藤井フミヤはなぜトップランナーであり続けられるのか 47都道府県ツアー、極限まで研ぎ澄まされたエンターテイナーとしての凄み

現在、全47都道府県ツアー『FUTATABI』を開催中の藤井フミヤ。2025年4月18日に愛知県芸術劇場 大ホールを皮切りにスタートした本ツアーは、2026年7月11日・12日の東京・東京国際フォーラム ホールA 2daysまで続くロングツアーである。

デビュー40周年を記念した『40th Anniversary Tour 2023-2024』に続く、藤井にとって自身2度目の全都道府県ツアーだ。チェッカーズ、F-BLOOD(実弟・藤井尚之とのユニット)、そしてソロ楽曲と、藤井フミヤのキャリアを全網羅する内容になることがツアーの告知と同時に発表されると、チケットは次々とソールドアウトに。改めて、藤井フミヤというアーティストのポテンシャルの高さを世間に印象付けた。
本稿では『FUTATABI』ツアーのライブに触れながら、藤井フミヤというアーティストの魅力を探っていきたい。
藤井フミヤのキャリアは、チェッカーズから始まった。80年代に時代のポップアイコンとなった彼らは、それまでのアイドルのイメージを大きく変えた。タブーのないアイドルとして、ブラウン管からはみ出す勢いでお茶の間を席巻した。デビュー当時のサウンドは、オールディーズにルーツを持つポップスという印象だったが、徐々に自分たちが好きなロックやウォールオブサウンド、最先端の音楽を取り入れていく。そのジャンルは、R&B、フォーク、カントリー、ロカビリー、ソフトロック、ハウス、レゲエ、ダブなど多岐に渡る。もう20年以上も前の話だが、藤井フミヤ本人への取材で、ハウスミュージックについて質問したことがある。チェッカーズ時代、藤井はとあるメンバーと0泊3日でニューヨークのクラブに遊びに行き、成田に着いたその足でそのまま「ザ・ベストテン」に向かった、そんなことが何回もあったと笑って話してくれた。現場で浴びた最新のグルーヴを即座に自分たちのサウンドに変換してしまう。この速効性が、チェッカーズがヒットチャートの常連でありながらも、異端児であり続けた理由だと考察する。

『FUTATABI』ツアーの最初のブロックでは、ソロ曲、チェッカーズ曲、F-BLOODの曲が並ぶ。その中に「Room」(1989年)がある。チェッカーズ19枚目のシングルで、メロディの湿度が高めの歌謡曲だが、途中でレゲエのリズムが入ってくるミディアムチューンだ。当時のオリコンウィークリーチャートで最高位3位、同年の年間チャート37位を記録。カラオケブームと重なりロングヒットとなった。


チェッカーズ解散後は、「TRUE LOVE」(1993年)といった平成を代表するラブバラードを残しながらも、次なる藤井フミヤを模索する時期もあった。藤井フミヤのライブには、ダンスが欠かせない。彼のパフォーマンスは、地元のダンス・パーティーでリーゼントでツイストを踊り、ニューヨークのクラブでダンスミュージックの最先端を体感し、ムーンウォークを軽々とやってのけ、ヴォーグのポーズさえも自然に曲中に取り入れてきた、まさにDNAに自分でダンスの変遷を刷り込んできたものだ。そこに新機軸が出てきたのが『Life is Beautiful』(2012年)をリリースした頃。本作を携えたツアーで、藤井はパントマイムをパフォーマンスに取り入れている。


既出したアルバムの前作となる『F's KITCHEN』(2008年)『F's シネマ』(2009年)は、奥田民生、斉藤和義、浅井健一、石野卓球、YO-KING、TAKURO、The Birthdayらに楽曲を提供してもらい、自らはボーカリストに徹した。ここで歌声とはまた別の方法で、曲を表現することはできないのかと考えたのではないかと考察する。この頃からフミヤは、歌詞のワンフレーズを身体で表現するようなパフォーマンスが増えていったように思う。例えば「背中」という単語が出てきたら、くるりと踵を返し背中を見せたり、上空を見ながら手を空中に差し伸べ、雨の行方を確かめる仕草を見せたり。また、昨今の藤井のダンスは、バネのある切れよりも体のしなやかさにポイントがあるように思う。その理由はターンをした時の滑らかさ。体幹の通った動きで、立ち位置から芯をまったく動かさず、小さく綺麗な円形を描く。今のダンスの中に、チェッカーズの曲で当時のお馴染みの振り付けをステップや仕草などで何気なく取り入れているのも本ツアーの醍醐味のひとつだろう。

『FUTATABI』ツアーでは、ライブの後半で、本人の「悲しいラブソングを」という言葉の後に、3曲続けてミディアムとバラードが続くブロックがある。この3曲で描かれるのは、1日の空模様。雨から始まり、最後には晴れた夜空に「Another Orion」が輝く。このブロックで、藤井は歌詞を体現したようなパフォーマンスを随所で見せる。決して派手なパフォーマンスではないが、空中に伸ばす左手の動き一つで、空模様を表現している。曲名を知らなくても、まるで時間を追体験しているように感じられる。これは藤井が歌声の湿度を曲によってコントロールしているからだ。だいぶ前の話になるが、藤井に自分の歌声についてどう思うか聞いた際「湿度があるからバラードは抑えるようにしてる。あまり歌い上げないようにしてる」と言っていた。このブロックが深い余韻を与えるのは、藤井の声がそれぞれの空の色彩を正確に描き切っているからだと思う。

