Suchmos、2025年の帰還を経て未来へと歩き出す 再始動初のツアー最終公演で見た明確な変化

Suchmosのシーンへの帰還は2025年きってのトピックだ。だが、実際ライブを体験しなければそれは文字通り年末企画で振り返るトピックの一つに過ぎなかったかも知れない。2020年1月の台北公演を除くと国内有観客のワンマンライブとしては2019年9月の横浜スタジアム以来、5年8ヶ月ぶりとなった今年6月21日・22日の横浜アリーナ公演2Days。約20万人の応募が殺到したこのライブではリリース前のEP『Sunburst』からの新曲も含むセットリストでバンドのこれまでとこれからを示唆。また、7月には7年ぶりに『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演しWHITE STAGEのヘッドライナーを務め、このフェスとの親和性の高さを証明した。

そして10月末からはソウル、上海、台北、バンコクを含む13都市を巡る再始動後初のツアー『Asia Tour Sunburst 2025』を開催。ここではファイナルにあたるZepp Haneda(TOKYO)2Daysの初日、12月12日をレポートするのだが、一言、これほど愛されることを前向きに受け入れてフィードバックするSuchmosを初めて見た気がする。


JAGATARAや仲井戸麗市、ザ・ゴールデン・カップスなど先人たちの曲が会場BGMで流れるフロアは満員も満員のすし詰め状態。暗転した瞬間の歓声の大きさにSuchmosのライブへの渇望を実感していると、オーガニックなSEとともにメンバーが登場した。滑り込むTAIHEI(Key)のピアノとYONCE(Vo/Gt)のスキャットでライブがスタート。こんなに豊かなアンサンブルで聴く「Pacific」は初めてだ。夕焼けめいたオレンジの照明が曲の世界観に引き込み、続いては新作のリードトラック「Eye to Eye」。ベースの山本連がアイデアを持ってきたというのも納得の重心の低いベースライン、穏やかなソウル/ファンクテイストがバンドの現在地を示す。のっけから全員のプレイヤビリティの高さに瞠目したのだが、それもそうだ。ソロや藤井 風らのサポートを経てきたTAIKING(Gt)しかり、ジャズピアニストとしても腕を磨いてきたTAIHEIしかり、メンバーそれぞれの経験が明らかに反映されている。特にOK(Dr)のドラミングの精度には驚かされた。


新しいライブアレンジで違和感なく組み込まれた「ROMA」は淡々と内側から加熱していく迫力。エンディングでは真っ赤な背景にメンバーのシルエットが際立った。中期The Beatlesの音楽性や70年代のデヴィッド・ボウイっぽい演劇性も感じる未発表曲「Ghost」ではロックバンドとしての深度を実感。真剣に聴き入るフロアに「羽田、静かにしてますか?」とYONCEが緊張を解す一言を投げ入れたあと、「DUMBO」のイントロでここぞとテンションを上げるオーディエンス。山本のデッドでパーカッシブなベースが体を直撃し、ハスキーさを増したYONCEのボーカルがタフな歌詞にさらに肉体性を宿す。一転、隙間の多いアンサンブルの「FRUITS」では一部のセクションでフューチャリスティックなアフロ感も。


広範な時代を6曲に凝縮し、早くも濃厚な体験に浸っていると、これまでになくYONCEが丁寧にツアーを振り返る。「アジア4都市ももちろん、国内もどの場所も全然違って。今回初めていらした方、そもそもライブハウスが初めての方もいると思うとありがたくて。我々、ライブハウス代表でもバンドマン代表でもありませんけど、前の日のビールでベタベタする床とかタバコの煙が染み付いたライブハウスで育ってきてるので、バンドミュージック、ライブハウスを代表させていただきます。と言いつつ、今日はいっぱい稼がせてもらいます!」と、最後は笑いに転化した。バイブスが上昇したところに馴染みのキック&スネアとくれば「MINT」だ。ピアノのフレーズの大人っぽさに現在地を感じる。さらに〈alright〉のシンガロングが起きた「Alright」ではTAIKINGが踊り、ダックウォークまでして目を奪う。YONCEだけではなく彼も相当なロックンローラーだ。社会における不満も、その中での自立した生き方を表明するこの2曲はSuchmosの音楽をなぜカッコいいと感じるのか? その理由を全身全霊で感じられるアンセムだと思う。活動を止めていた期間にファンになった20代のリスナーもこの瞬間を待っていたんじゃないだろうか。


ロックバンドSuchmosを印象付けるセクションは未発表曲「To You」に接続。TAIKINGが弾くジミ・ヘンドリックスの「Purple Haze」ばりのフレーズも冴え渡っていた。そして深い感情に招き入れる「Hit Me, Thunder」での集中力。「思想や言葉、傷の場所も違うけど、お前が好きさ」と歌いつつ、現実には共存できない他者を思わせるこの曲。そんな哀しみをサイケデリックなブルースに昇華するバンドが今いるだろうか。しかもバンドに参加して1年に満たない山本が重要な役割を果たしている。もう完全に6人バンドなのだ。闇が温かな光に包まれるように場面転換したのは、新作のとっかかりになったという、YONCEが友人の結婚式で歌うために書いた「Marry」だ。素直な言葉が綴られた歌はプロポーズだけじゃなく、さまざまな命への愛につながる温かい歌だった。


メンバーがツアーを振り返るユルいMCタイムなんて過去のSuchmosでは想像できなかったが、今はフラットに楽しんでいる様子。東京でのご当地トークは分かりやすい名物がなく、山本が「だからって東京ばななじゃないだろうし」と爆笑を誘う。「ここからの演出は激しさを増しますんで」というYONCEのMCから終盤に突入。

アドレナリンを放出させるギターリフから「A.G.I.T.」がスタジアムロックバンドのムードを高め、Kaiki Ohara(DJ)が馴染みのSEを繰り出すと悲鳴に似た歓声が上がり、「STAY TUNE」へ。これを聴かないわけにはいかない初見のファンも多いことが手に取るように分かる。演奏はタイトさを増し、ギターリフも鋭い。立て続けにライブで期待値の高いナンバーが続き、「808」ではTAIHEI、山本のソロパートも挟み、「VOLT-AGE」で再びスタジアムロックバンド的なスケールを怒涛の光の演出とともに見せつけてくれた。キャリアを一望する選曲を違和感なく展開してきたことに感銘しつつ、本編のラストはず太いグルーヴが腰を直撃するセクシーな「YMM」をセット。壮大に終わるのではなく、揺れながら「I’m so cool He’s so cool She’s so cool We cool And you?」をシンガロングする認識のユナイトがSuchmosのライブらしい。フロント人はステージ上を動き回り、山本はエンディングで定位置から大きく離れた場所に。そんなことライブが楽しい証拠としか言いようがない。代替不可能なムードに満たされて本編が終了した。


アンコールでは本編を経て「東京名物はライブハウス」という答えに至り、再度盛り上がる。さらにYONCEはこの日のライブに納得した人もそうでない人も自分の体験をそれぞれの家庭や職場や学校で使ってもらえたらと話した。TAIHEIが新機軸を持ち込んだSuchmos流フィリーソウル「Whole of Flower」では前向きなムードに解放される。そしてラストソングの定番「Life Easy」はイントロでブレイクして全員がストップモーション、さらにTAIKING のソロを「フェンダー、ストラトキャスター!」とYONCEが紹介するなど、今の彼ららしいユーモアが印象に残った。ジャムって曲を作り、ライブをしてツアーをする。再び循環し始めたバンドは帰還の季節を超え、前進に舵を切った。


























