羊文学、楽曲制作におけるタイアップと自己表現への考え方 「more than words」以降のスタンスを聞く

羊文学、タイアップ曲へのスタンス

今回はどっちの曲も自然体が出ている(河西)

羊文学 撮り下ろし写真

ーー今回の『サイレント・ウィッチ』は魔法が出てくるファンタジー作品です。そもそもお二人はそういった作品に馴染みはありますか?

河西:私は『カードキャプターさくら』がめっちゃ好きでした。

塩塚:私は『ハリポタ』(『ハリーポッター』)ですね。世代なこともありますが、魔法のやり方が載っている本とかも持っていました。

ーー実際、原作に触れてみていかがでしたか?

塩塚:お話が面白いのはもちろんですが、特にモニカ(主人公)ちゃんが私に似ているなと思いました。人とのコミュニケーションが苦手なところとか。私はもともと“友達”という存在がよくわからないタイプだったんですけど、最近になってわかり始めてきたんです。友達とコミュニケーションをとることで勇気をもらったり、自分の表情が柔らかくなっていく経験を今しているんですけど、(人見知りな)モニカちゃんも物語が進むにつれて同じように成長していくところが自分と近いなって。

河西:登場人物がそれぞれ悩みを抱えているところに魅力を感じました。誰しも置かれている立場や環境に悩みを抱えている、そういう細かい部分まで楽しめる作品だと思います。あと、伏線がたくさん散りばめられていて、読めば読むほどどんどん物語に引き込まれていくような面白さもありましたね。

羊文学 撮り下ろし写真

羊文学 撮り下ろし写真

ーー今回はオープニングテーマ「Feel」とエンディングテーマ「mild days」の2曲を書き下ろしています。それぞれどのように制作していったのでしょうか?

塩塚:オープニング曲っぽい華やかな曲を書きたいなと思って、まずは「Feel」から作り始めました。モニカちゃんはすごい力を持っているのに、いつも「自分なんて」みたいに言っているんです。その力のおかげでたくさんの人が救われているのに、自分で勝手に一線を引いて、その先には踏み出そうとしない。それって自己否定の気持ちもあるし、踏み出すのが怖いという気持ちもあるんじゃないかなと。私もそういうことを考えるタイプではあるので。作品に触れる中で、そういった自己否定から解き放たれるようなところが一番惹かれたポイントだったので、そこをテーマに考えていきました。

羊文学 – Feel (Official Music Video)

ーーモニカと重なる塩塚さんの実体験がベースになっていると。

塩塚:はい。生きる上でこうしなきゃいけない、自分はこうじゃなければいけないと決めつけることが多くて、そんな考えにがんじがらめになっていた時がありました。でも一度きりの人生でそういう考え方をしてしまうと、いろんな経験ができなくなるじゃないですか。部屋にこもっていたら、空の綺麗ささえもわからなくなってしまう。私はそうやって縮こまっている時に、周りから「もっと遊んだらいいじゃん」「もっと人生楽しんだら?」みたいな一言を言われて、ハッとすることがたくさんあったんです。もっと自由にいろんな気持ちを感じて、心も体もたくさん使って生きてもいい。そういう自分の中の考えをそのまま曲にしています。

ーーそこにはモニカへの共感だけでなく、自分自身に言い聞かせるみたいな感覚があったのかもしれないですね。

塩塚:そうかもしれないです。あと、金﨑総監督がこのアニメを自分の子どもに観せたいと最初に言っていたんです。羊文学の曲って変わったものも多いんですけど、総監督のお子さんにも届いてほしいなっていう気持ちがあったのかも。お子さんは中学生くらいらしいんですけど、私は勝手に小学生くらいだと思っていたので、同じくらいの年齢の頃の自分にも聴いてほしいと思いながら作っていたように思います。その割にはちょっと複雑かもしれないですが(笑)。

ーー金﨑総監督のお子さんの存在も大きかったんですね。

塩塚:私自身は誰かのためを思って作品を作ったことがなくて、いつも自分のため、自分の表現を第一に音楽を作ってきたんです。自分の子どもに見せる作品を作りたいって気合を入れているところがすごく素敵だなと思ったし、そこに私たちも参加したいという気持ちが強かったです。

ーー河西さんはこの楽曲にどんな印象を?

河西:この曲を初めて聴いた時は風を感じるなって思いました。歌詞を読んだ時に、自分の中にあるダメな部分とか、周りから受ける重圧とか、そういうものを風が吹き飛ばしてくれるような、扉を開けた時の開放感みたいなイメージが浮かびましたね。

ーーなるほど。サウンド的には羊文学らしい一曲だなと思いました。そういう羊文学のカラーみたいなものは、自身ではどう感じているんですか?

塩塚:今回は私たちのカラーを出そうとしたわけではないのですが、自分の手癖的な部分は出ているかもしれないですね。普段はできるだけ音数を少なく、シンプルにやっていきたいと考えながら作っているんですけど、きっと別のアレンジャーがいたら、もっと音を重ねたり、複雑になっていくのかなって。

ーー河西さんはいかがですか?

河西:今までのタイアップは自分たちらしさをどうすれば出せるのか、ということを考えていたんですけど、今回はどっちの曲も自然体が出ていると思います。羊文学はこう、みたいな感じではなく、単純にこの音が好きだから使おうみたいな感じでレコーディングもしていきました。

羊文学 – mild days (Official Music Video)

ーーエンディングテーマの「mild days」はどうでしたか? 先ほど塩塚さんが話していた友達関係にもつながるような曲だと思いましたが。

塩塚:一つの作品に対して2曲提供するのが初めてだったので、オープニングの後にエンディングを考える作業がすごく難しかったです。曲をどうしようと悩みながら生活していた頃、たまたま海外に行く友達の壮行会があって。その帰り道、広い道路をみんなで笑いながら歩いていた光景がすごく綺麗だったんですよ。楽しかったなー、なんて考えながら家に帰っている時に、この気持ちや風景を曲にしたいなと思ったところから、「mild days」は生まれてきました。

ーー友達との日常の風景がモチーフなんですね。

塩塚:私が友達って何?って思うタイプという話をしましたが、その時にご飯を食べたメンバーは自分の暗いところも見せられる人たちだったんです。私と同じような辛い気持ちも持っている人たちで、コミュニケーションもちゃんと取ることができるし、それが心地いいってことに改めて気づくことができて。それは『サイレント・ウィッチ』にも通じることだよなって思いました。

ーー河西さんも塩塚さんと同じようなことを感じますか?

河西:私も日常生活で同じように思うことはたくさんありますし、そういう体験が自分を一番助けてくれるものだと思います。じんわりと心を温めてくれるというか、ちょっと幸せでふわふわとしたほろ酔いの気分が出るように、少しステップを踏んで歩いているような気持ちでベースもつけていきました。音像的にも角が丸い感じを出していて、軽やかに聴けることを意識していますね。

ーーやはりオープニングとエンディングでは、取り組む上での心持ちも違いますか?

塩塚:勝手なイメージですが、エンディングの方が自由度が高いと思います。オープニングは作品とのシンクロ率を高めて、その作品の主題歌という印象を強くつける必要があるのかなって。エンディングは、作品半分、アーティストの存在感が半分くらいのバランス。今回もオープニングはガチガチに原作を読み込んで作ったけど、エンディングはもうちょっと自分たちらしさも考えようかなみたいな感じでした。

羊文学 撮り下ろし写真

羊文学 撮り下ろし写真

ーーありがとうございます。最後にUSツアーの手応えについて教えてください。向こうで盛り上がった曲、ライブの雰囲気はどうでしたか?

塩塚:まだまだって感じだったよね。「Burning」とか?

河西:意外と「tears」とかも盛り上がってたような。

塩塚:私、ライブ中にあまりお客さんを見れていなくて、意外とみんな静かに聴いてくれるんだなと思いました。後ろの方はわからないですけど、ステージ近くの方はけっこう日本の雰囲気と近いというか。あと、いろんな人種の方がいたし、中には骨折しているのに来てるパワフルな人とかもいて、そこはなんだか新鮮でした。

ーー経験値として、今後につながりそうな部分はありましたか?

塩塚:アメリカという環境がそう思わせたのかもしれないですけど、いろんなしがらみがどうでも良くなった気がします。本当に細々としたことを考えるんですけど、そういうのがなくなったというか。だから今まで以上に自由にパフォーマンスができるようになった感覚があります。ちょっと身軽になれました。

河西:私はそもそも英語ができないとアメリカでは無理だと思っていたんです。どういう人がライブに来るのかもわからなかったし、でもファンミーティングもやって、ファンと触れ合う中でなんか全員同じ人間だなと思ったんです。日本とかアメリカとか関係なく、人間相手にライブをしているから全部同じなんだって。そこで少し成長したというか、視野が広がった感覚はありましたね。

羊文学「もっと面白いものを作れる予感がする」 アジア&全国ツアーや創作の変化で高まった自由度

初のアジアツアーや横浜アリーナ公演を成功させるなど、バンドとして確実に歩みを進めてきた羊文学。フクダヒロア(Dr)の休養など壁に…

FRED AGAIN..、山下達郎、Vulfpeck、マヤ・デライラ、Us……『フジロック '25』要注目の10組をピックアップ!

7月25日、26日、27日に新潟県湯沢町 苗場スキー場で開催される『FUJI ROCK FESTIVAL '25』。最終ラインナ…

チェキプレゼント

羊文学のサイン入りチェキを1名様にプレゼント。応募要項は以下の通り。

<X(旧Twitter)からの応募>
リアルサウンド公式Xをフォロー、本記事の投稿、または応募投稿をリポストしていただいた方の中から抽選でプレゼントいたします。

リアルサウンド公式X

<Instagramからの応募>
リアルサウンド公式Instagramをフォロー、本記事の投稿にいいね&コメントしていただいた方の中から抽選でプレゼントいたします。当選者の方には、リアルサウンドXアカウント、もしくはInstagramアカウントよりDMをお送りさせていただきます。

リアルサウンド公式Instagram

※非公開アカウント、DMを解放していないアカウントからの応募は抽選対象外となりますのでご注意ください。
※当選後、住所の送付が可能な方のみご応募ください。個人情報につきましては、プレゼントの発送以外には使用いたしません。
※当選の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。
※チェキはランダムでの発送となります。指定はできません。
※当該プレゼントは、応募者が第三者へ譲渡しないことが応募・当選の条件となります(転売、オークション・フリマアプリ出品含む)。譲渡が明らかになった場合、当選は取り消され賞品をお返しいただく場合がございます。

<締切:8月6日(水)>

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる