なるみや 初撮りおろしインタビュー:楽曲制作の原点、「ユキくんあのね」で提示する“音楽”という拠り所

〈ふつう〉になれなかった日々、“イマジナリーフレンド”が与える居場所
――そして、今回リリースされた新曲「ユキくんあのね」は、人には言えないことも“ユキくん”には話せる、という曲ですよね。
なるみや:ユキくんは“イマジナリーフレンド”なんですけど、こんな大げさな言い回しじゃなくて、もっと身近なものだと思うんです。たとえば私は、今使っている白いピアノに「ユキ」っていう名前をつけてるんですよ。上京する2カ月前くらいの冬に、札幌のお店でこのピアノを見つけて。見た目も白いし、外でめちゃくちゃ雪が降ってたから、ユキっていう。安直ですけど(笑)。
――なるみやさんにとって、ユキはどんな存在なんですか?
なるみや:毎日欠かさず触れるし、目にするので、見守ってくれている存在というか。「ちゃんと毎日仕事しに来いよ」と言われているような感覚もあります(笑)。人間じゃなくて物だけど、私には生きているように感じるんですよ。ピアノのタッチって、その時の感情や体調によって変わるから、対話しているような感覚になって。私の場合はピアノがその相手だけど、「ぬいぐるみになら、誰にも言えない本当のことも言える」という人もいると思う。最近だとAIとのチャットとか、いろいろな人にとって“ユキくん”のような存在がいるんじゃないかと思いながら、この曲を書きました。さっきの話に通じるけど、周りに相談できないから、そういう存在が生まれるんだと思うので。イマジナリーフレンドをおすすめする曲というわけではないけど、そういう逃げ道とか吐き出し方もアリだよね、大切にしていきたいよね、と思います。
――歌詞に綴られているのは、なるみやさんの実体験ですか?
なるみや:半分自分事でありつつ、半分物語でありつつ、みたいな。融合させながら書きました。
――〈ユキくんあのね きょうもわたしは/「ふつう」ができませんでした。〉という歌い出しが切実だなと思いました。普通って何でしょうね?
なるみや:難しいですよね。自分が普通だと思ってやっていたことが、周りにとっては普通じゃなかったとわかった瞬間が一番ショックだと思うんですけど。この歌い出しは、それに気づいて、頑張って〈ふつう〉をやろうとしているのに、「ああ、今日もできなかったっぽいな」みたいな。だから、絶望からスタートしていますね。
――続く〈なにをしてても なにもしてなくても/おこられてばかりです。〉という歌詞は、何をしていても間違っていると言われてしまう、そんな絶望ですよね。
なるみや:「私って、何をやってもダメじゃん」と思って、何もしなかったらそれも「ダメじゃん」って言われて……「じゃあ存在していることがダメなんじゃん」っていう。極端な考え方ですけど、周りとのズレから、学生時代にそう思ってしまったことが実際にありましたね。
――楽曲の終盤では“治す”という言葉への強い抵抗が歌われています。
なるみや:学生時代は本当に尖っていたので。たとえば、みんなが受ける模試をひとりだけ申し込まなかったりしたんですよ。みんな大学に進学する前提で勉強してるけど、私は大学に行くつもりはないから、模試も必要ないなと思って。だけど、模試に申し込まないと学校から家に電話がかかってくるし、進路希望の紙には大学名を書く欄しかない。そういう時に、存在ごと否定されているような気持ちになりました。「自分の考え方はおかしいんだ」「受け入れられないんだ」って。
――つらい状況だったと思いますが、どう折り合いをつけていったんでしょう?
なるみや:模試を申し込まなかったことは親にも特に伝えていなかったんですけど、学校から電話がかかってきた時に、親が「あっ、あの子はそれでいいんで」みたいな感じで言ってくれたんです。申し訳ないなと思いつつ、「理解してもらえているんだ」という驚きもあって、その瞬間はちょっと救われましたね。
――親御さんが理解してくれたのは救いでしたね。でも、誰もがそうした理解者に恵まれるわけではない。だからこそ、この曲の主人公は、“ユキくん”に話を聞いてもらっているわけで。
なるみや:そうですね。
――音楽も、人の心の拠り所になり得ると思いますか?
なるみや:うん。なると思います。私自身しんどい時に音楽を聴くことがあるから、なり得るんじゃないかと思うし、なったら嬉しいなって。そこに希望を見出しながら作っているところがあるので。誰かの感情を代弁したり、つらい時に聴いてもらえる曲になれたら嬉しいです。

――制作全体を振り返っていかがですか?
なるみや:すごく楽しく書けました。この曲は、前半と後半でけっこうギャップがあるんですけど、そこのメリハリは絶対に表現したくて。なので、前半は明るすぎるくらい明るく。逆に後半には、普段だったら絶対入れない汚い音とかも混ぜました。キーボードをバンバン叩く工程もあったんですけど、そういうのもめちゃくちゃ楽しくて(笑)。
――あははは。いいですね。
なるみや:子どものお絵描きみたいに、ぐちゃぐちゃーって。今回「人にどう思われたいか」という意識を一旦取っ払って、わがままに作ってみようと思いました。歌い方も幼いし、タイトルも「そもそもユキくんって誰?」って感じだし……ヒットさせることを考えたら、こんな曲は作れない(笑)。デビューから2年半経って、ちょっと原点に戻りたくなったんですよね。
――今年は特にいろいろな挑戦がありましたからね。EPをリリースしたり、初のツアーを開催したり。
なるみや:本当に1年があっという間で。次々と、目の前にやってくるものに対して、ただ夢中で、全力で取り組んでいました。
――2026年はどんな活動をしていきたいと思っていますか?
なるみや:「もう一度下積みだな」と思っています。もちろんライブとか、新しいことにも挑戦していきたいけど、それと同時にゼロから基礎をやり直したいんですよね。
――なぜ、そう思ったんですか?
なるみや:メジャーレーベルさんから曲を出させてもらっていて、周りの方々の協力もあって、形にはなっているんですけど、なんかもっと……「足りないな」と思うようになりました。友達のアーティストの曲を聴いたり、ライブを観に行く機会もある中で、「私ももっと頑張らないと」という気持ちが強くなってきていて。
――周りの人たちから、いい刺激をもらっているんですね。
なるみや:そうなんです。歌唱力とか技術面もしっかり評価されるアーティストになっていきたいし、“本当にいい曲”を書いて、リリースして……ということをハイペースでできるように、ちゃんと基礎力を高めていきたい。自分の中にあるものが全部枯れきった状態で活動を終えられるのが理想だなと思っていて。
――枯れきってから?
なるみや:私にとって曲は、涙みたいものだなと思っていて。涙って、悲しくていっぱい泣いていても、いつかは枯れるじゃないですか。だけど、また悲しいことがあれば出てくる。泣こうと思っても泣けない時もあれば、思ってないのに涙が溢れる時もある。曲もそれと同じで、自分の意思ではコントロールできない部分もあるけど、だからこそ嘘がないというか。そういうものが自分から出てくる限りは、全部出しきるつもりで、これからも曲を作り続けていきたいですね。

■楽曲情報
「ユキくんあのね」
2025年11月21日(金)楽曲配信
配信リンク:https://lnk.to/narumiya_ya
■公演情報
『なるみやと秘密のティーパーティー』(Guest:ロス)
場所:横浜ランドマークホール
日時:2025年12月25日(木)
[昼公演] 15:00開場/15:30開演
[夜公演] 18:00開場/18:30開演
チケット:
・グッズ付指定席 7,800円(税込/ドリンク代別)
グッズ内容:オリジナルアロマキャンドル]
・指定席 6,000円(税込/ドリンク代別)
イベント詳細:https://narumiya-official.jp/teaparty_2025/
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