで「やっぱり目指すのは大きい舞台、大きい会場」として、メンバーは日本武道館の名を挙げている。その後放送されたテレビアニメ『ガールズバンドクライ』でも、劇中のトゲトゲの面々は武道館を目標に掲げながら、数々の苦難を乗り越えてバンド活動を続けていった。

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

 そして2025年9月23日。目標として掲げてきた“大きい舞台、大きい会場”でのステージが、ついに現実のものとなった。『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』と題して行われたこの日のライブは、この2年で数々の経験を積み重ねてきた彼女たちにとって、まさに集大成と呼ぶに相応しい内容であると同時に、大きな目標を達成させたバンドの“その先”の可能性を提示する、絶好の機会となった。

約1万2千人の観客を前に堂々としたパフォーマンス

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

 アニメのオープニング映像と同じ、普段は客席を潰すことが多いステージ後方の北側スタンド席にも観客を目一杯入れた結果、360度オーディエンスに囲まれる形となった今回の公演。約1万2000人動員というその数字にも驚かされるが、あんなに人で埋め尽くされた武道館の光景自体、筆舌に尽くし難いものがあった。

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

 事前にアナウンスされたように、残念ながら昨年から休養中の凪都(Key/海老塚智役)と美怜(Dr/安和すばる役)がこの記念すべき公演に参加することは叶わなかったが、サポートキーボーディスト&ドラマーを迎えてステージに立った理名(Vo/井芹仁菜役)、夕莉(Gt/河原木桃香役)、朱李(Ba/ルパ役)は、ステージ頭上に設置されたスクリーンでのカウントダウンを経て、「雑踏、僕らの街」から勢いよくライブをスタート。テレビアニメのオープニング映像をフィーチャーしたその演出による、アニメの世界がそのまま目の前で展開されるような錯覚に陥る瞬間もあったが、幾多のライブを経て逞しく成長した理名のパワフルなボーカル、エッジの効いたサウンドと巧みなプレイで魅了する夕莉のギター、バンドのボトムを支えながらも随所で前に出て独自の存在感を発揮する朱李のベース……それぞれが強く主張することで、リアルバンドとしての孤高感を見事に示してみせた。

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

 序盤こそ若干の緊張を見せたが、次第にいつもの朗らかなトークを繰り広げる3人のMCを随所に挟みながら、演奏になると時に満面の笑みで、時に鬼気迫る表情で個々の力量を発揮し続ける彼女たち。会場中を飛び交うレーザーが幻想的な空気を生み出す「闇に溶けてく」、もはや恒例となった冒頭での朱李のベースソロが武道館を沸かせた「空白とカタルシス」、赤い照明とスクリーンに描かれる赤い糸が印象的な「蝶に結いた赤い糸」、高速ビートに合わせてステージ前方に炎が吹き上がる「サヨナラサヨナラサヨナラ」など、大会場ならではの派手な演出と緩急に富んだセットリストでオーディエンスを魅了していく。

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

 観客のクラップとともに一体感を作り上げるメロウなアップチューン「最期の禱り」を終えると、ステージ中央に設置されたキーボードの前に理名が座り、「誰にもなれない私だから」を弾き語りで披露するという驚きの演出も用意。これまで数曲でギターを弾く機会もあった理名だが、ステージに彼女ひとりだけが立ち、こうしてピアノ弾き語りで楽曲披露するとは誰が想像しただろうか。もともと叙情的な空気感を持つ「誰にもなれない私だから」だが、いつもより抑揚を抑えて歌うボーカルと繊細なピアノによって、より切なさが際立つ結果となった。

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

 理名がステージを去ると、20分のインターミッション(休憩)に入る。2部構成のライブは、今年2月に実施された前回のワンマンライブ『トゲナシトゲアリ 5th ONE-MAN LIVE “鳴動の刻”』(※2)以来だろうか。20分後に再び場内が暗転すると、いよいよライブ後半戦に突入する。ステージ上は背後の透過スクリーンを用いて劇中の河原木桃香の部屋を再現。すると、新たな衣装に着替えた夕莉と朱李が姿を現し、こたつに入る。そして、各々ギターとベースを抱えると2人だけでアニメのサウンドトラックから「雑踏、僕らの街(彷徨う)」をプレイ。さらにドラムとキーボードも加わり、再びサントラから「宣戦布告」が演奏されると、会場は徐々に熱を高めていく。先の理名による弾き語りに続き、夕莉と朱李にスポットを当てたインストナンバー披露と、ここにきて新たな表現手段を手に入れたトゲトゲ。この試みを今後も活かし続けることで、彼女たちのライブにより多様性が生まれるのではないか……そう強く実感させる、嬉しいサプライズだった。

