BTSのカムバックは成功するのか? 空白期にK-POPシーンに起きた変化から考える
さらに、新たな潮流として注目されているのが“バーチャルアイドル”だ。ゲーム産業が盛んな韓国では、以前からテクノロジーを応用したバーチャルアイドルの育成やデビューを何度か試みてきたという経緯がある。そのなかでも、外見は二次元アバターだが、ファンとリアルタイムで直接コミュニケーションができ、活動内容自体は一般的なアイドルグループと同じスタイルで2023年にデビューしたPLAVEの成功により、近年新たなK-POPグループのあり方として注目され始めている。PLAVEのデビュー当初は二次元界隈からの注目が大きかったが、今年リリースされたミニアルバム『Caligo Pt.1』は初動販売数100万枚を突破。ファンダム規模の拡大もさることながら、毎度楽曲を音源チャート上位に送り込むファンダムの献身性が高いことで知られている。今年6月には日本デビューも成功させ、初のアジア6都市を巡る海外ツアーも発表されており、第5世代のなかでもトップクラスの人気グループとなった。今はちょうど2010年代の『プリティーリズム』や『プリパラ』といった日韓共同制作の3Dモデルによるバーチャルアイドルコンテンツに触れて育った世代が、ハイティーンから大学生になる時期でもあり、“二次元オタク”ではなくてもバーチャルなアイドルを受け入れやすい素地が上の世代よりもあるのかもしれない。
デビューサバイバル番組は以前よりその大衆的な熱狂度は落ち着いているものの、番組自体は変わらず制作されており、ZEROBASEONEやCLOSE YOUR EYESなどの人気グループも誕生している。現在放送中の『BOYS II PLANET』(Mnet)は韓国チームと中国チームに分かれており、2016年以降凍結されていた韓国芸能人の中国での活動が再び解禁される予感を感じさせる。それが実現すれば、K-POPアーティストの中国での活動や中国向けの現地化グループ制作が再活発化する可能性も高いだろう。
アジア圏以外を見ると、欧米圏での“K-POPブーム”のピークは過ぎたのかもしれないが、むしろ“オタク趣味”のジャンルとしてはある程度定着した印象だ。2020年くらいまではK-POPファンダムのチャートハックに対処できていなかった米Billboardチャートも対策を随時行うようになってきたため、ソングチャートである「Hot 100」での連続しての上位圏入りは以前よりも難しくなっているが、日本限定盤のような形で各国限定盤CDやその土地に限定しての特典イベントはすでに定着しており、10万枚単位でフィジカルが売れればTOP10入りが可能なアルバムチャートである「Billboard 200」では、K-POPアイドルはもはや上位の常連だ。ROSÉとブルーノ・マーズの「APT.」のように、アメリカのトップアーティストとのコラボレーションによるリアルなアメリカ国内でのロングランヒット曲も誕生しており、新しい動きと言えるだろう。コロナ禍前からアメリカでファンダムを構築してきていたStray KidsやATEEZ、TOMORROW X TOGETHER、ENHYPENなど、アメリカ国内での大規模ツアーを行い『Coachella Valley Music and Arts Festival』や『Lollapalooza』のような世界最大規模級のフェスに出演する男性グループも出てきている。
欧米圏のサブカルチャーとして定着しつつあるK-POPの流れとして、欧米圏での現地化デビュー計画も動いており、女性ではHYBEとGeffen Recordsのタッグによるグローバルオーディション番組からデビューしたKATSEYEなど、実際にアメリカで実績を出しつつあるグループも出てきている。SM ENTERTAINMENTはアメリカではなくあえてボーイバンドの聖地と言えるイギリスでdearALICEをデビューさせ、HYBEは今後メキシコで新たなボーイズグループをデビューさせる計画とのことだ。
韓国内ではK-POPグループのアルバム販売量の減少や、BTSやBLACKPINKのような大規模な認知度を得るグループが誕生しづらいという点が問題提起されがちだが、前述のように確かに各グループのアルバム販売量は2023年をピークに減っている。しかし、むしろ2023年前後がコロナ禍の影響による特殊事例だったと考えるべきなのではないだろうか。また、韓国内のアイドルファンダムの考え方や動き自体もここ数年で急激に変化しており、第3世代あたりまでに顕著だった「ひとつのグループに献身的に短期集中で全力の応援を注ぐ」というようなファン活動のスタイル自体が韓国では若干下火になってきている印象だ。もちろん、誕生日企画やスミン(チャート1位に押し上げるためにファンがストリーミングで繰り返し楽曲を再生する行動)などの韓国ならではのファンダム文化がなくなったわけではないが、その規模自体は小さくなり、ファンダムも流動的になってきている。少し前までは韓国のアイドルファンダムでは“掛け持ち”は御法度だったが、今の世代はSNSなどでアカウント分けはするものの掛け持ち自体は隠さない傾向にもなってきている。むしろ今現在「韓国的な推し活」を熱心に行っているのは、韓国以外の国のK-POPファンの方かもしれない。
2022年以降のK-POP界の動きをボーイズグループ中心に大まかに追ってみたが、これらの変化がBTSのカムバックに及ぼす影響はそれほど大きくないように思われる。男性グループにおいて、ある程度以上の規模のファンダムを構築しているグループの場合は大衆的な注目が落ち着いたとしても、ファンダムが消費者の中心となる商業における成功は可能であり、兵役による空白を挟んだあとの持続的な活動についても、すでに成功を収めている先輩グループはさらに上の世代でも20周年を迎えた東方神起やSUPER JUNIORなど複数存在する。特に、BIGBANGの音源チャートでの変わらない存在感やG-DRAGONの帰還に沸いた『2024 MAMA AWARDS』を思い出せば、活動する限りついてくるファンはいるというのが前例として存在している。これは韓国に限った話ではないようで、1990年代に世界的人気を博したアメリカのボーイズグループ Backstreet Boysは、紆余曲折ありながらも現在まで精力的に活動を続けている。
BTSのメンバーはグループ活動の休止中にもソロ活動で全員が米Billboardの「Hot 100」にチャートインしており、JIMINの「Like Crazy」とJUNG KOOKの「Seven」は1位を獲得している実績もある。ファンダムの年齢層やアイドルファンダムのなかでの立ち位置に変化はあるかもしれないが、休止や活動ペースの変化にかかわらず応援するファンは当然かなりの規模でいるだろう。それゆえに、自分たちのペースで本当にやりたい音楽やパフォーマンスを追求できるような立場になっていくのではないだろうか。

























