レジェンド・ryo (supercell)が登壇し10周年祝うーーさらなる飛躍を確信させた『初音ミクシンフォニー2025』東京公演

『初音ミクシンフォニー2025』東京公演レポ

 初音ミクをはじめとするバーチャルシンガー楽曲をオーケストラ演奏で届け、10周年を記念する『初音ミクシンフォニー2025 10th Anniversary』の東京公演が7月6日、サントリーホールで開催された。2月の札幌公演、4月の大阪公演に続くクラシックホールでの開催となり、映像やバーチャルシンガーの歌唱のない、オーケストラの魅力がストレートに伝わるステージで、多くの感動が届けられた公演だった。

 超満員の観客から万雷の拍手を受け、一曲目に演奏されたのは、動画再生数は1億回を超え、海外でも高い人気を誇るメガヒット曲「愛して愛して愛して」(きくお)。切実なメッセージとは裏腹なドリーミーなサウンドが印象的な楽曲に、東京フィルハーモニー交響楽団の繊細な演奏と、石丸由佳氏によるパイプオルガンの浮遊感のある音色が映える。この一曲を大きな物語に昇華する指揮者は、お馴染み栗田博文氏。いずれも初音ミクシンフォニーの10周年を飾るに相応しい、功労者といえる存在だ。

 その意味で忘れてはいけないのは、初音ミクのキャラクターボイスを担当する声優・藤田咲。札幌、大阪公演に続きMCとして登壇し、コンサートの開幕を告げた。ヤンチャに転がるようなサウンドが愛らしくも荘厳にアレンジされた「おこちゃま戦争」(Giga)、甘く切ない恋心が優しい演奏で届けられた「どりーみんチュチュ」(emon(Tes.))と、序盤からフックのある楽曲が続く。再びステージに登場した藤田が「楽しむ準備はできてますかー?」と観客席に呼びかけ、大歓声が起こるーーこれもクラシックコンサートではなかなかお目にかかれない、初音ミクシンフォニーならではの光景だ。

 悲壮感と希望が入り混じった感情をヴァイオリンが強調する「レイニースノードロップ」(Re:nG)、心のつながりを切なく、しかしオーケストラ全体が歌い上げるように高らかに伝える「きみとぼくのレゾナンス」(斜め上P)と、KAITO/MEIKOの15周年アニバーサリー曲に聴き入っていると、ファンが待望していたスペシャルゲストが呼び込まれる。シーンに数々の名曲を残してきたレジェンド・ryo (supercell)だ。その人気・知名度と比較してメディア露出の機会は極めて少なく、イベント出演も今回でなんと3回目だという。

 「普段はSNSも見ないので、自分の名前を知っている方がこんなにいるということを、先ほど藤田さんが教えてくださって。こんなに大きな拍手で迎えていただいて、感極まっています」と、観客への感謝を伝えるryo。昨年、supercellデビュー15周年を記念して自身でもオーケストラコンサートを開催した経験も踏まえて、「われわれボカロPは、“音楽をやる!”と意気込んでやっているというより、そこにパソコンがあって、基本的にただ自分が作りたいものを作っています。小さい頃から、みんながかけっこやドッジボールをしている時に毎日、練習に打ち込んで、そのなかでもほんの一握りの方々が演奏されているオーケストラとは、ある意味で水と油です。聴いてくれる方がいて、演奏してくれる方がいて、それが10年続いたことを本当に嬉しく思っています」と語り、「演奏技術の素晴らしさはもちろん、ちゃんと楽曲を理解してくださっていることが伝わってきます」と、あらためて演奏者に敬意を表した。

 「ryoさんにとって、初音ミクはどんな存在ですか?」と藤田に問われたryoは、「サッカーが好きな人は、ボールやグラウンドを見るとワクワクしますよね。自分は初音ミクを見ると、今でも“次はこんな曲が作りたいな”とワクワクするんです」と一言。今も精力的に楽曲制作を続けていることを明かし、観客は期待の歓声を上げた。

