星空の下で体験した特別なmekakusheのプラネタリウムライブ 空間に溶け込んだ喜びと悲しみの歌

生きることは恋をすること。恋をすることは秘密を抱えること。そして、心の一部をそっと差し出すこと! 〈宇宙だって、きみにあげる〉(「うわのそら」)と歌うmekakusheは大盤振る舞いだと思う。でも、恋ってそういうものなのかもしれない。いや、そういうものかどうかはわからないけど……とにかく今のmekakusheにはそのくらいの勢いがあるのだ。
儚く内省的な質感のインディポップ/エレクトロポップを作っていたインディ時代からは一転、akogare recordsを設立してからの創作は虹がかかったようにカラフルで、溌剌としたポップスへと変わっていった。木下龍也との対談(※1)では「吐き出す言葉がポジティブになった」とも語っていたが、「だって創作はときめきしかなくないですか?」と迷わず言い放ったのも、この1年ほどの充実ぶりが表れているように思う。歌うべき定点が明確になったかのように、mekakusheは新たな方向へと舵を切り、クリエイティブに邁進してきた。その成果がakogare recordsから初のフルアルバム、『138億年目の恋』である。
そしてズバリ「宇宙」をコンセプトに作られたその作品を携えて行われたのが、この度の『mekakushe Planetarium Acoustic Live ~138億年目の恋~』である。会場は有楽町にあるコニカミノルタプラネタリアTOKYO(DOME1)、日付は2025年11月27日。2年前のこの日にakogare recordsでデビューを果たしたmekakusheによる、記念すべきプラネタリウム・ソロライブである(本公演は1st stage、2nd stageの二部構成。この原稿では1st stageについてレポートする)。
ハッキリ言って始まる前からムード満点。円形の天井に、視界を覆うように広がる無数の星々ーー言うまでもなく、普段足を運ぶことの多いライブハウスとはまるで様相を異にしている。まず椅子がステージではなく、空を向く設計という点でも稀だろう。観客はキャンピングチェアに腰をかけ、ゆったりとしたスペースでくつろいでいる。こんなにリラックスした空間で音楽を楽しむのは、ほとんどの人にとって初めてのことだったはずだ。どこまでも綺麗で夢見心地、そんなうっとりするようなステージである。


このライブにおける最も美しい瞬間は、音楽が鳴るよりも前に訪れた。mekakusheが舞台に上がったその時だ。拍手なし。もちろん、歓声もない。オーディエンスの誰もが、まるで示し合わせたように言葉を発さない。演者が舞台に上がってもなお、おおよそ普段のライブでは考えられないほどの静寂。むしろ彼女が現れて、一層静けさが増したようにさえ思った。この舞台には「それしかない」と皆がわかっているみたいに、ただ静かに演奏が始まるのを見守っている。頭上に広がるのは祝福するような光の粒、こんなに綺麗な開演があるのかと思った。

「箱庭宇宙」で始まった(このライブのためのようなタイトル……!)。会場内はまだ夕陽が残り仄明るい。撫でるように奏でられる鍵盤と、mekakusheの透明でイノセントな歌声、まるで静けさを引き受けたかのような幕開けである。続く「ユワナメロウ」がこれまた印象深い。原曲のドラマチックなサウンドとは打って変わって、ピアノの弾き語りになったことで浮かび上がるのは、mekakusheの清らかなメロディである。そして何よりもこの曲の抒情的な一面を引き立ててくれたのが、プラネタリウムという会場だ。気づけば夜が更けたように真っ暗になっており、歌っている本人の姿も見えないくらいの暗闇である。後のMCで「緊張します。みんながいるのかわからないくらい暗い」と話していたが、これこそがこのライブの醍醐味だろう。演者も観客もこの空間の一部なのだ。mekakusheの声は宇宙の中に溶け込んで、まるで星が歌っているようにゆっくりと降ってくる。

「ランデヴ」「スノードーム銀河」の2曲は力強い左手の打鍵が魅力的。低音の深い音色が曲に奥行きを与えており、座りながらに心が踊る。この日最初のMCを挟んで歌われた「恋のレトロニム 」では照明が灯り、いつの間にか大きな泡が登っていくような背景に変化した。なんだか宇宙から海底にワープしたような気分である。「かつて地球は白かった」(原曲は長瀬有花とのコラボ曲)で再び暗転。2月に行われた長瀬とのコラボレーション・ライブでも思ったが、たぶんmekakusheの方が心なしかキーが低い。ということで、彼女ひとりver.では他の曲ではあまり聴けない目一杯の発声が聴けて新鮮である。

「ばらの花」はなんと言っても間奏のメロディが綺麗。mekakusheの右手は流れ星を作っていくみたいにリズミカルに音を刻んでいく。開放的なメロディが印象的な「夜明けの扉」は、きっとこの先何年も歌っていく楽曲になるのではないだろうか。そこから「うわのそら」へと繋いだのも大変良かった。切なさが込み上げてくるような曲調に、冬の空みたいに澄んだ透明な歌声、mekakusheのバラードはどう考えても逸品だ。
後奏をアレンジしてそのまま次の「おやすみベージュ」へ繋げていく。するとフロアがうっすらと明るくなった。気分はまるで黎明、きっともうすぐこのライブも終わるのだろう。強烈にうねりを上げるビートが印象的な原曲のトラックを意識したのか、歌も演奏も心なしかリズミカルだったように思う。そして最後は「生まれて初めて幸せについて書いてみようと思った曲」、アルバムの要にもなっている「ずっとエメラルド」である。


冒頭で触れた対談の中で、mekakusheはこの曲で歌う〈きみが今、隣にいたって さみしいの〉というラインが、自身の創作を象徴していると語っていた。曰く、「インディの時に作ったアルバムではただただ寂しさを歌っていた気がするけど、今回は幸せを歌った上で、それでも寂しかった。この先も幸せと寂しさのバランスをとって曲を作りたい」とのことである。そう、彼女の楽曲は喜びと悲しみが隣り合わせ。「幸せ」と「寂しさ」がメビウスの輪のように巡り、表裏一体となって旋律に乗る。そしてそれが透き通るようなボーカルで歌われる時、すーっと心に染み込んでいくのである。

さて、mekakusheの楽曲において「宇宙」は切っても切り離せないモチーフである。だから多くのファンが会場との親和性を感じてチケットを購入したことだろう。でも、やっぱり「体験すること」は「想像すること」を上回るのだ。僅か1時間の短いセットだが、非常に心に残る演奏だったと思う。ということでこれからも是非、節目節目にこの形態のライブを開催してはどうだろう、という願望を最後に書いておく。
なんとも静かな夜だった。そして芸術において「静か」であることは、「美しい」こととほとんど同義だと思う。〈「恋と宇宙は似ているね。」〉(「ランデヴ」)と歌った理由を考えながら、会場を後にした。


※1:https://realsound.jp/2025/11/post-2227841.html
mekakushe オフィシャルサイト
https://www.mekakushe.com/

















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