lynch.がバンドを続ける理由「僕たちには20年分の責任がある」 リテイクアルバム第2弾と続いていく未来を語る

「ファンの声は結構酷評が多かった」(葉月)

――対して『SHADOWS』はバンドとしては背水の陣で作ったアルバムになりますよね。
玲央:本当に。今だから言える話ですけど、当時所属していた事務所を離れて完全に自主制作に戻って、多額の借金を背負って作ったのが『SHADOWS』なんです。なので、売れなかったから首がまわらない。でも、前作とは違った意味で頭ひとつ抜けないといけないとも思っていたので、ここで予算を気にして小さくまとまるのは嫌で、メジャーリリースと変わらない予算をかけたんです。
――『THE AVOIDED SUN』のリリースで、間違いなくバンドの評価や世間的な見え方は変わりましたよね。
玲央:評価をいただいて次のステージにステップアップした実感はありました。だからこそ、『SHADOWS』をリリースする時に周りのライバルはもっと強くなっているんですよね。なので、言ってしまえばダウングレードとも取れるような環境の変化のなかでも上に上がらないといけなかった。『THE AVOIDED SUN』の時よりも大変でしたね。
――せっかく築いたものをバンドとは違うところで手放してしまうことになりかねなかったわけですからね。
玲央:よく覚えているのが、当時完成した『SHADOWS』を30年来の友人であるメリーのテツくんに渡したら、「『marrow』のギターに玲央くんの意志をいちばん感じるから好き」と言われたんですよ。僕、びっくりしちゃって。僕のギターRECの最初に録った曲が「marrow」だったんですけど、本当に背水の陣の状況で、「これでダメならしょうがない」という気持ちで自分を追い込んで録りたかったので、実は1テイクしか録ってなくて。テツくんはそれを見抜いたんです。「ボタンを押して録音が始まったら、もう後戻りできない」という気持ちでレコーディングして。それを見抜くテツくんはすごいなあ、って。
――ちなみに、リテイクの「marrow」のレコーディングは――。
玲央:それはもう何度も納得がいくまで録りましたよ(笑)。
全員:(笑)。
――(笑)。個人的には『THE AVOIDED SUN』がlynch.の核を確立した作品とするならば、『SHADOWS』はlynch.としての“幅の出し方”を確立した作品だと思っていて、この2作品が今日におけるlynch.の礎になっていると思うんですよね。
玲央:ああ、たしかにそうかもしれないですね。
葉月:当時は“メジャー感”を出したかったのを覚えてます。「ステップアップしたぞ!」っていうところを見せたかったからというのもなんですけど、今思うとバンドの規模感とはチグハグしていたのかなとは思いますね。もちろん作品としてはいいなと思うんですけど、当時はまだ小さいライブハウスでやっていた時だったから、ファンの声は結構酷評が多かったんですよ。それがトラウマで(笑)。でも、結果的にツアーをまわったらいいツアーだったし、動員も伸びたので「気にする必要ないのか!」というのもそこで気づいたんですけど。
玲央:実際、『THE AVOIDED SUN』のツアーファイナルはShibuya O-WEST(現Spotify O-WEST)で、『SHADOWS』のツアーファイナルが赤坂BLITZなので、キャパは2.5倍くらいに上がっているんですよね。

――たしかに『SHADOWS』のタイミングでぐんとバンドの規模が上がった記憶があるので、lynch.のなかではターニングポイントと呼べる作品だと思うんですよね。葉月さんは「あんな大事な曲になると思っていなかった」と言っていましたが、「ADORE」の存在は間違いなくその一因になっていますよね。
葉月:そうですね(笑)。でも、「大事な曲になるだろうな」という気持ちもどこかにあったんです。なので、予想はしていたけど、その予想を遥かに超えるような曲になったということですね。
明徳:僕は当時深夜のラジオから流れてきた「adore」を聴いて「なんだこれ!」「でらかっこいいやん!」って思ったのを覚えてます。メジャー感があって、「最近はめちゃくちゃ売れてるかっこいいバンドがいるんだな」と思ってたら葉月さんのラジオ番組が始まって、そこでこの曲がlynch.の新曲だとわかったんです。『THE AVOIDED SUN』ぶりに聴いたのが「adore」だったので、めちゃくちゃ進化してるなって。
――「adore」のカップリングに収録されている「an illusion」は、悠介さんにとってもターニングポイントとなった楽曲だと思います。この曲があったから『SHADOWS』の制作において自分の色を出しやすくなったような感覚はありましたか?
悠介:そうですね。「an illusion」がきっかけでどこかセーブしていたディレイフレーズを積極的に取り入れていいんだと僕のなかで門が開いた感覚はあって。そういう意味で『SHASOWS』あたりからlynch.の楽曲の彩りがさらに鮮やかになっていったと思います。なので、あの曲があったからこそ自分を解放することができたので、僕のなかでは大きな一曲ですね。
――ちなみに、葉月さんは悠介さんがディレイフレーズを得意だということを知って「an illusion」に取り入れたんですか?
葉月:いや、それまでlynch.でディレイを使ったことがなかったので悠介くんが得意かどうかは知らなかったです。ただ、当時悠介くんが「凛として時雨」が好きで、僕に教えてくれて一緒にライブを観にいったりもしていたので、ああいう音像をイメージしてデモの段階からディレイありきで作ったのが「an illusion」なんですよ。

――なるほど。知らずに作ったものがガチっとハマったということだったんですね。オルタナティブな音像という面では個人的に「last nite」の存在も大きいと思っていて。というのも、あの壮大さはlynch.の楽曲面においてもライブ面においても次のステップに引き上げたと思うんです。
悠介:ピアノから始まるっていうのが衝撃でした。ピアノが鳴りつつ、かたやコードストロークで、かたやリフが鳴ってて、一曲のなかでさまざまな色があって、今聴いてもゾクゾクします。それに、バンド一体となって2段、3段と飛び越えていく気持ちを表現できたというのは、今でも誇りに思いますね。
――それに、「last nite」、「adore」という曲順は、LUNA SEAの『MOTHER』でいう「LOVELESS」、「ROSIER」を彷彿とさせるな、と。
葉月:オープニングナンバーとして「LOVELESS」のような楽曲を置いたことに、LUNA SEAの影響は少なからずあったと思います。それに『MOTHER』でいうと「FACE TO FACE」的な立ち位置で「maze」まで含まれるんじゃないかな。なので、無意識に憧れみたいなものが表れているんだと思います。
――リテイクにおいては「I DON’T KNOW WHERE I AM」が日本語詞になったのもトピックですよね。
葉月:そうなんです。当時は「英語にしたい」という強い思いがあったんですけど、圧倒的に英語のスキルが足りなくて、今聴くとメロディと歌詞の絡み方があり得ないんですよね。文法は間違ってないんだけど、譜割も変だし、無理やりメロディに当てはめた感じだったので、その気持ちを抱えたままリテイクするのは嫌で日本語にしたんです。
――歌詞という点では「EVILLY」のサビ前のワンワードや「MARROW」でも一箇所歌詞が変更になっていますが、これは以前の歌詞がアウトだったということですよね。それにしても変更後の「EVILLY」の歌詞が真逆の意味すぎますね(笑)。
葉月:これまでもちょくちょく時代の流れの結果として歌詞が変わってる曲はあるんですけど、今回の「EVILLY」の〈LOVE ME TENDER〉はあえてこうしました。笑うポイントなので盛大に吹き出してください(笑)。


