空についてのエピソードをもうひとつ。藤井は40代以降、取材で「ベランダで空を眺める時間が好き」というような言葉をよく口にしていたが、歌詞にもそれが出ている。こんなことを話してくれたことがある。若い時には夜に歌詞を書くことが多かった、だから夜の曲が多い。年齢を重ねるにつれ、夜遊びもしなくなったからねと笑いながら、だから昼の曲が多くなってきてるんじゃないかな、というより夜の曲が少なくなってるんじゃないかなと。藤井は、挨拶代わりのように天気の話をした後に、サラッと同じテンションで確信をつく発言をする。このフラットなスタンスが、今の藤井フミヤという存在を作っているのは間違いない。
ここ5年ほどの藤井フミヤのアルバムには、軽やかでダンサブルなポップスが必ず収録されている。自分を“ポップアイコン”として位置づけ、観客と一緒に踊ることを前提に作られているのではないかと推察する。年齢を重ねても、フミヤは“できるところまで踊る”ことを選んだ。そこには明確な覚悟が感じられる。
「曲はタイムマシーンだから」--これは、藤井が過去のライブで何度も言っていた言葉だ。『40th Anniversary Tour 2023-2024』、そして『FUTATABI』ツアーは、藤井が自分の言葉を証明しながら全国を回っているツアーだと言える。もしひとつ違うところがあるとすれば、前者はタイムマシーンの扉を開けるツアーだったが、『FUTATABI』は、タイムマシーンはいつでも自身の側にあることを提示するツアーと言えるだろう。

ライブの最後のブロックでは「ジュリアに傷心」も登場。藤井尚之の低音のコーラスに、セピア色の思い出が原色になり3Dになって立ち上がる。チェッカーズの1stアルバム『絶対チェッカーズ!!』(1984年)のオープニングを飾る「危険なラブ・モーション」の後「WE ARE ミーハー」へと続く。この曲は、アルバム『フジイロック』(2019年)に収録されたブライトなアップチューンだ。リリース当初からファンに人気の1曲で、藤井がファンと共にライブで育ててきた。今や、ライブのキラーチューンのひとつ。驚いたのは、ポップスとして聴いた場合、チェッカーズの初期の曲との差が感じられないこと。フミヤ自身が「チェッカーズの曲を歌うと声が若くなる」と語っていたが、この曲も、当時を彷彿させる歌声で、観客と同じく手を振りながら歌う。観客が揺らすブレスレット型のサイリュウムは、藤井フミヤのライブの名場面のひとつだ。ライブグッズとして販売されているものだが、観客が手をあげるタイミングが揃うと圧巻だ。フミヤもライブ中に客席を見ながら「綺麗だよ、みんな」と言葉にすることが、これまで幾度となくあった。
ほかにも、2023年の『第74回NHK紅白歌合戦』で司会を務めた有吉弘行とコラボレーションした、「白い雲のように」など、誰もが知る曲も数多くセットリストに組み込まれている。この曲は、作詞を藤井フミヤ、作曲を藤井尚之と、藤井兄弟が手掛けた。本ツアーでも兄弟2人で歌っているが、声質の違いでハーモニーが倍音のように聴こえる。この兄弟の倍音現象は、バンドに尚之が名を連ねるツアーでしか味わえない。


藤井フミヤのライブは“名曲が多いから”とか“ヒット曲があるから”という理由だけで成立しているわけではない。ジャンルを横断し続けた音楽性、歌詞の変化、年齢を超えて踊りきる身体能力と表現の推移、そしてファンとの関係性ーーそれらすべてが、藤井フミヤの現在地を支えている。全47都道府県を“ふたたび巡る”という行為自体、全国のファンに誠実に向き合うフミヤの姿勢そのものだ。
WOWOWでは、12月25日の東京・昭和女子大学人見記念講堂での公演を独占生中継する。WOWOWライブ・WOWOWオンデマンドで18時30分から放送・配信、終了後には1週間のアーカイブも予定されている。また、WOWOWオンデマンドでは藤井フミヤの過去ライブも一挙配信中である。藤井フミヤと一緒に“タイムマシーン”に乗るのは、今。チェッカーズ、F-BLOOD、ソロで歌うことを貫いてきた藤井フミヤの現在地を体験して欲しい。
■番組情報
【藤井フミヤ×WOWOW連続特集 -FUTATABI-】
●生中継!藤井フミヤ コンサートツアー 2025-2026 FUTATABI
12月25日(木)午後6:30~生中継
WOWOWライブで放送/WOWOWオンデマンドで配信
※放送・配信終了後~1週間アーカイブ配信あり
収録日:2025年12月25日
収録場所:東京 昭和女子大学人見記念講堂

■番組サイト
https://www.wowow.co.jp/music/fujii/
■WOWOWオンデマンドでは過去ライブ映像など、16番組を一挙アーカイブ配信中!
https://wod.wowow.co.jp/browse/editorial/43385
























