陰陽座が音楽に刻んだ“生”と“死” 瞬火、16枚目のアルバム『吟澪御前』を語り尽くす

陰陽座が、8月6日に16thアルバム『吟澪御前』をリリースした。一時は発声すらできなくなったという黒猫(Vo)の病を乗り越え、苦難の果てに作り上げた前作『龍凰童子』。そんな作品を経ての本作には、どこを切り取っても“陰陽座”と言える全12曲が収録され、今後も自分たちの信じる音楽を鳴らし続けていくのだという力強い意志が感じられる。
リアルサウンドでは、全作詞曲を手がけた瞬火(Ba/Vo)にインタビュー。前作から2年半のあいだに行われたツアーの振り返り、ヘヴィメタルバンドを続けるということ、そして『吟澪御前』に込めた数々の想いまで幅広く話を聞いた。(編集部)
「僕らは二重に苦しい状態を乗り越えることができた」
――前作『龍凰童子』リリースから2年半が経ちました。バンドとしても黒猫さんの体調不良という大きな困難を乗り越えて、ツアーを何本か行ってきましたが、そうした経験に瞬火さんはどんなことを感じましたか?
瞬火:世のなか的にはコロナ禍だったこともありましたし、バンド的にも黒猫の体調がコロナ禍明けあたりにやっと復調してきて、それを乗り越えて久しぶりに発表できたのが『龍凰童子』というアルバムでした。アルバムを携えてのツアーも、もしかすると開催できなかったかもしれなかったので、実際にやれたということ自体に本当に感謝しかないっていう気持ちでしたね。そもそも、コロナ禍は世界中が大変な状態でしたから、音楽界の復興など順番的には当然最後であるべきでした。それを乗り越えてお客さんに集まってもらって公演ができたということは、陰陽座に限らずどんなアーティストでも、お客さんの前でライブをできることがどんなにありがたいことだったか、みんな噛み締めたと思います。そういう意味では、僕らは二重に苦しい状態を乗り越えることができたので、もう感謝しかなかったです。
――前回のインタビュー(※1)でも、瞬火さんは「黒猫さんの状態が回復しなければ、バンドとしてもう止まってしまっても、それまでだ」という趣旨の発言をしていましたが、特にヘヴィメタルというジャンルにおいてボーカルは体にかかる負担も大きいですものね。
瞬火:日本にメタルシーンというものがあるとして、ざっと見渡しただけでも女性ボーカルのバンドがすごく多いなと見受けられますけども、陰陽座が結成した当時はそもそもヘヴィメタルというもの自体が、もう時代遅れだと言われていたような状況下で。メタルとは男が叫ぶものだ、っていう偏見も強かったですから、黒猫という女性ボーカルへの風当たりだけでなく日本語詞や着物という部分も含め、逆境も逆境というところから始まりましたね。激しいサウンドと激しい歌こそがヘヴィメタルの持ち味のひとつではあるので、そういう状況下で歌い続けるのはもちろん過酷なことだったと思います。
でも、ヘヴィメタルバンドをあの時代にやると僕たちが決めて、黒猫もそれを覚悟して長年やってきたわけです。単純にフィジカルがキツいっていうのはどんな音楽でも――もっと言えばどんな仕事でも――大変だとは思いますけど、ひとえに黒猫という歌い手が自分の持っている力のすべてを陰陽座の音楽に捧げるという強い覚悟を持っていたからこそ、ここまで続けられたし。一度コンディションを崩したのを立て直して、また活動できているのも、意地や覚悟があったから。そういう思いが折れなかったのも、彼女の精神力の強さあってこそだと思います。
――おっしゃるように、最近は若い女性ハードロック/ヘヴィメタルバンドも増えていますが、その一方で陰陽座よりも上の世代のバンドもまだまだ元気ですよね。先駆者であるLOUDNESSなんてまもなく結成45周年を迎えようとしています。
瞬火:海外に目を向ければ60代、70代の現役メタルアーティストも少なくないですし。
――その一方で、オジー・オズボーンのようにライブから引退したアーティストもいます(取材は7月中旬実施)。もちろんオジーの場合は健康面の問題が理由ですが、先の黒猫さんの件以外でバンドをやめよう、シーンから退くことを意識する瞬間ってこれまでにありましたか?
瞬火:そういうのっぴきならない事情に襲われて続けられないという以外で、「このへんでバンドを畳んでおこうかな」と考えるようなことは一度もなかったですし、今となっては、もはや後戻りできる状況じゃないと思っています。覚悟を決めて、行けるところまで行く。ただ、それも「行けるところまで」なんですよね。行けないとなったら行けないわけで、行けるんだったら行けるところまでは行くっていう。“生きる”と一緒です。いつ死ぬかわからないけど、その日まで生きるのが人生なので、だったらバンドも「大体このぐらいを節目にしてやめようかな」みたいな感じではやれないです。バンドにとっての“死”が解散になるのかはわからないですけど、死ぬ時まで生きると思えることは、むしろ幸せなことだなと思っています。
――音楽を作っていくなかでマンネリ化してしまい、「これ以上新しいものを生み出せない」と結論づけて解散を選ぶケースもあるじゃないですか。陰陽座に関しては、そういう予兆はまったくない?
瞬火:ないですね。荒木飛呂彦先生が「死ぬまで『ジョジョ』(『ジョジョの奇妙な冒険』)を描く」と言ったのと一緒で、死ぬまで陰陽座をやれるんだったら、もうそれで十分。「別のことをやりたいから陰陽座を一旦閉じようか」なんて考える前に、やりたいことは全部ここでやれているので、そもそも陰陽座を閉じる必要もないですしね。
――陰陽座の楽曲では妖怪を題材にすることも多く、瞬火さんはかつて「楽曲の題材にしたい妖怪がまだ数えきれないくらいある」とおっしゃっていましたものね。
瞬火:そうなんです。おそらく死ぬまでに全部を扱いきれないと思っているくらいなので、ネタはまだまだ尽きないです。ヘヴィメタルというジャンルの音楽は、幅が狭くて画一的と捉えられることが多いですし、実際にそう言われてもしょうがないような極端な面もありますが、そのなかで陰陽座というバンドではそういうヘヴィメタルのパブリックイメージにとらわれることなく、自分たちなりに幅広い音楽をやってきたつもりです。どんなに極端なことでも陰陽座ではやれると思っていますし。まだまだやりたいこともたくさんあるので、今はそれをやらせてもらえているこの状況に感謝するだけですね。


