 そうして演奏されたのは、初音ミクシンフォニー10周年を記念した「もう一度聴きたい楽曲」のアンケートで1位に輝いた、ryoの「ODDS&ENDS」だ。多くの公演でハイライトを作ってきたこの曲は、“初音ミクが歌う”ことに意味のある、シーンを追いかけてきたファンにとって特別な一曲。本公演ではパイプオルガンが加わった特別アレンジで演奏されたが、ryoが語ったように、キャッチーなメロディの裏に流れるメッセージを深く理解した泣かせる演奏で、最終盤、パイプオルガンの独奏パートを経た大きな盛り上がりは、ホールを感動の渦に巻き込んだ。

 休憩を挟み、後半は金管と弦が掛け合いのように歌う「ロミオとシンデレラ」(doriko)からスタート。そこから大阪公演でも人気を博したスペシャル企画、栗田氏による楽曲解説コーナーが展開された。初音ミクを象徴するアイテムの一つである「ネギ」を指揮棒のように持ち込み、軽妙なトークで観客を沸かせる栗田氏。もちろんジョークだけでなく、サントリーホールに関して、「1986年秋にオープンした東京で最初のクラシック音楽専門ホール」であり、「パイプオルガンのパイプの総数は5898本で、世界最大級」であることなど、演奏を聴くのがさらに楽しくなる知識を伝え、解説したのは「Bad ∞ End ∞ Night」メドレー(ひとしずく)。「Bad ∞ End ∞ Night」「Crazy ∞ nighT」「Twilight ∞ nighT」「EveR ∞ LastinG ∞ NighT」と、チェレスタのオルゴールのような美しい音色から始まり、ビッグバンドのようなスイングがあり、最後はパイプオルガンの壮大な響きで締めくくられるーーという、聴きどころが示された。ホールは音楽劇を観たような充実感に包まれる。

 続いて解説&演奏されたのは、KAITO曲として屈指の人気を誇る「上弦の月」(黒うさP)。コンサートマスター・佐份利恭子氏によるヴァイオリンの独奏を軸としたコンチェルトで、物悲しさと美しさが共存したソロにオーケストラがぴたりと寄り添う。さらに、本編最終曲は言わずと知れたシーン初期の名曲「初音ミクの消失」(cosMo@暴走P)。セリフや「深刻なエラーが発生しました」をピッコロ・フルート・オーボエ・クラリネットの木管楽器が、同曲の代名詞である高速フローはヴァイオリン&ヴィオラ、シロフォン(木琴)、ホルン&トランペットが重なり合いながら再現し、歌詞まで聴こえてくるような演奏に感嘆させられる。

 なりやまない拍手に応えたアンコールの一曲目は、halyosyによる人生讃歌「Blessing」。バーチャルシンガー6人の掛け合いを各楽器が再現し、アニバーサリーにぴったりの華やかな演奏が展開される。さらに、初音ミクシンフォニーの10周年を記念して制作されたヴァイオリンを佐份利氏が手に取り、「Hand in Hand」(kz(livetune))を演奏するという、粋なシーンも本公演のハイライトになった。未来へ向かう解放感が伝わるポップでどこか切ないメロディに、シロフォンの跳ねるリズムとパイプオルガンの神秘的な響きが完全に調和していることに驚かされる。

 ここで、初音ミクシンフォニーからの「お知らせ」が、藤田より伝えられる。10月1日には、札幌公演とサントリーホール公演の全演奏曲を収録した4枚組のアニバーサリーCD『Miku Symphony Live at Sapporo & Tokyo - 10th Anniversary Best -』が発売。また、12月1日には表表紙にKEI、裏表紙にRellaという、シーンを支えてきたレジェンドの描き下ろしイラストを採用した『初音ミクシンフォニー10周年記念スペシャルブック』(仮)が発売される。初音ミクシンフォニーの歴史を耳と目で楽しみたいーーと、両作品に思いを馳せていると、続いて演奏されたのは、Mitchie Mが10周年テーマ曲として手がけた「プレイオン」。これまでの歴史をあたたかく振り返りながら、未来を見つめて「演奏を続ける」。「G線上のアリア」や「歓喜の歌」という耳馴染みのあるクラシック楽曲を織り交ぜた、希望に溢れる一曲だ。

