なるみや 初撮りおろしインタビュー:楽曲制作の原点、「ユキくんあのね」で提示する“音楽”という拠り所

なるみや 初撮りおろしインタビュー

 シンガーソングライター・なるみやが、新曲「ユキくんあのね」を配信リリースした。今回リアルサウンドでは、SNS発の楽曲でミリオンバズを連発し、セルフプロデュースで世界観を築き上げている彼女へ、自身初となる対面でのインタビューを実施。幼少期の音楽体験、DTMとの出会い、ボカロ文化への憧れや歌い手としての活動を始めた頃の試行錯誤、SNSで爆発的に広がった作品が自身にもたらした意識の変化、そして、最新曲「ユキくんあのね」に込めたテーマなど、これまで語られてこなかった背景へ多角的に迫る。

 現代の若者の心の奥底にある“不安・孤独・希望”をポップに描き続ける彼女の音楽ーー。言葉にならない感情を抱える人にこそ届いてほしい、等身大の歌がここにある。(編集部)

ボカロ文化との出会いを経た“ひとりで作る音楽”への目覚め

――なるみやさんは5歳でピアノを始めて、12歳でDTMで打ち込みを始めたそうですね。それぞれどんなきっかけで?

なるみや:雑誌に載っているピアノを見て、なんとなく「やりたい」と口に出したら、親が「じゃあ習いに行こう」って言ってくれて。それが5歳の頃で、家にあるキーボードを遊びでよく触っていました。そこから曲を作り始めるまでは7年近くあったんですけど……ピアノの先生が、曲の中で「ここは自由なパートにするから次の週までに考えてきて」って無茶振りをしてくるんですよ(笑)。今思えばそれも一種の作曲だったなと思いますね。最初は「できるわけないじゃん」と思っていたけど、宿題で出されたからやるし、とりあえず作って持っていく。そういうのを繰り返してました。

なるみや(撮影=林直幸)

――そこから「自分で歌う曲を作ろう」と思ったのは、どういう流れがあったんですか?

なるみや:小学生の時にちょうどVOCALOIDが流行っていたんです。私が最初に触れたのは、じんさんやDECO*27さんの楽曲。「ボカロってどうやってできてるんだろう?」と調べた時に、ボカロPと呼ばれる人がDTMでひとりで作っていると知って、カッコいいなと思ったんですよね。同じ時期に知ったまふまふさんのことも「作詞も作曲も編曲も歌唱も、全部自分でやりきってるんだ」「どれをとってもまふまふさんの曲だってわかる」「全部に特徴があってすごいな」と思って。そこから「私にもできるのかな」「やってみたい」という気持ちが出てきたので、小学校6年生の時に親に「やりたい」と伝えて、プレゼントで作曲セットを買ってもらいました。だけど初音ミク(シンガーソフトウェア)は買っていなかったので、最初はインスト曲ばかり作っていたんですよ。

――自分で歌ったりもせず?

なるみや:もともと歌は得意ではなかったので、「私が歌うなんて絶対にありえないことだ」と思ってました。だけど「なんでもいいから、一度SNSに曲を上げてみたい」と思った時に、下手くそだと思いつつも、自分でスマホでボーカルを録ったんです。そしたら、その曲がバズって。

――初めて自分で歌った曲を初めてSNSに投稿したら、いきなりバズったと。どんな気持ちになりましたか?

なるみや:「これでいいの?」という気持ちがありましたね。「声がかわいい」「声が綺麗」といったコメントをいただいたんですけど、自分の声に対してそう思ったことがなかったので。「そう思う人もいるんだ」「自分の評価と他人からの評価ってやっぱり違うんだな」という驚きがありました。

@naru_sleep ぜったい採用されなくて鬱#高校生 #オリジナル曲 #着信音#iphone着信音 #おすすめにのりたい ♬ 着信 - なるみや

――驚きが、自信にもなった?

なるみや:いや、最初の頃はずっと信じられなかったですね。投稿したその日に、TikTokのアプリをダウンロードしたんですよ。TikTokの仕組みも何もかもわからない状態だったので、「初めて投稿した人には褒めるコメントがたくさんつく仕様なのかな?」「実は全員偽物なのかもしれない」って(笑)。今思えば、仕組みがわからないままやっていたのがよかったのかもしれないです。動画を観る人たちと同じ目線で投稿できていたというか。

――ファンの人から「こういう曲を作ってほしい」というリクエストに応える形で曲を作ることも多いですよね。そういうことを始めたきっかけは?

なるみや:最初の頃、歌詞が全然書けなくて。メロディやアレンジのアイデアは溢れているのに、「じゃあどんな歌詞をつけたらいいんだろう?」と悩むことも多かったんですけど、テーマをいただいたら、けっこうすんなり出てきて。

――「こんなコメントが多いな」「こんなことで悩んでいる人が多いのかもしれない」といった気づきはありましたか?

なるみや:周りに上手く馴染めない人って、学校では少数だと思うんですけど、私の曲にコメントをくれる人は90%くらいそうだな、と。学校では少数派の人たちが同じ場所に集まれば、そこではもう“馴染んでいる”状態になる。そういう居場所を作ることができるのかもしれないという気づきがありました。

なるみや(撮影=林直幸)

――そうして自分が歌いたいことを自覚していったんですね。

なるみや:あと、スタッフさんから初めて楽曲をリリースするまで、「毎週1曲デモを提出する」ということを1年半くらい続けていた期間があって。すごくしんどかったんですけど、その経験のおかげで気づけたこともありました。最初の頃は、カッコつけた曲や、自分らしくない強い曲とかも提出していたんですよ。だけど後半になると、自分から暗い曲しか出てこなくなって。その時に「私は心に抱えていることを“音楽”という手段で開示したいんだな」ということに、だんだん気づいていきました。人に言えない悩みって誰しも持っていると思うんですけど、私は特に、人に相談できるタイプじゃなかったので。そういうものを曲にすることで、ずっと心の中にあったものが消化されたような感覚がありました。

――ということは、「まずは自分を救いたい」というモチベーションが楽曲の出発点になっていると。

なるみや:そうですね。最初は「自分が楽になりたい」「吐き出したい想いがあるから曲を書く」という感じだったけど、SNSのコメントとかをきっかけに、ほかの人の居場所も作れるかもしれないと気づいて……という感じです。

――普段は心の中にしまっているような感情をあえてポップなサウンドに乗せているのが、なるみやさんの楽曲の特徴ですよね。

なるみや:ロックとか、不満を思いっきり叫ぶような曲にも憧れがあったんですよ。だけど、そもそも自分は思っていることをそのまま吐き出せる人ではないので……。ポップな曲調に暗い歌詞っていうのは、本当は言いたいことがあるのに取り繕ってしまう自分みたいだなと。これが私の見つけた答えなのかなって、今は結構しっくりきてます。ライブでファンの方々の顔や様子を見ていると、そんなに闇があるように見えないというか……みんなすごくやわらかくて、優しくて、普通に生活してそうな人に見えるんですよ。その人が抱えている闇や孤独って、やっぱり目に見えてわかるものじゃないんだなと、いつも感じながら活動しています。普段頑張っている人や無理しちゃっている人でも、つらくなった時には気軽に私の曲を聴いてほしいし、年に何回か行くライブや音楽自体を居場所にしてくれたらいいなと思います。

――なるみやさんの場合は、なぜ「人には相談しづらいな」と感じるんでしょうか?

なるみや:ちっちゃい頃からずっと「明るくてキラキラした人に見られたい」という気持ちがあるんですよね。「私はこういう人間だ」という設定を自分で作って、その設定に合わない悩み事とかは、家族も含めてほかの人には一切言わないんです。「この悩みはなかったことにしよう」という方向に持っていきがちだけど、そうすると実際の自分との辻褄が合わなくなるし、自分の内側に溜まっていく何かがあって……。

――そこまで自己分析できているのに、設定を作るのがやめられない?

なるみや:えっ……厨二なんですかね(笑)? 生きている限り、設定に合わない悩みってどうしても出てくるから、どんどん溜まるし、心も枯れて……それが曲に繋がっているんだろうなと思います。

なるみや(撮影=林直幸)

――今はSNSもあるから、「こう見られたい」という理想像と生身の自分とのギャップを感じている人は、すごく多いんじゃないかと思います。

なるみや:うん、そうですね。自分の写真をSNSにアップするにしても、画像の加工が当たり前になっているから、たとえば無加工の写真が出た時に「顔が全然違う」と叩かれてしまったりとか。そういうことがSNSの中では日常茶飯事だから、もともと気にしていなかった人も「あっ、こういう世界なんだ」と影響されて、どんどん臆病になっていく気がしますね。

――だからこそ、逃げ道や居場所が大事になってくる。生身の自分として呼吸できる場所というか。

なるみや:そうですね。あるといいなと思うし、「ないとやっていけない」という人も多いんじゃないかと思います。

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