藤井 風、Ooochie Koochie、DREAMS COME TRUE、Watson……“方言ソング”だからこそ伝わる気持ちの機微

 藤井 風の「何なんw」は、平成末期から令和に現れた新世代アーティストによる方言ソングのなかでも象徴的な楽曲だろう。岡山出身の藤井は、2019年のデビュー曲であるこの「何なんw」で、自身のルーツである岡山弁を取り入れ、日本の音楽シーンに鮮烈な印象を残した。曲タイトルの「w」はインターネットスラングで笑いを意味し、全体として「何なんw」は「一体何なんだ(笑)」というニュアンスになる。R&Bテイストの洒落たサウンドに乗せて〈あの時の涙は何じゃったん〉など地元の言葉で綴ることで、都会的なサウンドに土着的な温もりとユーモアが同居した斬新さが光っている。現代的なポップスと方言の融合が新鮮で、リスナーから「耳に残る」「クセになる」と評判を呼び、藤井はこの曲をきっかけに一躍注目を集め、スターダムを駆け上がった。標準語には出せない語感やリズムを生む岡山弁のフレーズが、彼の音楽に個性と親しみやすさを与えているのだ。

藤井 風 - "何なんw" Official Video

 最後に紹介したいのが、徳島出身のラッパー・Watsonによるその名も「阿波弁」だ。Watsonといえば「RANDO」という楽曲での〈徳島名物俺米津ポカリ〉というパンチラインでも有名で、まさに徳島をレペゼンするラッパーである。タイトルからして徳島の方言を前面に押し出した「阿波弁」は、2024年に発表されるや日本語ラップ好きのあいだで話題となった。Watsonは等身大のユーモア溢れるリリックと独特のフロウで人気急上昇中の若手ラッパーであり、「阿波弁」でも自身の故郷である徳島の言葉や文化を存分に織り込んでいる。全編に散りばめられた阿波弁の響きは、ヒップホップという音楽のなかで強烈なオリジナリティを放っている。ローカルな言葉だからこそ生まれるグルーヴとリアリティが、この曲を単なるご当地ソングの枠に収まらない特別な一曲にしているようだ。

Watson - 阿波弁 (Official Video)

 Ooochie KoochieからDREAMS COME TRUE、藤井 風、Watsonに至るまで、さまざまなアーティストが方言を巧みに使った楽曲を紹介してきた。どの方言ソングにも共通しているのは、言葉が持つ土地ならではの温度感や説得力が、音楽のなかで最大限に活かされている点だ。地場に根差した言葉で歌うことで、喜びや切なさ、熱意といった感情がダイレクトに伝わり、だからこそ聴き手の心に深く届く。標準語では得られない響きやニュアンスがそこにはあり、それが方言ソングならではの面白さであり、魅力である。日本各地の言葉が持つパワーを再認識させてくれるこれらの楽曲を通じて、音楽と言葉の密接な関係性、そして方言が持つ可能性の大きさをあらためて感じずにはいられない。

Ooochie Koochie、COMPLEX、INABA / SALAS、岡村和義……挑戦を続けるベテラン同士の“ユニット”活動

奥田民生と吉川晃司が、新ユニット・Ooochie Koochieを結成した。本稿では、COMPLEX、INABA / SALAS…

藤井 風、Mrs. GREEN APPLE、緑黄色社会、Ado……それぞれの“角度”から届ける珠玉の夏ソング

藤井 風、Mrs. GREEN APPLE、緑黄色社会、Adoらが、それぞれの“角度”から届ける珠玉の夏ソングを紹介する。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる