KI_EN、地元京都ワンマンで覗かせた大器の片鱗 ライブハウスを超えたスケールで描くドラマティックな音世界

KI_EN、京都ワンマンで覗かせた大器の片鱗

 京都発の3人組バンド、KI_EN(きえん)。野川爽良(Gt/Vo)、橋本歩夢(Key)、澤風雅(Gt)によって結成。ベースレス&ドラムレスの編成で、ライブでは打ち込みのリズムトラックを駆使。現時点でリリースされている楽曲は3曲のみ。これまで重ねてきたライブの本数、フェスやイベントへの出演回数は決して多くはないが、関西圏を中心に、少しずつ、しかし確実に、認知と支持を広げつつあるバンドである。8月9日、彼らは、自分たちにとってのホームであるライブハウス・KYOTO MUSEにて、2度目のワンマンライブ『KI_EN 2nd one_man LIVE 「合縁_奇縁 弍」』を開催した。本稿では、同公演の模様をレポートしていく。

『KI_EN 2nd one_man LIVE 「合縁_奇縁 弍」』(撮影=Satoki Demoto)

 まず、ステージを覆う紗幕へ、バンドのロゴを一枚ずつ手染めする職人の手元の映像が映し出され、続いて、そのバンドロゴが大々的に投影される。次に、青々とした木々、燦々と降り注ぐ陽光、川のせせらぎの映像が映し出され、次第に、生命の躍動と輝きを想起させるような壮大なサウンドが鳴り渡ってゆく。そして、ライブタイトルが大きく投影され、そのまま1曲目の「春風」へ。大自然の雄大なスケールを感じさせる野川の力強い歌。ダイナミックに躍動する澤のギター。そして、鮮やかな彩りを添えていく橋本のキーボード。3人の声と音が分かちがたく重なり合いながら豊かなアンサンブルを紡いでいき、そして、1番のサビの〈春の風に〉という歌詞に合わせて、紗幕に満開の桜の花の映像が映し出される。なんてドラマチックな幕開けなのだろう。続いて、橋本のキーボード、野川のヴァイオリン、澤のギターのソロプレイを経て、「日晴」へ。紗幕には、快晴の青空と真っ白な雲が映し出されている。4つ打ちのキックを推進力にして、まるで一歩ずつ大地を踏みしめるように逞しい歌声を届けていく野川。サビでは、彼の歌声が流麗なメロディラインに乗って一気に飛翔。そして、これまでステージを覆っていた紗幕が降り、3人の姿があらわに。ステージ中央に設置されたバンドのロゴ入りの提灯も目を引く。

『KI_EN 2nd one_man LIVE 「合縁_奇縁 弍」』(撮影=Satoki Demoto)

 野川による簡単な挨拶を経て、「輪廻」へ。そして、ライブ初披露となった「茶柱」へ繋ぐ。和のテイストを強く打ち出した妖艶なグルーヴが光る曲で、野川はハンドマイクでステージを往来しながら、また、両手を上下に大きくバウンスさせて観客を巻き込みながら、矢継ぎ早なラップを届けていく。間奏では、「いったれ!」という野川の言葉を受けて、橋本が鮮やかなソロをかます一幕もあった。「夢のまた夢」では、野川が両手でマイクを深く握り締めながら切実な想いを丁寧に歌い届け、「Fifty-Fifty」では、橋本のキーボードに野川が歩みより、2人で連弾を披露。先ほどのヴァイオリンしかり、野川のマルチプレイヤーぶりに改めて驚かされる。この曲では、野川と橋本のマイクリレーが展開。橋本の歌声も、野川に負けないくらい堂々たる響きを放っていて、また、アウトロでは、澤がステージ中央へと繰り出し、鮮烈なソロを炸裂させる。次々とハイライトとなる瞬間が押し寄せてくる、まさに圧巻のプレイだ。

 ここで、リアレンジが施された2つの既発曲が立て続けて披露される。1曲目が「Better」。どこか物悲しげな響きを放つ橋本のシンセ、澤のアコースティックギターの上に、時おり激しく躍動する性急なリズムトラックが重なる。原曲とは手触りが大きく異なる大胆なリアレンジに驚かされる。2曲目が、焚き火の音が鳴る中で披露された「スノーハート」。引き算のアレンジが冴え渡っていて、それによって野川の歌の伸びやかさがよりいっそう際立っていた。「どうでしたか?」「僕たちまだ3曲しかリリースしてないので、こうやって曲の可能性を広げていけたらな、と」野川の言葉に、フロアから温かな拍手が送られる。

 橋本によるグッズ紹介のコーナーを経て、ライブは後半へ突入。野川が「後半戦、ぶっとばしていきますんで、最後までみなさんどうぞよろしくお願いします!」と叫び、改めてメンバー紹介を兼ねたソロ回しへ。そして、たおやかなトラックを通して煌びやかな光をめいっぱい振りまくイントロを経て、「忘れられんな」へと繋ぐ。シンフォニックに広がっていくサウンドに呼応するように、次第に熱さとエモーショナルさを増していく野川の歌声。観客は、高く上げた両手をおおらかにクラップしながら、彼の歌と3人のサウンドを彩っていく。ライブだからこそ観ることができる美しい光景は、まだまだ続く。「星空に一番近い場所」では、ステージ背面に無数の星たちが燦々と映し出され、そして野川の歌が、天高く突き抜けていくように力強くドラマチックに響き渡る。その壮大なスケールのあまり、今自分がライブハウスの中にいることを忘れてしまいそうだった。

『KI_EN 2nd one_man LIVE 「合縁_奇縁 弍」』(撮影=Satoki Demoto)

 ここで野川が、9月にニューシングルとして「記憶の地図」をリリースすることを発表。同曲を披露する前に機材トラブルがありライブが一時中断となったが、メンバー3人それぞれが機転をきかせてMCで間を繋いだり、観客と親密なコミュニケーションを重ねたりしていて、彼らの温かく等身大な人柄が伝わってくる時間だった。どうやら野川のモニター環境が万全ではなかったようだが、ライブが再開。「記憶の地図」は、多様な楽器のサウンドによってカラフルに彩られたピースフルなヴァイブスに満ちた楽曲で、3人のコーラスワークの美しさも際立っていた。アウトロには、観客が声を重ねるパートが設けられていて、将来的にシンガロングが巻き起こる光景をはっきりとイメージすることができた。なお、同曲の披露の後には、野川が「ありがとうございます。みなさんの手拍子が完璧だったので無事にタイミングが合いました」と観客に感謝を伝える一幕もあった。

 「シミラー」の2番では、野川が「歩夢、いったれー!」と背中を押し、橋本にボーカルをバトンタッチ。3人による三声コーラスもしかりだが、彼らが誇るライブバンドとしてのポテンシャルの大きさを改めて感じるシーンだった。「ラスト1曲、ぶち上がっていこう」「踊れる準備、できてますかー!」野川の熱烈な問いかけの後に披露された本編ラストの曲は、この日2度目の「Better」。1度目は引き算のアレンジが施されていたが、今回は原曲に忠実なアレンジ。めいっぱいのハンズクラップで3人のライブパフォーマンスを熱く彩る観客たち。その光景を前に、野川が「最高でした、どうもありがとう!」と叫び、最後に澤が台の上に上がって猛烈にリフを引き倒し、本編は凄まじい熱気の中で大団円を迎えた。

『KI_EN 2nd one_man LIVE 「合縁_奇縁 弍」』(撮影=Satoki Demoto)

 アンコールでは、11月に1stアルバムをリリースすること、12月に同作を携えたツアーを行うことを発表。野川は、「年末まで突っ走ってくんで、何卒どうぞよろしくお願いします!」と叫び、フロアから温かな拍手が送られる。そして、真のラストナンバー「性根」へ。〈先へ進もう/鼓動が止まるまで〉という言葉が、年末のさらにその先へ向けて力強く突き進んでいかんとする3人自身の決意の言葉のように響いていて、強く心を震わせられた。輝かしいライトが、ステージ後方から3人の背中を、そして、一人ひとりの観客を鮮烈に照らし出す中、アウトロへ。3人はリズムに合わせて身体を上下に大きく揺らしながら、最後の最後の一音まで真摯に鳴らし抜いていく。晴れやかな充実感に満ちた、あまりにも感動的な幕締めだった。

<セットリスト>
01. 春風
02. 日晴
03. 輪廻
04. 茶柱
05. 夢のまた夢
06. Fifty-Fifty
07. Better(アレンジver.)
08. スノーハート(アレンジver.)
09. 忘れられんな
10. 星空に一番近い場所
11. 記憶の地図
12. シミラー
13. Better
EN. 性根

■リリース情報
4thシングル『記憶の地図』
リリース日:2025年9月3日(水)

1stアルバム『タイトル未定』
リリース日:2025年11月予定

■公演情報
『KI_EN 初ツアー2025「奇縁ノ壱」』
TOKIO TOKYO(東京)
日時:2025年12月14日(日)開場18:00/開演18:30 

KYOTO MUSE(京都) 
日時:2025年12月21日(日)開場18:00/開演18:30 

<チケット>
2025年8月30日(土)10:00〜最速先行チケット予約開始
料金:前売り券 ¥3,000(税込)/当日券 ¥3,500(税込)
受付URL:https://w.pia.jp/t/kien-1stlivetour/

『KI_EN 初ツアー2025「奇縁ノ壱」』|Official Teaser

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる