Mrs. GREEN APPLEの“夏曲”が持つ特別な輝き 「夏の影」で綴る永続性への憧憬、人生そのものの美しさ

  夏の曲と言えるかは微妙なところだが、この機会にピックアップしたいのが、2019年リリースの「Folktale」だ。この曲は、冒頭の情景描写が美しい。〈砂舞うは夏の花の様で/滴る水は海へ戻る/その花散る頃夢思って/また日照りが心を戻す〉と夏の情景を描くことで、人生の移ろいを表現するとともに循環性を強調している。その上でサビでは〈涙が枯れたというなら/愛を込めて今/無愛想なキミなら/意味ならわかるでしょ?/我らは今日もまた/歩いてゆく〉と歌っている。自然界の永続的なサイクル、無常観を根拠に、私たちの人生にも必ず次の季節がやってくると、人は誰しも困難から再生する力を備えているのだと伝えたいのだろう。〈涙が〉という歌詞を「なーなーなみだが」と歌うボーカルも含め、楽曲は全体的にリラックスした雰囲気であり、人生の真理を突いた詩的な歌詞があくまで自然体で歌われている。アコースティックギターのループフレーズを軸にしたトラックも温かく、日々頑張っている人の緊張を解きほぐし、寄り添ってくれているようだ。

Folktale

 そして今回の新曲「夏の影」は、Mrs. GREEN APPLEが歌い続けてきた夏の世界観の美しい結実と言えるだろう。蝉の鳴き声とやわらかいギターの音色をバックにした〈吹いた/そよ風が〉という歌い出しは、聴き手に実際に風が吹いたような感覚をもたらす。この冒頭部分だけで、一気に夏の情景に引き込まれてしまう魔力がある。輪唱的なコーラスや、のちに合流するピアノのメロディも涼やかだ。

 楽曲全体で歌われているのは、時間の移ろいに対する洞察。〈伸びた影〉〈汗ばんだシャツ〉〈溶けた氷〉といった夏のモチーフとともに、時間の流れは〈ゆっくりと/ゆっくりと/見えない速さで/進んでゆく〉と歌われている。日々の生活の中ではなかなか気づけないけれど、ゆるやかに、しかし確かに過ぎ去っている時間。その不可逆性への認識が、この楽曲の根底にある。

Mrs. GREEN APPLE「夏の影」Official Music Video

 2番Aメロの〈無垢な笑顔は/どこまで続いていけるの?〉という問いかけには、これまでの楽曲で歌われてきた価値観が集約されている。「サママ・フェスティバル!」の〈色褪せる事は無い〉、「青と夏」の〈大人になってもきっと/宝物は褪せないよ〉、「点描の唄」の〈ずっと この思いは変わらない〉——これらの歌詞に通底する、永続性への憧れと、それが叶わないことへの受容。まさに“もののあはれ”的な美意識がここにある。

 〈ゆっくりと/ゆっくりと/見えない速さで/大人になってゆく〉と歌う2番Bメロでは、ボーカルの裏でストリングスやドラムが徐々に盛り上がりを見せている。そしてストリングスに導かれるように、2番サビへの突入と同時に転調。楽曲に大きな変化がもたらされる。泣きのギターソロを経て、続くDメロではキーは戻らないまま、〈過ごしていた/あの夏の思い出は/今でも瞼の裏で生きてる〉と歌われている。思い出は過去のものだが、現在の私を構成する大切な要素として、確かに“生きている”。この感覚こそが、彼らの奏でる夏の楽曲が持つ特別な輝きの正体ではないだろうか。

 こうして振り返ると、Mrs. GREEN APPLEにとって夏とは、単なる季節のモチーフではないことがよく分かる。彼らは一貫して、夏という季節の特別感を入り口にしながら、より普遍的な人生のテーマを歌い続けてきた。“もののあはれ”的な感性に根差した時間の有限性への意識、青春への郷愁、愛する人や瞬間への想い、そして困難を乗り越える人間の力への信頼——これら全てが夏という季節を舞台に、より鮮やかに、より切実に歌われている。

 Mrs. GREEN APPLEの夏の楽曲は、私たちに夏という季節の特別さを思い出させてくれるだけでなく、人生そのものの美しさと儚さを教えてくれる。「夏の影」とともに過ごす2025年の夏もまた、リスナー一人ひとりの人生のかけがえのない1ページとして刻まれることだろう。

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