健やかなる子ら、“狭間で生きる姿”をありのまま捉えた美学 『ka3nari』に繋がる一貫したテーマ

健やかなる子ら、表現の美学に迫る

「死について考えながら、歌詞を書いていきました」(ハヤシ)

――ハヤシさん、作詞家目線では、どんなアルバムになったと感じていますか?

ハヤシ:今歌詞を読むと、深夜のツイートのような雰囲気があるなと思います。「うわあ、死にたいって言ってんな」みたいな。

――どうしてそういう歌詞になったんでしょう?

ハヤシ:自分を一番追い込んでいた時期に書いたからですね。前作『u2semi』リリースからの1年半、自分は、どれだけライブをよくするかを考えていました。「いいライブ」って何なのか、ライブをよくする上で重要なものは何か……そんなことを考えながらライブに集中していて、それ以外のことはあんまり考えていませんでした。より深く潜る、あるいはより高く飛ぶためには、もっと自分たちを追い込んで、ストイックにやっていかないといけないのかなと思っていたんですけど……その考えは間違っていましたね。自分たちを追い込めば追い込むほど、リアルな苦悩みたいなものがライブに出ると思っていたけど、それを出したところでな……っていう。そうじゃなくて、「なんでこんなことをやっているんだろう?」という問いの答えになるような極めてプリミティブな喜びに立ち還って、バンドを初めて聴いた時のような気持ちでライブに向き合う方が、自分たちには合っているんだなと感じました。

健やかなる子ら 撮り下ろし写真
スズキカイト
健やかなる子ら 撮り下ろし写真
キョウオカタカノリ
健やかなる子ら 撮り下ろし写真
ナオイカンタ

――「なんでこんなことをやっているんだろう?」という感覚について、もう少し詳しく聞きたいです。

ハヤシ:「なぜバンドをやるのか」というのは、どのバンドマンにとっても重要な問いだと思うんですけど、僕もバンドをやりながら「これってなんだっけ?」と思うことがどうしてもあるんですよ。

――以前あるドラマーが「練習中、棒で筒を叩いているだけでは? と思う瞬間がある」と話していたのを思い出しました。

ハヤシ:そうそう。表現というもの全般が、一般社会においては「何これ?」という感じではあるんですよね。「高みに上って、深みに潜ったところで、果たして何になるの?」って、きっとみんな思っているんじゃないんですかね。苦悩しながら、やる必要がないことをそれでもやらなきゃいけない理由を考えている。僕も、ライブに集中して頑張っていたら、その問いに向き合う時間がより増えました。そんななかで、「自分の存在が揺らいでいる」というような感覚で、死について考えながら、歌詞を書いていきましたね。

――確かに、「生と死」というテーマはどの曲にも共通しているように感じます。「僕らは花瓶のようなもので」では〈波に還るとわかっていながら祈るのです〉と歌っている。「残火を濯ぐ」は、生者の体温を感じる描写から始まる。「クリーン・クリーン・ルーム」の〈星燃ゆ目蓋に/間違い数えて〉という歌詞も美しいです。

ハヤシ:その3曲はめっちゃ「生と死」って感じがしますね。「残火を濯ぐ」の歌詞は、犬が死んだら悲しいなと思いながら書きました。

健やかなる子ら「クリーン・クリーン・ルーム 」Official Music Video

――一方、「稲妻になって走れば」には、〈千年先の遠雷〉〈千年前の遠雷〉という永久にも近い時間を感じさせる表現が出てくる。

ハヤシ:セックスに関する歌なんですけど、誰かを愛し愛されるということが、続いて、続いて、今の世界があると思うので。“今、あなたを愛した”ということが遠雷になって1000年先の人たちを照らすでしょう、それくらい愛してます、という歌です。

――つまり愛を、命や肉体の“限り”を超え得る存在として描くことで、希望を見出していますよね。対して「./november/tokyo.txt」では、〈エンドロール/鼻先、掠めて降れば/恋しくなる、ような気もする〉と終わりに想いを馳せている。その上で〈フィクションではないはずの生活は/馬鹿馬鹿しく続くのでした〉と、破滅を選ばずに真っ当に生き続けている現状をちょっと皮肉っている。

ハヤシ:この時期は死のことをめっちゃ考えていたから、死に対する感触が瞬間瞬間でけっこう違っていたんですよね。だから歌詞の内容も曲ごとに違うし、一つの考え方を押し通そうとしていない。最初にも話したように、僕が理想とする物事の捉え方は、目の前にあるものをそのまま受容すること。その受容の経過、気持ちの変化みたいなものが、『aosag1』『u2semi』『ka3nari』という3枚のミニアルバムに表れているんじゃないかと思います。タイトルを連番にしたのは、連作のイメージがあったからでした。あとから振り返った時に、一貫したものに気づくこともあるかもしれないし。

――今後どのように活動していきたいと思っていますか?

ハヤシ:やっぱり「バンドを初めて聴いた時の気持ちになれたらいいよね」と思いますし、それを目指して活動していきたいと思っています。平たく言うと「楽しくやりたい」ってことです。

ヨシダ:この5人は、本当に仲がよくて。ずっと一緒にいられればいいなと思います。

健やかなる子ら 撮り下ろし写真

ハヤシ:あとは、もっといろいろな人に聴いてほしい。この1年で「結局人いっぱいいた方が楽しいな」と思ったんですよね。ライブも、誰もいないより人いっぱいの方が嬉しいし。自分たちが信じてきたバックグラウンドや価値観、「カッコいい」と思って選び取ってきたものを多くの人たちと共有できたら、きっとそれはめっちゃ楽しい。俺たちは俺たちのことをただ信じて、まっすぐやるだけだと思ってます。

ヨシダ:僕たちと似たようなバンドって周りにあんまりいないので。自分たちの芯を貫いて、このジャンルを開拓した先に何があるのか、すごく気になっていますね。

健やかなる子ら 3rdミニアルバム『ka3nari』ジャケ写
『ka3nari』

◾️リリース情報
健やかなる子ら
3rdミニアルバム『ka3nari』
発売:2025年8月20日(水)
価格:2,000円(税込)
レーベル:PATTERN SIX
<収録曲>
1.対話
2.残火を濯ぐ
3.クリーン・クリーン・ルーム
4.稲妻になって走れば
5./november/tokyo.txt
6.無花果
7.僕らは花瓶のようなもので

◾️ツアー情報
『3rd mini album “ka3nari” release tour「Bolt Age Image」』
2025年
9月27日(土)吉祥寺WARP w/ the奥歯’s
10月10日(金)寝屋川VINTAGE w/ The Rusted Crown / 炙りなタウン
10月17日(金)千葉LOOK w/ FILTER / TETORA
11月2日(日)名古屋Party’z w/ hananashi / マタノシタシティー
11月22日(土)心斎橋BRONZE w/ さよならポエジー / The Rusted Crown / The Over Sensation
11月23日(日)松本ALECX w/ mabuta / SHE’ll SLEEP / The Rusted Crown
12月20日(土)盛岡CLUB CHANGE w/ ammo / FUNNY THINK
12月21日(日)仙台FLYING SON w/ ammo / EverBrighteller
2026年
1月11日(日)高田馬場CLUB PHASE w/ SEVENTEEN AGAiN / ミニマムジーク / アルステイク

健やかなる子ら オフィシャルサイト

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