地方だからこそできる挑戦ーーfishbowl ヤマモトショウ×タイトル未定 ついま、両プロデューサーが語る地元に賭ける理由

静岡県発のfishbowlと北海道札幌市発のタイトル未定は、ともに地方を拠点としながら東京でも精力的にライブ活動を行う女性アイドルグループ。毎年夏には、世界最大級のアイドルフェス『TOKYO IDOL FESTIVAL』(以下、『TIF』)に出演するなど、今や全国のアイドルファンから注目を集め、そのパフォーマンスや楽曲でも高い人気を誇っている。
今回、fishbowlの全体プロデューサーという立場で関わり、作詞・作曲・編曲まで担う音楽家・ヤマモトショウ、そしてタイトル未定を含む複数グループを札幌で展開し、運営・マネジメント全般を担うついま(松井広大)、両グループのプロデューサー対談が実現した。地方拠点アイドルとしてのこだわり、地元で活動を続ける意義、地方発グループにとっての『TIF』、プロデューサー同士の交流やお互いのグループへの思いについてじっくり話を聞いた。(ATSUSHI OINUMA)
“地方発”という覚悟 静岡と北海道、二つの街から見えるアイドルの現在地
――fishbowlとタイトル未定は、ツーマンライブ、イベントなどで一緒になることも多いと思いますが、普段からお二人の交流はあるのでしょうか?
ヤマモトショウ(以下、ヤマモト):距離が離れているわりには交流もありますし、その中でも一番会っている方かもしれないです。fishbowlは最初の1年(2021年)は静岡県内でしかライブをやっておらず、結成2年目から遠征を始めたのですが、その際に最初に北海道のイベントに誘ってくれたのが松井さんでした。
ついま:タイトル未定はコロナ禍の2020年デビューだったので、最初の1年間は思うように身動きが取れず、何もできなくて。そんな中、静岡でfishbowlというグループが結成されると聞き、同じ地方拠点ということで注目していました。最初のメディア展開も僕がやりたいことを全部やっているという印象で、グループのあり方に近いものを感じましたし、僕がまだまだ試行錯誤している中で先に形にされていたので、純粋にすごいな、羨ましいなと思いながら見ていました。タイミングを見計らって、北海道のイベントにお声掛けさせていただきました。

――ヤマモトさんから見た、当時のタイトル未定の印象はいかがでしたか?
ヤマモト:タイトル未定の存在は、fishbowlのファンから聞いて知っていました。僕の場合、曲もしっかりチェックするのですが、実際に楽曲を聴いた時に、クオリティがとても高いなと感じたのを覚えています。当時は地方でやる良さを感じつつも、イベントへの出演や対バンを行うことの難しさも同時に感じていて。たとえば、誰と一緒にやるか、会場はどこにするか、スタッフをどうするか、もっと細かいことで言えば誰がチェキを撮るのか、そういったところまで気になっていました。だから、タイトル未定がどんな感じでイベントをやっているのかを知りたくて、僕も一緒に北海道まで観に行って。

――早速地方で活動することの難しさにぶつかりながらも、それでも地方にこだわる理由は何なのでしょうか? 松井さんは、なぜ北海道という土地を選んだんですか?
ついま:僕は埼玉県出身で、北海道には縁もゆかりもありませんでした。ただ、前職の時に出張や旅行でよく足を運んでいて、魅力的で素敵な街だなと思っていたんです。独立して新しい会社で自分のやりたいグループを作るとなった時に、東京にはアイドルがたくさんいてコンセプトも出尽くしていると感じたので、自分のやりたい曲調やコンセプトをより体現できる地域や街でやることが、そのグループの本質や魅力を最大限に伝えられる気がして、北海道という土地を選びました。
ヤマモト:当時、「北海道でアイドルグループをやるのは難しい」と言われていましたよね。いわゆる巨大グループの支店(姉妹グループ)も北海道にはなかったですし。そうやって「難しい」と言われていた土地で、しっかりとしたグループが生まれてきたので、「ついにきたか!」という印象でしたね。
――松井さんとしては、前例のない土地で勝負したいという思いもあったのですか?
ついま:そうですね。すでにアイドル文化が根付いている土地よりも、前例のない土地で新しいことに挑戦してみたいという気持ちがありました。
――ヤマモトさんはこれまで多くのアイドルグループに楽曲提供をしてきた中、地元静岡県でご自身のグループを立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか。
ヤマモト:東京で音楽制作の仕事をしていると、「新グループの立ち上げを手伝ってほしい」といったオファーがよくあるのですが、レッドオーシャンというか、あまりに活動しているグループが多すぎて、自分が関わるとなってもあまり現実味がないと感じていて。そんな時に、ちょうど地元の友達やメディアの方たちと話していて、「何か地元でやれることはないか」という話になったんです。静岡にもアイドルグループはいるのですが、全国的に有名になる例はあまりなかったので、まだ席は空いているなと感じましたし、地理的な利点で東京から人を呼びながら新たな経済圏を構成させることもできるのでは、という目論見もあって。だから、静岡の可能性に賭けてみようという感覚でした。実際に始めてみたら、メンバーとして集まってきた子たちは僕のことを全然知らなくて。自分では東京で活躍しているつもりでいたけど、地元ではそんなことはなかったんだな、と(笑)。
ついま:fishbowlは結成当初から地元でテレビ番組もやっていましたよね?
ヤマモト:たまたまテレビ局のスタッフに地元の友達がいたんです。地方のテレビ局員はキー局で作った番組を流すことが主な仕事で、自分たちで何かやりたいという気持ちがあっても、なかなかコンテンツを持つことは難しいらしくて。でも、“アイドル”であれば僕の経験を活かせるから、「一度やってみよう!」となって、まず地元のテレビ局でメンバー募集のCMを流してもらうことになりました。メンバーのほとんどはそのCMを見て応募してくれたみたいです。
――そういったエピソードを聞くと、あらためて地元との繋がりが深いんだなと感じます。活動していく上で、地方ならではの強みはどんなところに感じていますか?
ついま:いろいろありますが、タイトル未定が昨年『2024 FNS歌謡祭』(フジテレビ系)に出演した際には、地元のテレビ局やラジオ局、地元のスポーツ新聞まで、僕らから発信しなくても「タイトル未定を応援しよう」と声を上げてくださって……。地域一丸となって応援してくれたのは北海道ならではというか、東京ではなかなか作り出せないムーブメントですよね。
――そこには、やはり北海道の道民性みたいなものもあるのでしょうか?
ついま:ありますね。道民性というところで言うと、北海道の方は地元のエンタメやコンテンツへの愛がすごく強いんです。北海道日本ハムファイターズや北海道コンサドーレ札幌、大泉洋さんなどが象徴的ですよね。
――ああ、たしかに。
ヤマモト:松井さんが話していたような地方の難しさで言うと、「静岡は東京に近い」というのも善し悪しあって。それこそエンタメを楽しみたいのであれば東京に行けばいい、となりがちなんですよね。それは、演者側もお客さん側も同じで。でも僕は、静岡に新たな経済圏を作ることを目標に掲げているので、静岡で見てもらいたいし、静岡に来てもらいたい。富士山やハンバーグレストランのさわやか、サウナしきじのように、fishbowlも静岡を代表する存在のひとつにしたいと思っています。
――ヤマモトさんの場合は、音楽プロデューサーとして、楽曲でも“静岡ならでは”を表現されていますよね。たとえば、人気曲「熱波」のMVにはサウナしきじが登場しています。
ヤマモト:実は、昔は地元があまり好きではなかったのですが、一度東京に出てから、あらためて仕事することになって気づいた静岡のよさがたくさんあって……。サウナしきじも大好きですし。サウナしきじはとにかくご飯が美味いんですよ、水がいいので。そういう一部の人しか気づいていない静岡の魅力を音楽やクリエイティブな部分でも表現したい。それを軸に楽曲を作っています。もちろん、ライブで盛り上がれるとか、みんなで楽しめるということが大前提にありますけどね。
――一度離れたからこそ、静岡の良さに気づけたということなんですね。
ヤマモト:あらためて戻ってみたら、静岡について知らないことばかりだったんですよ。やっぱり、アイドルは自己表現とはまた少し違って、必ずしも自分が思ったことだけを歌うわけではなくて、作り手や僕らのようなプロデューサーがいて曲が作られるので、客観的な視点は絶対に必要になってくると思っています。
ついま:それで言うと、従来のご当地アイドルは、その土地を盛り上げるために活動する、いわばご当地限定の広告塔といった側面が強かったと思います。ですが、fishbowlやタイトル未定は静岡や北海道を全国にPRしたい。そこが今までの地方アイドルとはまったく違うところなのかなと客観的に思っています。



















