友成空、多彩なジャンルを“J-POP”へとまとめ上げる手腕 『文明開化 - East West』で示す自身の居場所

友成空『文明開化 - East West』レビュー

 シンガーソングライターの友成空が、11月12日に1stアルバム『文明開化 - East West』を配信リリースした。

 2023年にメジャーデビューして以降、コンスタントにデジタル配信を重ね、徐々に知名度が上昇している友成。昨年1月にリリースした「鬼ノ宴」はすでにストリーミング再生数が1億回を超え、SNS関連コンテンツの動画総再生回数は15億回を突破。今年は同曲をはじめ、「ACTOR」「咆哮」「黄色信号」といった楽曲がタイアップによりテレビアニメやCMに使用され、各所で話題を集めている。そんな中で発表された本作は、友成の音楽性の幅の広さを楽しめる作品となっている。

友成空(TOMONARI SORA) - "鬼ノ宴" [Lyric Video]

“和”だけにとどまらない、多彩なサウンドの広がり

 友成の作品の特徴のひとつが、独特の言語センス。たとえば「鬼ノ宴」では、歌詞に古典的・伝統的な日本語の言い回しが多用され、曲から特有の日本的な情緒が感じ取れる。冒頭は〈何処から喰へば良いものか〉というフレーズで始まり、後半は〈廻レ廻レヤ 展ケ展ケイヤ〉といった民謡的な節回しを繰り返す。ほかにも〈堕ちなはれ〉という方言や、〈宴が始月曜〉と書いて“はじまんでー”と読ませる駄洒落も登場。昨年リリースされた「ACTOR」では〈瓦落多〉〈髑髏〉〈法螺〉といった少々難解な表現が飛び出し、「睨めっ娘」では“気”ではなく〈氣〉という字を使う。こうした古語や方言、旧字体などを駆使した“和”な表現で独特の世界観を作り上げるのが友成楽曲の特徴だ。

友成空(TOMONARI SORA) - "睨めっ娘" [Music Video]

 だが、それだけではない。アルバムを聴き進めていくと、そうした和テイストな楽曲だけではなく、いわゆる洋楽的なサウンドのポップスも多く見られる。特にアルバムの真ん中に位置するインスト曲「East West」を挟んだ後半にそうした楽曲が多く、アルバム前半と後半ではまるで別のアルバムを聴いているかのようにサウンドの方向性が変化していく。

 たとえば、9曲目の「ベルガモット」は、スムースなビートとエレピのチルなタッチが心地よい極上のグルーヴミュージック。歌詞には英語も登場し、流暢な発音でリズミカルに英語を歌いこなしている。歌いながら軽快にダンスする様子が目に浮かぶようだ。

 特筆すべきは次の「メトロ・ブルー」である。サウンドは80年代ブラコンのアルバムにひっそりと佇んでいそうなメロウなR&Bで、シティポップとしても完成度が高い。しかし、歌っている内容は都市で生きる人の疲労感や絶望感。都市を謳歌するシティポップは数あれど、都市に馴染めない人の視点を歌ったシティポップは少ない。友成が音楽的ルーツとして挙げているアーティストのひとりである大貫妙子の名曲「都会」はその好例だが、正直こんな曲も作れるのかと、その成熟した歌世界に耳を疑った。

 アルバム終盤の「月のカーニバル」もいい。サンバ風味のアレンジで、情熱的なラテン調のメロディを軽やかに歌いこなしている。かと思えば、その次の「宵祭り」は音頭だ。その振れ幅が何とも面白い。

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