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

 「宣戦布告」終盤に理名がステージに加わると、その流れから「視界の隅 朽ちる音」へ突入し、じっくり聴かせるミディアムナンバー「吹き消した灯火」、夕莉のギター弾き語りから理名へとバトンをつなぐ「空の箱」、ダークな曲調と空気感で観る者の没入感を高める「極私的極彩色アンサー」、この日がライブ初披露となった「飛べない蝶は夢を見る」と、バラエティ豊かな楽曲群を連発。もはや彼女たちのライブには欠かせないキラーチューン「爆ぜて咲く」では、冒頭でパイロが派手に爆発したりMVを再現するように理名が天井から吊るされたマイクで歌うなどの演出も用意され、観客を驚かせる一幕も。「渇く、憂う」からは理名もギターで演奏に加わり、ライブに華を添えながらクライマックスに向けて熱量を高めていく。その盛り上がりは「運命の華」で沸点に達し、理名による“あなた”に向けた感謝の手紙を経て、「この武道館ライブのテーマのように思って演奏してきた」という「生きて生きてゆく」をエモーショナルに歌い上げ、第2部を終了させた。

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

派手な演出と共に新曲「もう何もいらない未来」を披露

 アンコールの声やクラップに導かれるように、ライブTシャツに着替えたメンバーがステージに再登場すると、理名は「生きてアンコールまでたどり着けましたね(笑)。ここまで満身創痍です!」と笑顔で客席に語りかける。そして「トゲトゲと『ガルクラ』と、あなたとの始まりの曲」と告げてから、高速ボーカルを伴う「名もなき何もかも」に突入。2年前はまだまだ初々しさが目立った理名、夕莉、朱李だったが、この日の彼女たちは“武道館アーティスト”らしい風格も見え隠れするなど、この日の武道館公演が決して早すぎるものではなくベストなタイミングであったことを実感させられた。

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

 その後、10月からラジオ番組『トゲナシトゲアリのトゲラジ~川崎から世界へ~』(Interfm)がスタートすること、オリジナルゲーム『ガールズバンドクライ First Riff』のティザームービー&ティザービジュアル公開、来年2月から初の全国ツアー『トゲナシトゲアリ Zepp Tour 2026 “拍動の未来”』開催、そして『ガールズバンドクライ』完全新作映画の製作が決定したことが発表され、会場が湧き上がることに。そんな嬉しい報告を前に、さらに観客を興奮させることになったのが、理名の「みんなに楽しんでもらいたいと思い、次の曲を選びました」の言葉に続いて初披露された、10月3日公開の『劇場版総集編 ガールズバンドクライ【前編】青春狂走曲』オープニング主題歌「もう何もいらない未来」だった。これまでのトゲトゲナンバーをより進化/深化させたこの曲は、早くもオーディエンスに好意的に受け入れられ、会場を興奮の渦に巻き込んでいく。エンディングでは炎や火花などクライマックスならではの派手な演出を交え、約3時間におよぶ夢の晴れ舞台は大成功のうちに幕を下ろした。

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

『トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”』

 リアルバンドとして大きな目標をひとつ達成したトゲトゲだが、『ガールズバンドクライ』とともにここからさらに新たな夢を目指して前進を続けていく。そういった意味では、この日の武道館公演はひとつの通過点でしかない。この経験を糧に、彼女たちがここからどんな飛躍を遂げるのか。そして、次の大舞台では彼女たちが今回を軽く凌駕するステージを叩き付けてくれるはず……そんな輝かしい未来に期待している。

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※1:https://realsound.jp/2023/09/post-1440171.html
※2:https://realsound.jp/2025/02/post-1931097.html

<セットリスト>
01. 雑踏、僕らの街
02. 碧い if
03. 闇に溶けてく
04. 空白とカタルシス
05. 蝶に結いた赤い糸
06. ダレモ
07. 運命に賭けたい論理
08. 無知のち私
09. サヨナラサヨナラサヨナラ
10. 最期の禱り
11. 誰にもなれない私だから
12. 雑踏、僕らの街(彷徨う)
13. 宣戦布告
14. 視界の隅 朽ちる音
15. 吹き消した灯火
16. 空の箱
17. 傷つき傷つけ痛くて辛い
18. 極私的極彩色アンサー
19. 飛べない蝶は夢を見る
20. 爆ぜて咲く
21. 渇く、憂う
22. 声なき魚
23. 運命の華
24. 生きて生きてゆく

アンコール
EN1. 名もなき何もかも
EN2. もう何もいらない未来

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