稀羽すう&春野、互いの表現に抱く“憧れ” シンクロする感性から芽生えた初コラボを語る

7月30日にリリースされたバーチャルタレント事務所 Re:AcT所属のVSinger・稀羽すう(うすわすう)による2ndアルバム『Dive iN』。“夜のドライブ”というコンセプトの通り、前作のEP『ONE LDK』で描いた内向的な世界観から一転。外へと向かおうとするエネルギーを感じさせる。
今作のリード曲であり、4thシングルとしてリリースされた「seaglass」を書き下ろしたのが、ボカロP出身のシンガーソングライター・春野である。リアルサウンドでは稀羽すう×春野の初対談が実現。メロウなグルーヴに重なる、透明でありながら確かに存在感のある声の粒が印象的な「seaglass」だが、その制作過程も、実は寄せては返す波のように自然と稀羽すうに寄り添うかたちで生まれていったという。2人の共鳴が、きっとあなたにも伝わるはずだ。(小町碧音)
“昔の春野のテンション”を活かせる楽曲に
ーーまずは、お互いの第一印象から伺ってもいいですか?
春野:お話をもらった時に、「すうさんってどんな人なんだろう?」と思って、まず動画を観ました。配信ではテンション高めで喋っていたので、勝手にそういうイメージを持っていたんですけど、オンラインで打ち合わせをしてみると、楽曲の方向性についてなどしっかり自分の言葉で話してくれて、そういう意味ではギャップがあったかもしれないです。
稀羽すう(以下、稀羽):いや、春野さんは今も昔も変わらない、天上人です(笑)。最初に、Re:AcTのスタッフさんから「誰にお願いしたいですか?」と聞かれた時、軽い気持ちで「春野さんとかいけますか?」と言ってみたんです。そうしたら、どんどん話が進んじゃって……(笑)。レコーディングでは、ずっと「うわ、本物だ! すげえ! 怖い!」と思っていました(笑)。
春野:怖かったんだ(笑)。
稀羽:まさか、レコーディングに来ていただけるとは思ってなかったですし。震えながら歌ってました。
ーー春野さんのことを知ったのは、VTuberを始める前ですか? それとも、始めた後?
稀羽:VTuberを始める前の、6〜7年前ですね。ボカロ曲が好きで、いろいろ漁っている中で見つけた感じだったかな。春野さんの曲は全部聴いている自信があって、作業する時も春野さんのプレイリストをよく聴きます。最近公開された久しぶりのボカロ曲「鬼ごっこ」もよかったです。
春野:いろいろ僕の曲を聴いてオファーをくれたのは嬉しいですね。レコーディングの時、そういうテンションの高まりは出てなかったですよね。結構スンとしてた(笑)。
稀羽:出したらキモいかなと思って(苦笑)。あまり「ファンです!」という感じを出すと、怯えられるかもしれないじゃないですか。とにかく、悟られないようにしていました(笑)。
ーー春野さんはもともとボカロPとして活動を始められて、今ではVSingerにも楽曲提供されています。ボカロとVTuber、それぞれの声と向き合う上で共通する感覚はありますか?
春野:もともと、ぼんやりと“女性像への憧れ”があったというか。自分が前に出たいからというよりかは、女性ボーカルへの憧れを表現したくて始めたのが、ボカロだったんです。
ーーそうした声に対する憧れが、今の活動にも自然と繋がっているんですね。
春野:そうだと思います。VTuberの皆さんも今は歌メインで活動されている方も多いですけど、広く定義してしまえば、女性のVSingerさんだったら、僕としては初音ミクと変わらない。もちろん、歌える音域が違ったり、声質が違ったりはします。でも、自分が歌ったら男の声でしかないところを、女性の声をプロデュースできるという点では、ボカロをやっていた頃と気持ち的には変わらない感じはあります。
ーーネット発のアーティストとして、VSingerのすうさんにも似たルーツを感じることはありますか?
春野:ありますね。VSingerをやっていらっしゃる方のルーツも、バチバチのヒップホップを通っているみたいな人は、そんなに多くなくて。わりとサブカル寄りで、ちょっとアングラなシーンが好きなところで共通しているんです。
すうさんの作品は、最初に、“歌ってみた”とオリジナル曲との雰囲気が乖離している印象がありました。オリジナル曲は、サブカルチャー寄り。内省的な歌詞が目立っている。あと、シングルカットしている曲でも、シングルっぽくないアングラな演出が多いなと思っていて。「昔からファンでした」と言ってくれていたこともあって、今回は昔の自分が作っていたようなテンポの遅い、グルーヴ重視の内向的な曲を引っ張り出したい自分と、シングルっぽい強い曲を書いてあげたい自分がいて。その上で、特に「昔の春野のテンションが欲しい」と所望してくれていたので、わりと昔の春野を引っ張り出すことを優先して書いたところもあったりするんですけど。
VTuberもボカロも音楽の括りの中では狭い一部のシーンから来ているというか。なんとなく、“同胞感”はあるんじゃないかなとは思いますね。
ーーすうさんは、もともとボカロ曲が好きだったということですが。
稀羽:はい。でもボカロPさんたちは、すごいなと思いますね。私は音楽を聴くのが好きだし、歌うのも好き。でも、作ろうと思ったことが一度もないんです。ボカロPさんたちに限った話ではないですけど。やっぱり0から1を作れる人はすごいな、と思っていて。
ーー春野さんの「女性の声に対する憧れ」という話も印象的でしたが、すうさんの場合は……?
稀羽:私は春野さんの逆ですね。普段、男性ボーカルの曲をよく聴くので、配信で歌枠をさせていただく時は男の人の曲ばかり歌っていて。私からすると、「春野さんみたいな声で歌えたらめっちゃいいのに!」と思います。ないものねだりですかね(笑)。
ーーすうさんの1枚目のEP『ONE LDK』は“部屋”がテーマでしたが、今作の『Dive iN』は“外”へと視点が開かれた印象があります。何か心境の変化があったんでしょうか。
稀羽:いや、そんな大層な話ではなくて(笑)。1st シングル「Floating」のジャケットアートワークには、お風呂の湯船に浸かっている私が描かれていたんですよ。そこから連想して、「リビングがあって、書斎があって、キッチンがあって……」と広げていって、『ONE LDK』というEPができて。次のアルバムを作ることが決まった時に「ほな、外出るか」と。最初は、乗り物をテーマにする案も出ていたんですけど、三歳児向けの絵本みたいになりそうで(笑)。それならドライブとかお洒落に振り切った方がいいよね、という流れで夜のドライブがコンセプトになりました。


