 そして最後の曲は、観客席からも驚きの声が溢れた「命に嫌われている。」(カンザキイオリ)というサプライズだった。『第72回NHK紅白歌合戦』でも歌われた2010年代のシーンを代表する一曲。そのメッセージを見事に汲み取った演奏は、おそらく初音ミクシンフォニーのエンディング史上最もシリアスで、それだけに感動的なものだった。

 10周年を迎え、「お馴染み」の心地よさを大きく成長させながら、新たなチャレンジを重ね、進化を続けている初音ミクシンフォニー。10月4日にはパシフィコ横浜 国立大ホール、12月27日には神戸国際会館 こくさいホールと、クラシック専門ホールとはまた違った趣の華やかな公演が待っている。鳴り止まない拍手が、次の10年に向けた輝かしい飛躍を予感させる一夜だった。


(会場:サントリーホール)

『初音ミクシンフォニー2025 10th Anniversary』

【横浜公演】SOLD OUT
2025年10月4日(土)
パシフィコ横浜 国立大ホール
開場17:00/開演18:00
指揮:栗田博文
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:杉並児童合唱団

【神戸公演】SOLD OUT
2025年12月27日(土)
神戸国際会館 こくさいホール
開場17:00/開演18:00
指揮:佐々木新平
演奏:兵庫芸術文化センター管弦楽団
合唱:三田少年少女合唱団

10th Anniversary Special Guest
ヒトリエ

初音ミクシンフォニー2025
札幌、東京公演を収録した開催10周年アニバーサリーCD
2025.10.1(Wed)Release‼︎
『Miku Symphony Live at Sapporo & Tokyo - 10th Anniversary Best -』

10周年アニバーサリーCDオフィシャルサイト:
https://sp.wmg.jp/mikusymphony/10th/anniversary_best/

■初音ミクシンフォニー2025札幌公演(札幌コンサートホールKitara)・東京公演(サントリーホール)2公演分の全演奏曲収録‼︎
■LPサイズパッケージ仕様の超豪華初回生産限定盤‼︎

【初音ミクシンフォニー2025】SNOW MIKUテーマソングメドレー【Live at 札幌コンサートホール Kitara】

『初音ミクシンフォニー10周年記念スペシャルブック』(仮)

2025年12月1日(月)発売予定
発行:株式会社blueprint
仕様:A4、ソフトカバー、4色、128ページ
予価:6000円+税
※発売日、仕様、価格等は変更になる可能性がございます。

「マジカルミライ 2025」 

初音ミクシンフォニーブース出展!
https://magicalmirai.com/2025/

Rella描き下ろしイラストを使用した2025年横浜、神戸公演グッズランダム缶バッジを先行販売!

さらに、HMVブースにて特典付きCD予約受付中! 2025.10.1(Wed)Release‼︎『Miku Symphony Live at Sapporo & Tokyo - 10th Anniversary Best -』 
当日ご予約いただいた方には、ミニキャラクター缶バッジ2個セットをプレゼント!

札幌公演グッズEC販売中
https://axelstore.jp/mikusymphony/item_list.php?artist_id=143&head_id=3203 

【初音ミクシンフォニー】オフィシャルサイト
https://sp.wmg.jp/mikusymphony/

【初音ミクシンフォニー】オフィシャルX
https://x.com/mikusymphony

【初音ミクシンフォニー】オフィシャルグッズ
https://axelstore.jp/mikusymphony

© Crypton Future Media, INC. www.piapro.net

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる