Perfume“コールドスリープ”、いきものがかり“放牧宣言”、宇多田ヒカル“人間活動”……活動休止表現に宿る希望
Perfumeは9月21日、2025年内での活動休止=“コールドスリープ”を発表。10月20日には、ジェニーハイが“フリーズドライ”という表現で同じく一旦歩みを止めることを宣言した。ほかにも日本の音楽シーンでは、アーティストの活動休止を独自の表現で伝えることがある。本稿ではそのいくつかを振り返り、その意義について考えてみたい。
Perfume “コールドスリープ”
“コールドスリープ”とは、SF作品ではお馴染みの“冷凍睡眠”を意味する言葉で、宇宙空間の移動のために用いられる、肉体活動を一時的に低温状態にするテクノロジーだ。
公式コメントでは“コールドスリープ”の理由を「自分たちが胸を張って“輝いている”と思えるこの瞬間を刻むため」「長く人生を共にしていくなら、より良くかっこいいPerfumeでまた新しい挑戦へ進むため」(※1)と述べていた。SF作品でのコールドスリープが未来へと辿り着くための約束であるのと同様に、必ず戻ってくる宣言にも似た表現ともとらえられる。それぞれが成長することが、Perfumeとして輝き続けるのに必要だと考えたうえでの決断だったのだろう。女性アーティストとして未開の境地へ進み続けるPerfumeによる“コールドスリープ”は、新たな可能性の提示なのだ。
宇多田ヒカル “人間活動”
Perfumeの“コールドスリープ”の意義は、宇多田ヒカルの活動休止と近いように思う。宇多田は2010年8月、デビュー12年目に“人間活動”という表現で活動を休止した。
“人間活動”に際して、宇多田はブログ記事で「15才からずっと音楽ばっかりやってきました」と添えた上で、「これ以上進化するためには、音楽とは別のところで、人として、成長しなければなりません」(※2)と記した。早熟な才能とそれに甘んじないストイックな創作によって築き上げた表向きのキャリアの傍ら、「とても偏った経験しかしていません」とも述べており、自身の足りない部分についてもブログ内で併記していた。
休止期間中は海外生活を送るなかで出産や母の死を経験。2016年にリリースされたアルバム『Fantôme』は、人生観の変化が克明に刻まれた作品となった。第一線で活動する上では手放さざるを得ない喜びや悲しみを享受することから生まれた楽曲がそこにはあった。
いきものがかり “放牧宣言”
いきものがかりは2017年に“放牧宣言”と名付けて活動休止を発表。“放牧”という言葉は、牛や羊を広大な草原に放ち、自由に草を食ませて休息させる畜産用語に由来する。グループ名にちなんだ独創的な表現だ。
水野良樹(Gt/Pf)はこの決断を「あくまでグループをより良くする為、自分たちがもっと面白い存在になるための決断だった」(※3)と振り返る。活動初期からJ-POPの最前線で活躍してきた彼らだからこそ抱えざるを得なかった悩みがあり、バンドの持続のために必要な選択でもあったのだろう。
とはいえ、“放牧”の発表は牛の着ぐるみを着た写真で宣言するユーモラスなもので、活動休止という事実とは別に、不思議と脱力感と安心感も覚えた。活動を続けるための休止という前提があるからこそできた表現なのだ。放牧の期間は各自がソロ活動に専念し、水野は他アーティストへの楽曲提供、吉岡はカバーアルバムをリリースするなど、それぞれの持ち場で自由に成長を続け、2018年に“集牧”を宣言し、再び活動を再開させた。
Suchmos “修行期間”
今年6月に活動再開を果たしたSuchmos。2018年に『第69回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に出場、2019年には横浜スタジアムでのライブを成功させるなど時代を象徴するバンドの一組ともなったが、2021年2月より「修業の期間を迎えるため」(※4)という理由で活動休止を行った。“修行”という言葉はそれぞれがストイックな活動に邁進し続けた彼らに相応しい言葉だった。
ボーカルのYONCEはOriginal LoveやThe Street Slidersのトリビュートアルバム、松任谷由実のコラボアルバムなどに歌唱で参加。2023年には新バンド Hedigan’sを結成するなど、精力的に活動していた。TAIKING(Gt)はRADWIMPS、iri、藤井 風といった錚々たるアーティストのライブにサポートミュージシャンとして参加しつつ、2021年以降のソロプロジェクトでは自らボーカルを務め、軽やかで爽快なサウンドの楽曲たちをコンスタントにリリース。ベースのHSUが死去するという悲しいニュースもあったが、メンバーはそれぞれでセッションや新バンドなどで腕を磨き、“修行”の季節を過ごしていた。
そして今年6月の横浜アリーナでの再始動以降、彼らは新作リリースやフェス出演など精力的に活動。10月下旬からはアジアツアーも控えている。ブランクを感じさせないしなやかなグルーヴは、時を経た今のシーンにも色褪せずに届いている。修行の成果はここからさらに表出していくはずだ。
“活動休止”をさまざまな表現で宣言することは、あくまでも活動を続けるための選択だと伝える意味をになっているように思う。それらはただの休止ではなく、その期間にも希望を持てるような日々にもなり得るのだ。
※1:https://www.perfume-web.jp/news/detail.php?id=4262
※2:https://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/utadahikaru/from-hikki/index_3.html
※3:https://www.oricon.co.jp/special/53118/
※4:https://realsound.jp/2024/10/post-1812849.html


























