玉置浩二、故郷楽団と共に10年歩んだ音楽巡礼の旅 “聖地”に響かせた美しく荘厳な歌声

玉置浩二、最新ツアーを振り返る

 近年、コンサートに重点を置いて音楽活動を続けている玉置浩二。春の交響楽団とのシンフォニック・コンサート、夏から秋にかけて開催する故郷楽団とのホールツアー、冬の全国クリスマスディナーショー。四季を通じて各地に赴き、様々なスタイルで歌を贈り届けている。そして、故郷楽団と始めた音楽巡礼の旅も今年で10周年を迎えた。

 今年も8月から11月にかけて組まれた全24カ所34公演のホールツアー。途中、新型コロナウイルス罹患により4公演が延期となったが、彼は歌い続けた。そして迎えた東京ガーデンシアター。年明けに振替公演を残すものの、区切りとなるファイナル公演には早い時間から満場の大観衆が詰めかけた。

 定刻を過ぎ場内が静かに暗転すると、バンドが定位置につく。キーボード、ギター、パーカッション、ベース、ドラムスに加えて、サクソフォーン/フルート2名、ヴァイオリン4名、ヴィオラ2名、チェロ2名。総勢15名の演奏家たちが奏でたのは、器楽曲「あこがれ」。心の琴線をなぞるような旋律が丁寧に紡がれ、音の連なりが余韻となって鳴り響く。そして、満場の拍手の中を玉置が上手から登場する。

『玉置浩二 with 故郷楽団 10周年 Concert Tour 2025 ~blue eggplant field~』

 最初に歌い出されたのは「青い“なす”畑」だ。舞台中央に置かれていた青いバスカリーノを爪弾きながら、追憶の中にある故郷の風景を歌で綴っていく。優しい歌声と豊潤な演奏によって、聴衆は郷愁へと誘(いざな)われていく。アップテンポな「からっぽの心で」は、喪失を乗り越えて進んでいくことを伸びやかに歌い上げる賛歌。歌い終わると目を閉じ、そして遠くを見上げ、最後に客席に向けて深く頷く。続く「それ以外に何がある」では “大切なものは何か”という問いかけが聴き手の胸に沁み込んでいく。エンディングでは、言葉にならない感情をフェイクに乗せる。全身全霊を込めて歌い終えた彼がみせたくしゃくしゃの笑顔も素敵だった。

『玉置浩二 with 故郷楽団 10周年 Concert Tour 2025 ~blue eggplant field~』

 いつも以上にエスニックな味付けが加えられた「太陽さん」では、ドラマティックなバンドアレンジとパワフルな歌唱が熱を帯びていく。タイトな8ビートに“頑張れ”と力強いメッセージを込める「古今東西」では、その熱量の高さに呼応したオーディエンスが総立ちとなる。ステージ後方に置かれたミラーボールが黒いロングコートとブルーのストールを身にまとった玉置の姿を浮かび上がらせたのは、ジャジーな「最高でしょ?」。ムーディーな空間が一転、ファンクな展開へと転調していく。ゴージャスかつエロティックな緩急と振り幅は、音楽家・玉置浩二の真骨頂だ。前半最後は純度の高いバラード「コール」。ぬくもりを求める切なさを噛み締めるように歌い出す。そして、クライマックスでの圧巻の熱唱。その至極のハイトーンは、すべての痛みを癒し洗い流してくれるかのようだった。

 約20分の休憩時間をはさんで始まった後半。「青い“なす”畑」のインストゥルメンタルバージョンが奏でられると、衣装替えをした玉置が再びステージへ。歌われたのはビートたけしに提供した「嘲笑」。大切な誰かを思う心は人の営みの根幹を成すものだ。星をモチーフに大きな視点で描かれたラブソングに息を飲んだ。続く「しあわせのランプ」は、日々の暮らしに灯をともすようなスローナンバー。背中にそっと手を添えるような柔らかな歌声が温かかった。そして、名曲「サーチライト」ではハンドマイクを持ち万感を歌に託す。ぬくもりに満ちたバラード三曲に、誰もの胸襟が静かに開いていくようだった。

『玉置浩二 with 故郷楽団 10周年 Concert Tour 2025 ~blue eggplant field~』

 一転してハードでエッジーなサウンドが鳴り響く。ソリッドかつダンサブルなリズムが展開する「じれったい」だ。ハードロックテイストの激しいギターソロをフィーチャーした「好きさ」を続け、会場が世界最先端のナイトクラブと化したかのような熱狂が繰り広げられた。敬意と共感を分かち合うようなメンバー紹介を経て、満を持して放たれたのは「JUNK LAND」だった。研ぎ澄まされたコトバを速射砲のように放つ玉置を、高度で複雑なバンドアンサンブルが追走していく。“ガラクタだけど 心を込めて”歌う彼の生きざまが伝わる名演だった。熱いコール&レスポンスそのままに続けられたのは大ヒット曲「田園」だ。全員のハンドクラップで心を合わせて、生きていくことを力強く肯定する。加速するダイナミズムがそれぞれの“生”を祝福するアンセムに酔いしれた。

『玉置浩二 with 故郷楽団 10周年 Concert Tour 2025 ~blue eggplant field~』

 「メロディー」では、呟くような歌い出しから始まり、最後はロングトーンシャウトを会場の隅々まで響かせる玉置。賞賛の拍手はいつまでも止まなかった。メンバーと共に客席へ何度も感謝の意を表した後は、ひとりステージに残り「MR.LONELY」のフレーズを叫び全員と分かち合う。見事な魂の交感を果たして、彼はステージを下りていった。熱烈なアンコールを受けて、慈しむような表情で戻ってきた彼が最後に披露したのは最新曲「ファンファーレ」だった。TBS系ドラマ『ザ・ロイヤルファミリー』主題歌として書き下ろされたナンバーを披露し、大切な仲間へのエールを力いっぱい叫ぶ。五階席の一番後ろのその先にまで届けとばかりにシャウトする玉置と、その叫びを全身で受け止める大観衆。とても美しく荘厳な光景だった。

『玉置浩二 with 故郷楽団 10周年 Concert Tour 2025 ~blue eggplant field~』

 誰もの“生”に真っ直ぐ向き合い、メロディーを紡ぎ言葉をしたため、無駄をそぎ落としてただ歌い続ける。変わることのない無垢で真摯な姿勢に深く感じ入った。故郷楽団10周年。ツアータイトルに1993年に発表した楽曲「青い“なす”畑」の英語表記を冠して、また新たな原点に立ち返ることを表明した玉置浩二。MCで多くを語ることはない彼だが、歌は雄弁だ。その至高の歌が贈り届けてくれたのは、眩しく輝き続ける“かけがえのない愛”だった。

 WOWOWでは2026年1月より2カ月連続で玉置浩二を特集する。本公演の独占放送・配信に加え、故郷楽団との初公演『玉置浩二 ~故郷楽団 Concert Tour 2015~』も2026年2月に放送・配信。玉置浩二の圧巻の歌声と音楽の魅力を存分に堪能し、WOWOWで新しい年の始まりを感動と共に迎えていただきたい。

■番組情報
『玉置浩二 with 故郷楽団 10周年 Concert Tour 2025 ~blue eggplant field』
2026年1月1日(木・祝)午後7:00~放送・配信
※WOWOWオンデマンドにて2週間アーカイブ配信あり

『玉置浩二 ~故郷楽団 Concert Tour 2015~』
2026年2月放送・配信予定
※WOWOWオンデマンドにて2週間アーカイブ配信あり

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