SUKEROQUE、J-POPシーンで際立つオリジナリティ 幅広い音楽性を可能にする“ボーカルの妙”を紐解く

SUKEROQUE、J-POPシーンで際立つ独自性

 作詞、作曲、編曲を手掛けるSHOHEIによるソロプロジェクト、SUKEROQUE。ファンクやR&B、ソフトロック、J-POPなど、そのルーツは実に幅広い。洋楽然としたサウンドと、行間を大事にして風景や感情を描写する日本語の歌詞。この2つの相反する要素を同等のポテンシャルで鳴らそうとチャレンジを繰り返してきたのが、SUKEROQUEというアーティストである。それは同時に、日本の音楽シーンに身を置き曲を作るアーティストにとって大きなテーマであり続けているように思う。そんな中で、SUKEROQUEが確かなオリジナリティを発揮できているのはなぜか。

 彼の才能に起因することは間違いないが、加えて、音楽に対する自身のスタンスも大きく影響しているように思う。才能の面で言えば、彼はルーツミュージックを分解し咀嚼する能力、さらにそこに自らのフィルターを加えてアウトプットする能力が非常に優れており、そこに独自のロジックも加わっている。言うなればコンポーザーとしての必須条件を高いポテンシャルで備えているのだ。例えば、ライブのキラーチューンであるファンクナンバー「Blood on the dance floor」は、スティーヴィー・ワンダー「Superstition」をイメージして作られた(※1)。ファンク然とした複雑さがあり、構成や音数の抜き差しに大胆さがあるが、そのグルーヴを捉えた上で、ポップでタイトなメロディが繰り返され、間口の広いパーティチューンに仕上がっている。しかもサビではJ-POPや歌謡曲の特徴である抒情的な音階が登場するのもニクい。

Blood on the dance floor 【demo track】 / SUKEROQUE

 次に注目したいのが、彼の音楽に対する向き合い方だ。好奇心と探求心が、自身の中で絶えず循環していて、ポジティブなバイブスを作り出している印象。そしてこのバイブスをSUKEROQUE自身が、思いっきり楽しんでいるのが楽曲に表れている。生みの苦しみさえも楽しんでしまうそのスタンスが、結果、眩い破片が乱反射するようなSUKEROQUEのポップを作り出しているのだと思う。

 クオリティの高い楽曲の連続リリースで早耳の音楽リスナーから注目を集め、パーティの楽しさとメロウな情感で魅せるライブによって様々なイベントに出演。主催ライブも重ね、着実に存在感を増しているSUKEROQUEが、2025年に入って新しいアプローチで生み出した楽曲を紹介したい。

 2025年1月には、東阪で年間通して6本のライブを行うハヤシライフとの共同主催イベント『Soulfood Brotherhood』の開催を発表。そして4月に「OYKOT」、7月には「滞納」という2つの新曲をデジタルリリースしていた。

「OYKOT」:楽曲のよさを際立たせる特徴的なファルセット

【MV】 OYKOT / SUKEROQUE

 「OYKOT」は、平メロとサビでガラリと変わる曲調やSHOHEIのボーカルアプローチに新境地を感じるミディアムチューン。曲調はひと言でいうなら令和の“クロスオーバー”。コンテンポラリージャズやフュージョン、ファンクなど、目まぐるしく登場する要素を操り、1本の滑らかなグルーヴにまとめている。しかもそのグルーヴにストーリー性があること、往年のファンクを彷彿とさせるアナログシンセの音色を効果的に使っているあたりは、「この人、やっぱ音楽で楽しく遊んでるな」と思わずにいられない。ブラックコンテンポラリーやスロウジャムとはまた異なり、しっかりSUKEROQUEのフィルターが通ったグルーヴになっているのはさすが。どこまでもフィジカルで、聴く者の身体を捉えて離さないのだ。

 この多彩なグルーヴを繋いでいくのが、SHOHEIのボーカルだ。ほんの一瞬ディレイさせる歌い出し、かと思えば、フレーズの終わりを早く切り上げ、その後でブレスを混じえた声でフックを入れてくる。基本はリズムに対してジャストにメロディを乗せながらも、単語ではなく一音単位でコントロールしている。最初に絶妙な「ッン」というようなタメを入れたり、弱音(じゃくおん)の発音を多彩にコントロールしながら、歌でもグルーヴを出しているのだ。

 特筆すべきはトーンとファルセットの扱い方。途中のトーンもしっかり伸ばしているが、力強さよりも軽やかさにポイントを置いて聴かせている。あまりビブラートをつけず、ストレートに伸ばしているのもポイント。トーンの終わりにデクレッシェンドで消えてしまうかと思う瞬間、次の言葉に繋げ、グルーヴを途切れさせないニュアンスもお見事。そして、サビでしっかり聴かせるファルセットの使い方も聴きどころ。彼のレンジを考えれば、チェストボイスでも出そうな音階だと思ったが、曲の決めになるサビのメロディをすべてふわりと音符を置くようなファルセットにして歌っている。緻密なレイヤーの上でボーカルとメロディを際立たせるために、ファルセットを選択したのではないかと考察する。

「滞納」:スウィートな歌声に滲むメッセージ

【MV】 滞納 / SUKEROQUE

 そのファルセットが楽曲自体の軽快さ、柔らかさを司っているのが「滞納」だ。ファンクをベースにしてルーツを万華鏡のように魅せるSUKEROQUEの得意技が光りつつ、洒脱なメロディで聴かせるブライトなアップチューン。サブスクリプションサービスで、シティポップやネオソウルあたりのプレイリストに入りそうな1曲だ。イントロからディスコを彷彿とさせるような「ダラッダッタラ」という王道のコーラスパターンが入るが、そこもタイトにまとめ、今のトレンドにちゃんとアップデートしているのはさすが。

 全体的にカラッとした印象なのは「OYKOT」から続く空気感だが、繰り返し聴くと、両曲ともサビの一部分に絶妙な湿度を帯びた音階を入れ込んでいる。「滞納」でのボーカルのポイントは、まずは子音と母音の処理のコントラスト。平メロではリズムを重視して子音にポイントを置いているが、〈ピンとこない〉など日本語をしっかり聴かせるポイントを入れ、語感のコントラストをつけている。また、「滞納」という曲名に呼応するように、歌詞の中に〈してんの〉〈からなの〉〈知ってんの〉など「の」という言葉がフレーズ終わりに何度も登場するが、この「の」を鼻腔を通してスウィートな歌声になるように処理しているのも面白い。「滞納」の歌詞は、現実的な描写で今の社会を的確に捉えていて、最後はラップで風刺を残して終わっている。しかし、曲調とSHOHEIの歌声も相まって、半分開き直りのような〈まぁなんとかなるでしょう〉〈まぁどうにかなるでしょう〉というフレーズが強く聴き手にメッセージとして残るようになっている。涼風のように駆け抜けるダンスチューンの中で浮かび上がる、SUKEROQUEが歌に込めた真意。悲観的になっても明日はこない。どんなリアルが待っていようとも、明日を新しい気持ちで迎えることができたら、新しい輝きを見つけられるのではないかーー「滞納」では、きっとそんなことが歌われているのだと思う。

SUKEROQUE ライブ写真

SUKEROQUE ライブ写真

 このコラムの執筆にあたり、「OYKOT」「滞納」や過去曲を繰り返し聴き込み、8月22日に下北沢SHELTERで開催された『Soulfood Brotherhood 3rd MATCH』も観た。そこで見えてきたのは、SHOHEIのボーカリストとしてのチャレンジである。彼の歌声は、中高音~高音のレンジで持ち味を発揮する。安定して綺麗に鳴らすファルセットも然り。そんな中、ライブの「OYKOT」「滞納」では、吐くように歌う部分のアプローチが印象に残った。ブレスボイス(息を多く漏らしながら声を出す歌唱法。はっきり歌うウィスパーボイスのような解釈)を使いながら、発音する言葉を口の中で転がすようにして出しているのだ。これはグルーヴ感を出すために生み出された技であり、新境地とも言えよう。さらに楽曲(特に「OYKOT」「滞納」)を通して、少し鼻腔に抜ける甘い声をメインに持ってきている。これは、自分の歌声の最も特徴的なところ、つまり、他にはない個性で勝負しようとしているがゆえだろう。例えばファンクでは中低音で少しこぶしを回して歌った方が、ファンクマナーに則っていてわかりやすいが、そこではなく、「自分の声の代名詞でもある“甘さ”でグルーヴを出したダンスミュージックをやろう」という心意気がよくわかる。

SUKEROQUE ライブ写真

SUKEROQUE ライブ写真

 やろうと思っても、セオリー面で、さらにはフィジカル面でなかなかできないこと――SUKEROQUEは、いつも誰もがやらないことに挑戦している。そしてそこがオリジナリティになっている稀有な存在である。少しずつ季節が秋めいていく9月以降、どんな新しい動きを見せてくれるのか、引き続き注目したい。

※1:https://realsound.jp/2024/05/post-1659286.html

※ライブ写真は『Soulfood Brotherhood 3rd MATCH』の模様。

▪️SUKEROQUE リリース情報
「OYKOT」
配信:https://nex-tone.link/A00177646

「滞納」
配信:https://big-up.style/B80bNFpNRi

SUKEROQUE 公式サイト

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる