陰陽座が音楽に刻んだ“生”と“死” 瞬火、16枚目のアルバム『吟澪御前』を語り尽くす

陰陽座 瞬火、『吟澪御前』を語り尽くす

「死す」と言っているけど、それはつまり「生きる」という決意の表明

――ここからはニューアルバム『吟澪御前』について、じっくりお話を聞かせてください。前作『龍凰童子』は4年半ぶりの新作ということもあってか、全15曲と非常にボリューミーな内容で、前作がじっくり時間をかけて味わうような作品だったのに対して、今作はサラッと楽しむことができたのが意外で。語弊がある言い方かもしれませんが、非常に“聴きやすい”アルバムだったんです。

瞬火:なるほど。

――オープニングを飾る「吟澪に死す」からこのアルバムの世界観にスッと入っていけましたし、アルバムが進むにつれてどんどん濃厚になっていくんだけど、聴き終えた時の爽快感は近作のなかでは随一だな、と。そこがとても新鮮でした。

瞬火:そもそも音楽というのは、激しい曲なのに聴きやすいものもありますし、その逆もある。流麗でしっとりしたピアノバラードしか入っていないボーカルアルバムだけど、なんか聴きづらいなっていうのもありますし。聴きやすくなかったら、人に聴かせる意味がないですから。(今回のアルバムは)聴いてくださる方にちゃんと届くように、刺さるように作れているっていうことだと思うので、その「聴きやすいアルバム」という言葉は、僕にとって褒め言葉で、「よくできました」っていうことなんだと思います。

――ありがとうございます。前作は「『龍凰童子』と書いて『陰陽座』と読む」と言わしめた、バンドにとって代名詞になるような作品だったと思いますが、それを経た今回のアルバムでは、どういうイメージを持って制作に臨んだのでしょうか。

瞬火:『吟澪御前』は、ある意味では「バンドそのものだ」と宣言した『龍凰童子』と共通点があるというか。音楽的な共通点とか関係性は一切ないんですけど、「『龍凰童子』と書いて『陰陽座』と読む」を受けてこの『吟澪御前』を評するならば、「『吟澪御前』と書いて『陰陽座』もしくは『黒猫』と読む」ものであると思っています。歌って、音楽を吟ずることを己の生きざまとして刻む――それは黒猫そのものであり、陰陽座そのものでもあるわけで。そのコンセプトの成り立ちが『龍凰童子』と共通しているんです。

――なるほど。

瞬火:今までもそうだったんですけど、苦境を乗り越えて復活してからの作品というのは「今回のアルバムで最後かもしれない」という思いがより強まっていて。僕のなかでは次のアルバム、その次のアルバム……という先の構想はたくさんあるんですが、実際に作れるかどうかの確約はあるわけではない。だったら、これが自分たちの最後の音楽だとしても悔いがないようにしたいし、自分たちそのものだと言える作品を残そうっていう気持ちが、『龍凰童子』の時により強くなった。その気持ちが今も持続しているとも言えるし、そもそも『龍凰童子』の構想をしていた時にはこの『吟澪御前』のタイトルも決まっていましたし、「これぞ陰陽座だ」というものを作る理由も『龍凰童子』一枚では冷めやらないだろうなとわかっていたので、“童子”と“御前”という言葉を使って、共通した理念を示そうとしたという面があるかもしれません。

――“童子”は強力な男性の鬼、“御前”は強力な女性の鬼を意味しますが、今回のアルバム収録曲を見ると「鬼神に横道なきものを」「星熊童子」「鈴鹿御前」「大嶽丸」と鬼や鬼神に関連したタイトルも多いです。

瞬火:そうですね。鬼を裏テーマにする意図があったわけではないんですけど、そもそも陰陽座は“妖怪ヘヴィメタル”と銘打っているので、もちろん鬼も妖怪と共通したものですからね。特に今回は、鈴鹿御前という女神でもあり、鬼でもある存在を扱うということになって、それにまつわるほかのマテリアルを並べていく時に、「この鬼も扱いたい」という意識がどこかにあったのかもしれないです。

――必然的に導かれたものがあったと。先ほども言いましたが、オープニングトラック「吟澪に死す」はめちゃくちゃストレートで王道感も強く、ファンが陰陽座に求める要素が凝縮されたサウンドだなと感じていて。その一方で、歌詞においては「この世界で陰陽座はさらに前進していく」という強い覚悟が伝わる内容になっていて、この曲をアルバムの冒頭に置くことに大きな意味があるんじゃないかと思いました。

瞬火:おっしゃっていただいた通りの役割を持つ、リスナーから「待ってました!」と言ってもらえるようなスタイルだと思います。かつこの『吟澪御前』というアルバムのコンセプトをそのまま体現するような楽曲に仕上がったと思っていて。「吟澪に死す」というタイトルからも、このアルバムにおけるタイトルトラックの役割を担っていることが伝わると思いますが、作っている時からアルバムの1曲目になることははっきりと決まっていました。

 歌詞の前を向いて進んでいる感じは、陰陽座自体の基本理念というか。これはいい/悪いの話ではないですが、よく「俺たちは上を目指します!」と言うバンドもいると思うんですけど、僕たちは上を見たことがなく、前しか見ていない。「上がっていく」のではなく、「前へ進んでいく」ことを信条にしているんです。それに、「吟澪に死す」という曲は、「死す」と言っているけど、それはつまり「生きる」という決意の表明です。大袈裟かもしれませんが、自分たちの音楽が人類にとってどれだけ重要かと言ったら、砂漠の砂の1粒ぐらいの価値かもしれないけど、それを作ることで聴いてくださる方がいるという営みはたしかにあるわけだから、「それをやって死ぬ」――つまり「そうやって生きる」という意味で前しか見ていない。そういうバンドの宣言なので、生命力を感じていただけたのなら嬉しいです。

――上ではないんですね。

瞬火:上を目指して上がったら、いずれ下がってしまいますからね。でも、前さえ向いていれば、下に下がることはないですから。最終的には前のめりに倒れればいいのかなっていう。

――バンドによっては、ライブの規模感をどんどん大きくしてお客さんを増やしたいとか、もっと効率的にたくさんの人に音楽を聴いてもらいたいとか、そういう野望を持つ方々もいらっしゃると思います。でも、陰陽座はそうではないと。

瞬火:はい。「フェスを騒がしてやる」とか「武道館でやってやる」とか、そこが原動力になるバンドもいますし、むしろそっちのほうが健全かもしれない。目標に向かって、自分たちの音楽で道を切り開くという意味では陰陽座も一緒だと思うんですけど、僕たちの場合は会場の規模感にしても「ここでやりたい」じゃなくて「ここが売り切れたらワンサイズ上げます」の連続、あるいはそれを維持する。僕たちにできるのは音楽を作って歌うことだけなので、活動の規模を目標にするのは本末転倒と考えます。自分たちがいいと思う音楽を作って、それを聴いてくれる人がいて、ライブを観にきてくれる人がいて、その結果が今なわけで、それを25年以上も続けられているということがそもそも異常事態なわけです。それを数字や規模感で語ることのないバンドなので、景気のいい目標を立てられないんだと思います。

――アルバムの話に戻りますが、2曲目の「深紅の天穹」は、アルバムからのリードトラックとして先行配信されました。この曲をリードトラックに選んだ理由は?

瞬火:「この曲でアルバムを牽引する」というような意図はなくて。毎回そうなんですけど、アルバムの収録曲はどれを抜き出しても自分たちとして自信があるものばかりなので、そのなかでも特にわかりやすさを意識して、今回は「深紅の天穹」を選びました。

――黒猫さんと瞬火さんのツインボーカルをしっかり楽しめる点に加えて、楽曲自体がキャッチーで親しみやすさが強く、同時に陰陽座らしい要素も随所に散りばめられている。「吟澪に死す」もこの曲も、本作のなかでは特に導入にふさわしい作風なのかなと。それが、先ほど言った“聴きやすさ”にもつながっていて、この先に待ち構えている濃厚な世界観の序章としての役割をしっかり果たしている。この曲順も非常に練られているなと感じました。

瞬火:やり方に毎回多少の違いはありますけど、曲順に関してはかなりこだわっているほうだと思います。曲の並びって本当に大切で、順番を変えるだけで一曲一曲の印象も変わったりするので、それぞれ最良の形で楽しめる流れを考えて楽曲を配置していく。僕は野球が好きなのでよく打順に喩えるんですけど、要は「1番、2番が塁に出たら、3番、4番はどうやって打って得点につなげるか」ということですよね。その流れを聴きやすさとか、波に乗れる感じと受け取ってもらえたなら嬉しいです。

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