lynch.がバンドを続ける理由「僕たちには20年分の責任がある」 リテイクアルバム第2弾と続いていく未来を語る

lynch.が、結成20周年を記念したリテイクアルバムの第2弾『THE AVOIDED SUN / SHADOWS』を9月24日にリリースした。この2作は、lynch.がシーンのなかで頭角を表し、より大きな存在になっていく“過渡期”にリリースされたアルバムであり、代表曲「adore」が収録されているなど、バンドの歴史のなかでも特別な輝きを放っている。
群雄割拠のシーンのなかで、当時、彼らが何を考えながら音楽と向き合っていたのか。まだ加入前のメンバーは、外からlynch.という存在をどう見ていたのか。さまざまな角度から本作を紐解くとともに、新曲「BRINGER」や20周年企画を締めくくる東京ガーデンシアター公演への思いまで、メンバー全員へのインタビューで迫った。(編集部)
『THE AVOIDED SUN』で確立したlynch.らしさ

――前作『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』のリテイクは、すでに廃盤となっているアルバムをファンが手に取れるようにという意味もありました。今回の2枚は状況が異なりますが、前作とはまた違った目論見があったのでしょうか?
葉月(Vo):20周年イヤーをどう盛り上げていくか考えていくなかで、ここで新譜を出すという話もなきにしもあらずだったんです。だけど、この1年間って20周年を祝ういわばお祭り的なものじゃないですか。だからこそ、これまでの振り返りであったり、通常できないような立ち回りをしたほうが面白いんじゃないかと。『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』だけでなく、lynch.というバンドの作品でなかでも大きな意味を持つこの2枚を今録り直したら全然違うクオリティのものになることがわかっていたので、このタイミングでリテイクすることになったんです。
玲央(Gt):付け加えるならば、この2作品は明徳が加入前の作品で、この20周年のタイミングであらためてこの5人の音でリテイクすることで、これまでの歩みと現在進行形の両方を現在のlynch.の形で網羅できるんじゃないかと。その意味合いも含めて、今作のリテイクに至ったという側面も大きいと思います。


――実際、明徳さん自身は「自分のベースでこの作品を録り直したい」という思いはあったのでしょうか?
明徳(Ba):録り直せるのであれば録り直したかったんですけど、よっぽどの機会がないと難しいということも理解していました。なので、この20周年というタイミングでコンプリートすることができて、嬉しかったですね。
――『THE AVOIDED SUN』と『SHADOWS』という2作品はlynch.にとってバンドを確立させるための過渡期となった作品だと思うのですが、『greedy dead souls』と『underneath the skin』のリリースから『roaring in the dark』、『enemy』、『forgiven』というシングル3部作を経て、当時どのようなことを考えて制作にあたったのか、覚えてますか?
玲央:とにかく頭ひとつ抜けたかったんです。当時のライブの状況を振り返ると、イベントへの出演がメインで、それも現在のような主催バンドが気の合った仲間に声をかけるような関係値ありきで呼ばれるようなものではなく、別の主催者の方がいて面識のないバンドが集まってイベントをやることが多かった。そのなかで、どのようにして自分たちの存在感を出して名前を覚えてもらうか。そのためには周りに埋もれない強い個性を見つけなければ来年はないと思いながら『THE AVOIDED SUN』を作ったのを覚えています。
葉月:当時は激しいバンドが増えてきた時期で、そういうほかのバンドとの違いをより出したいと思っていましたね。というのも、『greedy dead souls』の頃はlynch.として作品を作った時にどうすればいい見え方をするかというか、このバンドにおけるアプローチの最適解がノーヒントだったということもあって、楽曲ごとに色がパキッと分かれすぎている印象があって。なので、それを一曲のなかで融合したらどうなるのかという挑戦が始まったのも、この頃だったと思います。
――それが“lynch.らしさ”の代名詞とも言える“メロ”と“コア”の融合に繋がるわけですね。
葉月:そうですね。たしか「liberation chord」のサビができた時に「これはいけるぞ!」っていう感触があったのをよく覚えています。それと同時に、当時の激しいバンドというのは重さを重視したバンドが多かったので、僕たちはそこに色を足すことで楽曲に鮮やかさを出したら面白くなるんじゃないかとも思って制作をしていました。
――鮮やかさ、ですか。
葉月:うん。それこそ悠介くんが加入して編成がツインギターになって最初のシングル(『a grateful shit』)はギターの厚みが増したけど、その後のシングル3部作くらいから彼の個性が楽曲に色鮮やかさを生み出してたような感覚を覚えて。やっと『THE AVOIDED SUN』くらいから、悠介くんの個性であるアルペジオとかを使った伝統的なヴィジュアル系のアプローチを活かせるようになったと思うんですよね。
――たしかに、あのあたりからツインギターならではアプローチが増えた印象はあります。
晁直(Dr):葉月くんも言っていましたけど、シングル3部作でlynch.の武器がより明確になったと思っていて、それを入れ込む形で作ったのが『THE AVOIDED SUN』なんですよね。だから、言ってしまえば「これがlynch.だよ」という。lynch.の基盤ですよね。


