牧野由依、極上の音楽を届けたアニバーサリーパーティー! 20年間歩み続けた理由――終演後インタビューで明かす想い

その後のMCで、「アムリタ」の頃からライブのバンドメンバーやコンテンツを介して親交を深めてきた滝澤との思い出話に花を咲かせると、滝澤が牧野のために書き下ろした楽曲を2曲連続で歌う。躍動感ある伴奏に牧野も体を揺らしながらフライトした「88秒フライト」も素晴らしかったが、この日の特筆すべき名演となったのが「たったひとつ」。牧野が自ら歌詞を書いたこの楽曲。コロナ禍の最中にあった2020年6月には「リモートLIVE Ver.」がYouTubeで公開されるなど、人との縁や繋がりに感謝の気持ちを伝える曲としてファンにも愛されてきた。そんな楽曲を、牧野は想いが高まったのか、途中で涙を浮かべながら、ひと際心を込めて、ひたむきに歌を紡いでいく。最後は笑顔を浮かべながら〈「お元気でしたか?私は幸せです」〉という手紙のようなメッセージを添えて締めくくった。歌い終えて、ライブグッズの特製今治タオルで涙を拭いながら、2023年に逝去した父親のことを歌詞に重ねて思い出したのだと語る。年月を経ることで作詞した当時とはまた違った意味と感慨が生まれること。「20年歩き続けると、深みも出ますよね」と、本人も予期していなかった涙の理由を口にした。



そこから「エスペーロ」(アニメ映画『ARIA The BENEDIZIONE』主題歌)で、静かに揺れる水面のように涼しくも優雅な時間を作り上げると、牧野曰く、「本日のメインディッシュと言っても過言ではない」という、20周年スペシャルメドレーへ。牧野のディスコグラフィから自らセレクトした20曲を牧野と滝澤が連弾で演奏するという、アニバーサリーイベントならではの特別な試みだ。ふたりで横並びになって鍵盤の前に座ると、まずは彼女の実質的な歌手デビュー作となった「オムナ マグニ」でスタート。そのまま「ユメノツバサ」「ウンディーネ」「夏休みの宿題」「永遠の想い」と、名盤の誉れ高い1stアルバム『天球の音楽』の楽曲が次々と紡がれていく。TVアニメ『N・H・Kにようこそ!』(AT-Xほか)の挿入歌「ダークサイドについてきて」という意外な楽曲も挟みつつ、メロディの美しさが際立つ「スピラーレ」、連弾によりドラマチックに色づいた「ソルフェージュ」、穏やかな景色を喚起させる「つきのしじま」、ウォーキングテンポで心浮き立つ「遠くまで行こう」と、楽曲ごとにタッチを変えつつ、時に手をクロスさせながら牧野と滝澤が息を合わせて演奏していく様は、圧巻のひと言だ。



その後も「私について」「synchronicity」「ふわふわ♪」と印象深い楽曲が続き、春風のように爽やかな「春待ち風」、凛々しく引き締めた「Brand-new Sky」、軽やかに舞う「囁きは"Crescendo"」へと繋げていく。原曲はそれぞれまったく異なる曲調ではあるものの、それを違和感なくシームレスに聴かせる滝澤のアレンジも、匠の技と言えるだろう。そこから「secret melody」「ハウリング」とだんだん近年の楽曲になり、神秘的な「Touch of Hope」から、最後は晴れやかな「幸せのメロディ」で牧野がグリッサンドを決めて華やかに締め。20もの楽曲を年代順に並べることで、自身のシンガー/アーティストとしての20年間の歩みを凝縮しつつ、ピアニストとしての顔も存分に見せつける、牧野由依にしか成し得ない最高のパフォーマンスだった。



ここで滝澤が降壇すると、再び牧野のピアノ弾き語りスタイルで披露されたのが「今日も1日大好きでした。」。pal@pop feat. 初音ミク名義の楽曲のカバーで、pal@popこと高野健一が「ふわふわ♪」を提供した縁もあり、当時のライブでもよく歌われていたが、ステージで演奏するのは久々だという。誰しもの日常に重なる普遍的なメッセージ、優しく寄り添う歌声とピアノが会場を包み込む。その後、新たな告知として、ライブ&ファンミーティング『Yui Makino 20th Anniversary fan meeting&LIVE in ASIA』を11月に中国の広州と上海で開催すること、単独コンサート『Yui Makino 20th Anniversary LIVE ~I LOVE YOU So Much!!~』を2026年8月11日に東京・浜離宮朝日ホールで行うことを発表すると、早くも最後の楽曲へ。
フィナーレを飾ったのは、「Cluster」だ。牧野の呼びかけにより、それまで歌と演奏を静かに聴き入っていたファンもクラップを打ち、サビでは人差し指を掲げ、会場がひとつになる。〈離れたって/いつも逢える/時を越えて〉と約束を交わし、とりわけハッピーな空間を作り上げて、20周年イヤーを祝する特別なステージは幕を閉じた。
























