陰陽座が音楽に刻んだ“生”と“死” 瞬火、16枚目のアルバム『吟澪御前』を語り尽くす

復活した黒猫への信頼「本当に唯一無二としか言いようがない」
――そう考えると、今作では1番バッターと2番バッターがめちゃめちゃいい仕事をしてくれている、と。先ほど妖怪の話をしましたが、今作にも「誰がために釜は鳴る」で“鳴釜”(なりかま/なるかま)、「毛倡妓」では“毛倡妓”(けじょうろう)と、妖怪を題材にした楽曲が含まれています。
瞬火:アルバムコンセプトに当てたわけではないんですけど、こういう曲を入れたいという感じで、題材を決めました。
――「誰がために釜は鳴る」はとにかくタイトルが秀逸で、かつ曲調も比較的ポップな部類と、いろんな点でギャップがあって面白いなと思いました。
瞬火:これは鳴釜という名前の妖怪そのものよりは、岡山県にある吉備津神社の鳴釜神事について歌っていて。せいろを乗せた釜で湯をわかして、せいろのなかで器に入れた玄米を振るとアトランダムで奇妙な音が鳴って、その音の強弱、高低、長短で吉凶を占う神事なんですけど、その音を聞いた人が「今の音はいい音だな」と思ったら祈願は叶う、「嫌な音だな」と思ったら(祈願が叶うのは)難しいかもしれない。神主が恣意的に答えを出すのではなく、受けた自分にとってその音がどう聞こえたかで、答えを自分で決める。この曲では、「自分の心は自分にしかわからないんだから、自分で決めてその道を進もう」という前向きなことを歌っています。
――妖怪ひとつとっても、そうやって解釈や視点を変えることでいろんな捉え方があると。
瞬火:そうですね。妖怪って、人間の心を映しているものだと思うので。最終的にはこの曲で歌われているような「その人の心で決める」ということともつながるわけです。
――アルバム中盤には、「地獄」と題された美しく切ないバラードが用意されています。
瞬火:「地獄」というタイトルだと激しい曲をイメージすると思うんですけど、逆のタイプの曲が始まるという。ちょっとしたトラップのような感じかもしれません(笑)。でも、これには金棒を持った鬼がいて閻魔様が舌を引っこ抜く、あの想像上の地獄じゃなくて、比喩的に言うほうの“この世の地獄”とか“生き地獄”を表現していて。我々は日々の生活のなかで、毎日のようにニュースを通していろんな凄惨な事件を目にしますよね。そのなかには“この世の地獄”と呼ぶにふさわしい陰惨なものもあります。大抵の場合、“この世の地獄”という状況で苦しめられる立場の人は、まったく罪のない無垢な善人であることが多く、逆にその人をそんな状況で苦しめるような、つまり本物の地獄に落ちるのがふさわしいような人間ほど、その後何も咎められることなく人生を謳歌することが多い。この歌の主人公も清らかな魂の持ち主だからこそ“生き地獄”を味わわされているわけですが、そのことを恨んで暴れるのではなく、まだその地獄の渦中にあって無垢な涙を流し、嘆きを訴えている状態を歌にしています。
――その苦しみや悲哀が、こういう美しいメロディによってより強調されるわけですね。ちょっと脱線しますけど、今作の収録曲の多くは3、4分前後と非常にコンパクトですよね。そのへんって意識的なんですか?
