Mrs. GREEN APPLE、終わらない航海と変わらない原点 10年間の軌跡が美しく輝いた野外ライブ『FJORD』

Mrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)がメジャーデビューから10周年を記念して、神奈川・山下ふ頭特設会場で野外ライブ『MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE 〜FJORD〜』を開催した。その初日の模様をレポートする。
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7月26日。広大な山下ふ頭特設会場に足を踏み入れると、涼やかな氷をイメージさせるBGMが流れる中、『FJORD』(フィヨルド)の名に相応しい氷河やクリスタルで装飾されたメインステージが目に入る。数々の伝説的なライブを繰り広げてきたミセスだが、この記念すべき日にどんな景色を見せてくれるのだろうか。期待が高まる。



大森元貴(Vo/Gt)はグリーン、若井滉斗(Gt)はブルー、藤澤涼架(Key)はレッドという華やかな衣装をまとい、ステージに登場。ライブは「コロンブス」からスタートした。ウキウキするようなバンドサウンドに乗せて「君を知りたい」というピュアでまっすぐな気持ち、知られざる優しい孤独にそっと触れる感情を、探検やオーロラにたとえながら、ようやく素晴らしい絶景に辿り着いた予感を歌った後、〈ほら また舟は進むんだ/出会いや別れを繰り返すんだ/潤んだ瞳の意味を生かすには/まず1個 宝箱を探すんだ〉と結んだ。メジャーデビューから10年。結成から数えれば12年。様々な出会いや別れがあった航海を経て、ミセスは5万人(2日間で10万人)のファンとアニバーサリーを祝福する地に辿り着いた。しかし、その航海はまだまだ終わらない。あの頃と変わらないピュアでまっすぐな気持ちのまま、ミセスは音楽を通して宝物を見つける旅を続ける。そんな未来が思い浮かぶメモラブルな開幕宣言だった。

「ビターバカンス」「フロリジナル」「ANTENNA」……フェーズ2に発表された楽曲を続々と演奏した後、3人は船を模したフロートに乗って、客席の間を進んでいきながら「クスシキ」を披露。やがてフロートはセンターステージに到着し、そこで2ndミニアルバム『Progressive』に収録された「アンゼンパイ」をミセス初のアリーナツアーであり、フェーズ1におけるラストライブとなった『エデンの園』以来、初めて演奏した。弾むような鍵盤のリズムに合わせての足踏み。一体感あるシンガロングも約5年半ぶり。再びフロートに乗り込んだ3人は客席エリアの最後方にある3つ目の小さなステージに降り立ち、「WaLL FloWeR」「道徳と皿」といったフェーズ1初期の楽曲を続けた。


「道徳と皿」には〈こんな世界でずっと、生きてゆこうと思うんだ/温かいモノを忘れないこと。/すれ違う思い 泣き合えた「青春」も/そうか。「道徳の果実」を食べて/どうか どうか諦めず/さぁ 笑え/さぁ はじめてみて〉という歌詞がある。10年前、筆者はメジャーデビューミニアルバム『Variety』のリリースタイミングで初めてミセスにインタビューしたが、その収録曲「道徳と皿」に対して、大森はこう話していた。
「人を信じることや人に信じてもらうことを諦めてる人がたくさんいるなと思った。小学校の時の道徳観というか、大事なものを最初に教えてもらってる感をまだまだ忘れるんじゃないよ、と。自分も諦めたくないし、みんなにも人を信じることや『おもしろいなあ』とか『今日良い日だったなあ』という感情を絶対に忘れてほしくない。それは尊い感情だと思うので。そう思って『道徳と皿』を書いたんです」(※1)
他にもいろいろなことを話してくれ、「目の前の(当時)18歳の音楽家は、人一倍優しくてアンテナが敏感で繊細で、人が好きだからこそたくさん傷つき孤独を感じ、でも闇堕ちせずに音楽を通して愛と希望を描こうとしている。なんと聡明なのだ」と驚いたことを思い出す。


3人はフロートに乗り込み「Magic」を披露。人が生きる上で逃れることができない苦しさや孤独や痛みに対して、大森は優しく寄り添うように〈いいよ もっともっと良いように/いいよ もっと自由で良いよ〉と歌いかける。ミセスが歌っていることは変わっていないのだ。
美しい夕暮れと心地よい風を際立たせた「Feeling」の後、大森はこの日のために新曲を作ってきたことを告げた。ちょっと照れ臭そうに「お前、どこにそんな時間があるんだよって? 書きたくて書きました。『ANTENNA』というアルバムに『ANTENNA』という曲があるように、『Attitude』というアルバムに『Attitude』という曲があるように」と前置きして披露されたのは、メジャーデビューミニアルバムと同じ名前を冠した新曲「Variety」。大森はギターをゆっくりストロークしながら、言葉を噛みしめるように歌い出した。そして、大森が楽曲に込めた想いを最大限にして届けることを使命だと信じ、寄り添うように演奏していた若井や藤澤らバンドメンバーの放つ音が一気に大きくなった。大森が「若井!」と声を上げると若井が見事なギターソロを披露し、「涼ちゃん!」と言うと藤澤が見事なキーボードソロを奏で、決して揺るがないであろう3人の信頼と絆が透けて見えてくる。2番では、まだ今は夢の途中であることや、自らの弱さと孤独を吐露した後、自分は幸せだと歌われた。これまでの楽曲を想起されるワードも散りばめながら、過去と現在と未来を繋げたような楽曲だった。

場内に特別な余韻が漂う中、巨大なビジョンに夏祭りの画が映し出された。「No.7」だ。「ナナナ ナナナナナナナ」というハッピーな歌が横浜の空に伸びていき、和太鼓や祭囃子の音がビジョンの画と相まって日本の夏祭り感を爆発させる。筆者がこの曲を初めてライブで観たのは2016年の『TWELVE TOUR~春宵一刻とモノテトラ~』だった。世界を強く生き抜こうとするパワーを宿した1stフルアルバム『TWELVE』の極彩色の世界をできるだけ早く体験したくて、ツアー2公演目のHEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2公演に訪れた。メンバー全員で頭上にりんごマークを作って登場するオープニングからとにかく楽しいライブだった。ゲームもアニメもYouTubeも……ミセスはこの世界に溢れるあらゆるエンタメを音楽で超えようとしている。そう感じさせるライブであり、中でも一番楽しかったのが「No.7」だった。サビはキャパ300人のライブハウスぎっしりのオーディエンスとメンバーでシンガロング。振りもあって、どんなに大きな会場でも盛り上がる曲だと思った。そこから約9年。初披露時と比べ150倍以上の数のオーディエンスの笑顔と共に「No.7」は鳴っていた。大森は『Variety』の頃から、ミセスの目標は「具体的に言うと紅白。抽象的に言うと僕らの存在をもっと多くの人に気づいてもらうこと」(※2)だと話していたが、ミセスの楽曲はそれだけのポテンシャルを宿しており、大森にはずっとこの『FJORD』の景色が見えていたのだろう。ミセスを取り巻く状況は変わったが、ミセスが見据えていた景色もミセスの根本も変わらない。



平成最後の夏曲から令和を代表する夏曲となった「青と夏」、『The ROOM TOUR』ぶりの「どこかで日は昇る」、特上のスリルが炸裂した「Loneliness」……どんどんピークが更新されていく。次に披露された「天国」は特に圧巻だった。鬼気迫る大森の歌と演奏。愛が大きいが故にそれだけ憎しみが大きくなり、心を切り裂く。音源では最後に音が途切れるが、『FJORD』では藤澤の優しく包み込むようなピアノが響き、さまざまな想いが完結されたような気がした。
「ニュー・マイ・ノーマル」「ダンスホール」「ケセラセラ」「ライラック」とフェーズ2の大ヒット曲を続け、右肩上がりに祝祭感を増大させて本編が終了。アンコールでは巨大なビジョンにこれまでのライブを遡る映像が流れた。ビジョンに映るフェーズ1時代の大森が「我逢人」と言うと、2ndミニアルバム『Progressive』の1曲目「我逢人」へ。初の全国流通盤の1曲目にして、これから多くの人たちと出会うであろうタイミングの最初の1曲に込めた、人と人が音楽を通して繋がること。〈貴方はその傷を/癒してくれる人といつか出会って/貴方の優しさで/救われるような世界で在ってほしいな〉。ミセスの曲で歌われる「あなた」とは聞き手であると同時に大森自身のことでもある。ミセスの原点とも言える「我逢人」には大森が抱える孤独、優しさ、傷、自己嫌悪、世界への気遣いがはっきりと描かれているが、それは新曲「Variety」で描かれていることと分かち難く繋がっていると言えるだろう。

大森自身もライブ中、「僕たちは何も変わってません」と口にしていたが、MCにもその変わらなさは溢れていた。ミセスのライブに初めて来た人とそうではない人、それぞれに手を挙げてもらった後、両方に手を挙げてもらうと全員が手を挙げることになる、という当たり前のことに対して爆笑する3人。NHK連続テレビ小説『あんぱん』に大森が登場する回が間もなく放送されるという話と、映画『ベートーヴェン捏造』に藤澤がショパン役で出演するという話の後、若井が音楽バラエティ番組『M:ZINE』(テレビ朝日系)でレギュラー出演しているという話へ。先ほどと同じく、『M:ZINE』を観たことがある人と観たことがない人、両方に手を挙げてもらうと当たり前に全員の手が挙がる、という遊びも行い、やっぱり3人は爆笑していた。メンバー同士の愛と笑いに溢れたやりとりも昔から変わらない。


ラストを飾ったのはデビュー曲「StaRt」だった。歌い出しの歌詞は〈やっとこさ 幕開けだ〉。小学生の頃から曲作りを始め、音楽の道に進むと疑わなかった大森が、メジャーでやっていくプロのバンドとして結成したバンド Mrs. GREEN APPLE。結成から2年でのメジャーデビューは傍から見たら早いかもしれないが、大森からしたら〈やっとこさ〉なのである。メジャーという大海原への航海を前にした昂る気持ち、皮肉や絶望を忍ばせながらも、ミセスの根幹にある楽しみながら幸せと愛に気づこうという想いをカラフルでハイパーなサウンドに乗せた「StaRt」。始まりの歌であることからサビに聴き慣れた音階がそのまま取り入れられるなど、今聴いても画期的な楽曲だ。ステージ頭上には無数のドローンが浮かび、ミセスのバンドロゴを描いていく。最後の歌詞は〈独りじゃないと否定出来るように/明日も唄うんだ〉。大森は音楽を通してずっと人と繋がろうとしてきた。今、目の前にはミセスを愛する5万人がいる。大森は「愛してるよ!」と言い放ち、ドローンは「THANK YOU ALL JAM’S」という文字を描いた。変わらない想いを胸に、これからもミセスは航海を続ける。次に向かうのは初の5大ドームツアー『DOME TOUR 2025 “BABEL no TOH”』だ。

(※1)『ROCKIN'ON JAPAN』2015年8月号
(※2)『ROCKIN'ON JAPAN』2015年9月号
























