2025.11.19 18:30

京都発3人組バンド KI_EN 初インタビュー　出会い、ルーツ、楽曲制作――1stアルバム『旅立ちのとき』に繋がるすべて

トオミヨウとの邂逅が与えた影響

――この曲には、トオミヨウさんが共同プロデュースとして参加しています。自分たち以外の方と一緒に曲を作る経験はいかがでしたか？

野川：メンバー以外と曲を作ることが初めてで、トオミさんの引き出しの多さに驚きました。もともとこの曲って、バンドサウンドをイメージしたアレンジになっていたんですよ。そこから、メンバーと相談したり、トオミさんと相談したりして、よりピアノがしっかり映える、かつ、歌の繊細さを味わえる曲にしたいと思って。もともとはドラムでバコーンってやっていたんですけど、そういうのを1回やめて、（ドラム以外の）パーカッションでアレンジしていく方向になりました。自分でも1度パーカッションでのアレンジを試したんですよ。ただ、もともとドラムを想定して作っていたんで難しくて。悩んでいたときに、トオミさんが手掛けてくださったアレンジを聴いて、“答え”を提示されたというか……。さすがだなと思いましたね。

澤：空間の取り方、間の取り方が面白いなって思うシーンがすごく多くて。リズムの見つけ方を学びましたね。あと、僕が言うのはおこがましすぎるんですけど、足し算、引き算がすごくお上手で。僕が引っ込めていた音を、トオミさんが前に出したらすごく良くなったり。「これを前に出すんや」ってとても勉強になりました。

橋本：この曲は、1曲を通してピアノが繋がっている曲なんですけど、どこを目立たせて、どこで引いて、どこで歌を聴かせて、とすごく計算されたアレンジになっているなと思って感動しました。

――こういったバンド然としていない曲に、ギタリストとして向き合う上で、何か意識していたことなどがあれば教えてください。

澤：ギタリストとして主張しすぎないことが大事かなって。ある意味、自我を殺すというか。その場に馴染むもの、その場の情景に合ったものをちゃんとしっかり出していけたらなって、いつも思っています。

――ありがとうございます。「旅立ちのとき」は、今回のアルバムの幕開けを飾る曲にして、曲名がそのままアルバムタイトルになっています。今までのお話を聞いていて、とても思い入れの強い曲なのだとあらためて思いました。

野川：最初の構想では、「旅立ちのとき」を1番最後の曲順にしようと思っていたんですよ。

――終点としてみるなら、ってことですよね。

野川：そうですね。でも話し合いをしていくうちに、この曲を頭に持ってくることによって、次の曲たちの聴こえ方というか、意味合いが変わってくるんじゃないかなと。それで、この曲が1曲目って面白いかもって。

――サウンドメイキングについても詳しくお聞きしたいのですが、それぞれの曲のアレンジはどのように進めていますか？

野川：基本、僕がアレンジをやっているんですけど、曲が求める形に向けて、いちばん自然なアレンジを考えているような気はしてて。作り方は色々で、それこそオケから作ったり、弾き語りで作ったりとかもするんですけど、でもやっぱりメロディを聴いたり、リズムを感じたりすると、「これは間違いなくこのアレンジがいい」ってパッと思うので、それをいかに実現できるかっていう、そういう作り方ですね。

橋本：そこにみんなでアイデアをプラスしていくんですけど、けっこう瞬間的な発想の連鎖というか。「こういうのを入れたい」と思った瞬間に入れていく、足していく、みんなで弾いていく、みたいな感じでずっとやっています。

野川：確かに、瞬発的よな。こんな感じ、と提案されたら、速攻で電話かけて「ここの音をドからミに変えて」って伝えて。その5分後ぐらいにまた送られてきて、「やっぱ、あっちのほうがいいわ」とか。そのままいきなり家に走っていって、直接伝えるっていうことも度々ある（笑）。

――そういえば、おふたりは家が真裏なんですもんね。

橋本：頑張れば、ギリギリ、エアドロ（AirDrop）が届く距離なので（笑）。

澤：やっぱり、自分では発想できないアイデアがふたりから出てきて、いつも刺激を受けているんで。それに対して、どれだけ対応できるかなって、いつも思ってます。

「どこまでできるか試してみたい」（澤）

――完成したアルバムをご自身で聴いてみて、何を感じましたか？

野川：バラエティがあって、自分たちのやりたいことがすごくできた曲ばかりだなって思いましたね。お話しいただいたような“時間”というものをテーマとして決めて曲を書いたわけではなかったんですけど、無意識のうちに一貫性を持っていたというか。僕が曲を書くとそういう曲になってしまうのかもしれません。確かに「シミラー」という曲は、最後には〈呆気なく散って層になる…〉と記憶の一部になるようなイメージがありますし、「輪廻」は、過去への未練を表現した曲でもあるので、“時間”という共通項はありつつも、その捉え方は曲によって違うなと思いました。

橋本：ジャンルに富んでいて飽きずに楽しめるし、色々な魅力があるので、出来上がったときに1stアルバムとして相応しい一枚だと感じました。今後が楽しみになりましたね。

澤：僕は通して聴いたときに、バラエティに富んでいるのはもちろんなんですけど、なにより“1stアルバムらしさ”を感じました。自分たちのありのままが出ているというか、石にたとえるなら、整えられた丸い石ではなく、ゴツゴツしたままの削れていない石みたいなイメージですね。

――本作を経て、今後、どのような「旅立ちのとき」に向かっていくのか。最後に聞かせてください。

野川：どういう未来が待っているかはさっぱり分かんないですし、あんまり先のことを考える気もなくて。それより今は、旅立つときに思いをはせることで、無茶ができるような自信が湧いてくるというか、物怖じせずに突っ走れるかもっていう気持ちです。なので、自分がいちばん納得できる形で旅立てるように、これからも気を抜かずに、自分がやりたいこと、思っていることを存分に出していけたらなと思います。

橋本：僕は、今回8曲中7曲ミックスをしまして、KI_ENにしかできないミックスというか、KI_ENのことを理解しているからこそできるサウンドを作れたんじゃないかなと思っています。もちろん曲によっても異なりますが、ボーカルがいちばん聴こえやすくて、特徴的な音色も取り入れつつ、立体的なサウンド。今後も、3人で合わせもった音を紡いでいって、2nd、3rdアルバムになっても、「KI_ENといえばこのサウンド」と、聴いてくださる方に感じてもらえたら嬉しいと思います。

澤：まだ1stアルバムなので始まったばかりなんですけど、常にもっといろんな新しいことにチャレンジしていきたいなと思っています。どこまでできるか試してみたい。不安を感じるときもあるんですけど、そこに怖気づかないようにしっかりやっていきたいなと。

――12月には、東京と京都でワンマンライブの開催が控えていますね。

野川：僕たちはこれまで、数曲しかリリースしていない状態でライブをやっていて、リリースしていない曲を初めて聴いても楽しめるように、って考えながらライブを構成していました。でも今回のアルバムがリリースされることによって、それがちょっと広がって、今までより素直に、カジュアルに楽しんでもらえるようなライブになるかなとは思っています。みんなに歌ってもらうとか、そういうこともできたら嬉しいですね。