――明徳さんは当時まだ加入前ですが、同郷で活動するバンドマンとして当時のlynch.は外側からどう見えていましたか?
明徳:激しいセクションと歌のセクションを融合させているバンドは当時いなかったので、衝撃を受けたのを覚えています。なので、のちにいろいろなバンドマンに影響を与えたアルバムだと思います。当時の僕はまだヘヴィなバンドはやってなくて、ベースもレギュラーチューニングだったと思いますけど、その後のバンド活動を考えると無意識レベルで絶対にlynch.の影響はあったと思います。
――悠介さんは、以前「この作品がなければ今のlynch.はいない」というようなこともおっしゃっていましたね。
悠介(Gt):バンドがツインギターになって、今までとは違った魅せ方が必要になるなかで、ほかのバンドとは違ったものを表現しようという意識が当時はありました。今でも、この作品がなかったら今のlynch.はないと思っているし、そうしようと思って作ったアルバムでもあるので、この作品はバンドにとっての宝だと思います。
――前作『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』のインタビュー(※1)の際に、“lynch.らしさ”の片鱗が「roaring in the dark」のBメロをきっかけに見えたとおっしゃっていましたが、そこから「liberation chord」や「I’m sick, b’cuz luv u.」とさらに確立させていくにあたって、どのように楽曲ができていったか覚えていますか?
葉月:「roaring in the dark」のBメロが、コードストロークの上にシャウトが乗るというバンドとして初めての試みになったのは事実なんですけど、当時それを意識的にやったかと聞かれると曖昧なんですよね。「liberation chord」は、サビのメロディがなかなか出てこなくて、最後の最後に「シャウトがいいんじゃないか?」という半ばヤケクソ気味の閃きを試したら、それがいちばん切なかったんです。あの時は驚きましたね。「すげえ!」って。
――ある種、偶然の産物的な生まれ方だったんですね。
葉月:当時、ストレイテナーが好きで『TITLE』(2005年)というアルバムをよく聴いていたんですよ。コードをかき鳴らしたところにBPM200前後のビートが乗るというところに大きな影響を受けた気がします。そこに自分たちの持っているヘヴィネスを融合させたことで、このアプローチをほかでも使っていこうと、つまりは“lynch.らしさ”が確立されて今に至るわけなんですけど。「liberation chord」が生まれたことで、アルバムの方向性が見えて、それまでに作っていたアルバムに入れようと思っていた曲をボツにしたりしたので、間違いなく転機だったと思います。
玲央:当時“唯一無二”という言葉をよく使っていて、「liberation chord」よりもっと唯一無二で絶対的なものを、と考えていて。そこでできたのが「I’m sick, b’cuz luv u.」なんです。そこで「これはいける!」という感覚をメンバー全員が共有していたのをよく覚えています。
――当時、僕も再生ボタンを押して「liberation chord」、「I’m sick, b’cuz luv u.」、「roaring in the dark」という三者三様の“lynch.らしさ”で始まる並びに一発でやられてしまったわけですが、ある意味この始め方ってインパクトがあるし、攻めてるなとも思うわけです。ただ、lynch.がコンセプトを定めて作った作品――たとえば“速さ”に焦点を絞った『INFERIORITY COMPLEX』でも速い曲を頭3曲で並べていますが、意識的にこういう並びにしたのでしょうか?
葉月:ああ、たしかに。特に頭2曲はそうかもしれないですね。やっぱり、「こういうアルバムですよ」っていう指標があった方が伝わりやすいじゃないですか。それに、全体の並びを見てもいい流れだなと思いますね。中盤以降も熱が一回も途切れないというか。「forgiven」や「anemone」も違うベクトルの熱がある。だから、きっと今この作品を新譜として出すことになってもこの並びにすると思います。


