瞬火:結成した時から心がけてきたことなんですけど、「わかりやすく、気持ちよく聴ける楽曲」と「難解で複雑で長いかもしれないけど、それだけの尺を使って描くべき要素を持った楽曲」と意識を分けているところがあります。全部の曲が中途半端に複雑で長いと、聴き手側も腰を据えないと楽しめないじゃないですか。でも、3分の曲は3分で歌いたいことを歌い切って終わればいいし、でも十数分の曲はそれだけの長さで語らないと語り切れないからそうなっているだけで。だから基本的には余計なものはできるだけカットしています。「長い曲もたくさん作っておきながら、どの口が言うんだ!」と言われそうですけど(笑)、常に無意味な長さにならないように気をつけています。なので、今回はこの尺にまとまるべきだったからそうなった、というだけです。
――今作では終盤に配置された「大嶽丸」「鈴鹿御前 -神式」が6分台と最長ですが、それでも過去と比べるとかなりコンパクトに凝縮されていて。短い2曲をキュッとひとつにまとめた印象も強いです。
瞬火:この2曲には語るべきドラマがあったから、それぞれ2曲分以上のアイデアを使って展開させました。ともすれば、4分台くらいのアイデアが2つある場合、足して8分の曲にしてしまったりすることもあると思うんですが、ちゃんと意味のある8分ならいいですが、無味な8分の曲というのはちょうど嫌な長さじゃないですか(笑)。
――10分を超えたらそれはそれとして、受け入れる覚悟もできますし(笑)。
瞬火:繰り返しますが、必要な要素をまとめた結果の8分は何の問題もないですよ。意味もなくパーツを足してなんとなく8分になった、というのは僕にとっては避けたいこと、というだけです。僕は、「音楽的にこのパートを繰り返す必要があるかどうか」を熟考しながら、必要がないならどんどん次の展開へと進行して全体を無駄なくまとめる努力を常にしています。だから、今回の「大嶽丸」や「鈴鹿御前 -神式」は2曲分以上のアイデアを用いていますが、無駄を削ぎ落として6分ちょっとという形に落ち着いたわけです。6分だったら長いと思うギリギリのラインだと思うし、特に今回のアルバムにおいてはほかの曲が3、4分台だったから、特別長いと感じてもらいたくなかった。なので、必要な要素だけ残して無駄のない形にまとめることを心がけました。
――このアルバムを聴くと、今の黒猫さんが絶好調であることが伝わります。従来の黒猫さんらしい歌唱もあれば、「毛倡妓」のように詩吟っぽい歌唱スタイルを取り入れた楽曲もあり、ヘヴィメタルというジャンルにおけるボーカルアルバムとしては最高峰ではないかと思いました。
瞬火:ありがとうございます。黒猫の調子については本人の体感でしかないので、僕に評することはできませんが、録音された作品を聴く限り、すべてにおいて求められている以上の最高のパフォーマンスをしていると思います。たとえば黒猫は、その曲のなかに登場人物がいるなら、「この人物の心境はどうなんだ?」とか、人物じゃなくて観念だとしても「これは一体どういうことを伝えなきゃいけないのか?」ということをイメージして、そのイメージが空回りすることなく全部歌のパフォーマンスとして昇華できる。そういう強みを持っているので、今おっしゃっていただいたように「毛倡妓」みたいな癖が強いけどキャッチーな曲でも、演歌とか民謡の素養を持っているわけではないのに、ああいうメロディや節回しが自然と出てくる。そういう黒猫のセンスは素晴らしいですし、そこは本当に唯一無二としか言いようがないんです。僕としても楽曲のバリエーションとか聴きやすさとか、そういうことも意識して一生懸命曲を作っているんですけど、黒猫はそれをすべて僕が意図した通り、もしくはそれ以上に歌ってくれるので、全幅の信頼を置いて作曲ができます。実際ボーカルアルバムとしても優れているという評価は、本人以上に僕がいちばん嬉しいですね。
――先ほど瞬火さんが「『吟澪御前』と書いて『陰陽座』もしくは『黒猫』と読む」とおっしゃいましたけど、本当にそういう内容なわけですよね。
瞬火:そうですね。「陰陽座ってどんなバンドなの?」と聞いてきた人には、「まずはこれを聴いてみて」とこのアルバムを渡して、頭からラストまで飽きるほど聴いてもらうのがいちばん早い。そういう作品ができたなと思います。
※1:https://realsound.jp/2023/01/post-1242708.html
■リリース情報
16thアルバム『吟澪御前』
発売中
価格:¥3,500(税込)
初回限定特典:特製スリーブケース、カラー・フォトブックレット
配信リンク:https://king-records.lnk.to/omz_ginreigozen

<収録曲>
01. 吟澪に死す
02. 深紅の天穹
03. 鬼神に横道なきものを
04. 誰がために釜は鳴る
05. 星熊童子
06. 毛倡妓
07. 紫苑忍法帖
08. 地獄
09. 鈴鹿御前 -鬼式
10. 大嶽丸
11. 鈴鹿御前 -神式
12. 三千世界の鴉を殺し
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