BUCK∞TICK、想像を超えていく“美しい裏切り” 挑戦と貫禄、進化と深化で魅せた『SUBROSA』追加公演

BUCK∞TICK『SUBROSA』追加公演レポ

 メジャーデビューから35年以上、第一線で活動してきたロックバンドのギタリストが、突如ボーカリストとしてハンドマイクを持って歌い、オーディエンスを煽るライブを魅せていく……そんなバンドは世界中を探しても彼らだけだろう。昨年より新たなスタイルを提示したBUCK∞TICKがライブハウスツアー『BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA』、そしてLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)6daysを含む追加公演と、全22公演におよぶ全国ツアーを7月9日に大盛況で終えた。

 これは進化であり深化である。まったく新しいバンドスタイルでありつつも、紛れもなくBUCK∞TICKでしかない。4人のステージは何度観ても刺激的であり、かつ新たな挑戦も見えた内容だった。精力的なツアーを行い、ライブ本数を重ねていくことで研ぎ澄まされ、より鋭利になっていく感性で我々を突き刺してくる。

 今井寿がギターをかき鳴らし歌い始める「百万那由多ノ塵SCUM」。徐々に4人が音を重ねていく。新たな“BUCK∞TICK”の始まりを告げるようなオープニングの情景は、いつのまにか4人によるバンドとしての貫禄に溢れたものになっていた。ステージ後ろには、壁画のような巨大な薔薇が覆っており、幽玄な世界を作っている。

BUCK∞TICKライブ写真
今井寿

「さあ、始めようぜ! スブロサだ!」

 鬼才、奇才、アバンギャルド……そんな言葉が最も似合うギタリスト、今井寿がギターを持たずにボーカルを取っている。ラメの制帽を被り、ハンドマイク片手に所狭しとステージを跋扈する。かたや堅実的なギタリスト、星野英彦はギターを持たずにメタルパーカッションを打ち鳴らす。奇妙で刺激的、観ている側も「これがBUCK∞TICKなんだ、すごいだろ!」と誇りたくなる気持ちにさせてくれる、最高の光景だ。

 今井が「夢遊猫 SLEEP WALK」でギターをぶっきらぼうにストロークしながら歌い、樋口豊がルーズなグルーヴを生み出す。続く「雷神 風神 -レゾナンス #rising」では、黒いGibson ES-355を抱えた今井と、赤いGibson ES-335を抱えた星野の“雷神風神”の如き対称な構えは美しく、ツインボーカルの掛け合いもより自然に堂々としたオーラを放っていく。時にステージ中央にハの字に設置されたシンセサイザーを操るギタリスト2人。ノイジーでエキセントリックなBUCK∞TICKサウンドが暴れ出す。自由奔放にも思える彼らだが、後方で悠然と構えるヤガミ・トールの精確なビートがアンサンブルを引き締めている。

BUCK∞TICKライブ写真
星野英彦

 無機的で硬質なサウンドに溺れていく「From Now On」から、“極楽鳥花”の名の通り、天に登っていく様相を帯びた不可思議なサウンドの「ストレリチア」へ。かと思えば、深淵へとゆっくり引き摺り込むように「Rezisto」を妖しく奏でた。

 多くのファンの度肝を抜いたのはアコースティックギターを大胆に導入したアレンジに変貌した「キラメキの中で・・・」だろう。1993年、海外で隆盛するオルタナティブロックの洗礼を受け、前衛的な方向性へ振り切った問題作『darker than darkness -style 93-』のオープニングを飾った怪曲が、哀愁を帯びた歌謡テイストへ昇華されるとは……。当時のライブでLEDライトが埋め込まれたギターを怪しく光らせながら爆音でノイズを轟かせていた今井。同曲での奇々怪々なライブパフォーマンスを今でも鮮明に覚えている。あれから30年以上が経ち、アコースティックギターを片手に歌っている。こうした我々の想像の斜め上をいく良い意味での裏切りもまた、BUCK∞TICKの大きな魅力なのである。

 素晴らしいサウンドと音響、さらにステージ後方に映し出されたジャズエイジとシュルレアリスムの混じったBGVで贈られるアンビエントな「神経質な階段」は贅沢な癒しタイムだ。さらに星野が「絶望という名の君へ」を甘い歌声で届け、オーディエンスを酔わせる。

 「渋谷ベイビーズ! ここからまたアゲていくよ、嵐の夜だ」——今井がそう口を開いて始まった「冥王星で死ね」、「BUCK∞TICKは芸術ダダダダダ……」との叫びから突入した「DADA DISCO -G J T H B K H T D-」と、BUCK∞TICKらしい一癖あるリズムのナンバーを畳み掛け、オーディエンスの熱を上げていく。そこから「paradeno mori」でアダルトな色香を撒き散らす星野のターン。さらに赤い照明とノイジーなギターから「遊星通信」へと傾れ込み、再び今井のボーカルによってカオティックな世界が創り上げられる。

BUCK∞TICKライブ写真
樋口豊

 今井がカラフルに光るZtarを手に、自由気ままなエレクトロサウンドを奏でるインストゥルメンタル「海月」から、流れるように始まったのは「女神」だ。星野が歌うその曲は、今回「キラメキの中で・・・」とは異なるベクトルでの裏切りだ。アコースティックな響きからノイジーな美しさへと移り変わっていく原曲とは異なり、淡々としたエレクトロな響きの中で星野がもの哀しく歌声を響かせた。

「ほら見えるか、天使がラッパを吹いている……」

 今井がポエムのように呟いて贈られた、本編のラストチューン「ガブリエルのラッパ」。重々しいビートがずっしりと突き進み、今井がギターでノイズを奏でながら訥々と詩を吐き捨てるように歌い切った。

 ヤガミの軽快で躍動感に満ちたドラムソロで始まったアンコール。「いくぜ、渋公ベイビーズ!」と今井の掛け声で始まったのは「FUTURE SONG -未来が通る-」だ。奇天烈な言葉の羅列が炸裂する今井節と無国籍な星野の歌うメロディが絡み合い、掴みどころのない禍々しい近未来感をぶっ放していく。息つく暇なく「中指突き上げろ」と今井が挑発し、「TIKI TIKI BOOM」へ突入。巻き舌ボーカルとトライバルなリズムで会場全体を謎の祝祭へと誘う。

BUCK∞TICKライブ写真
ヤガミ・トール

 星野のシニカルな表情で魅了する「プシュケー - PSYCHE -」、そして「三千年後の約束の地で会おう、必ずだ」と今井の言葉に導かれ「黄昏のハウリング」が最後に贈られた。飄々としているようで力強さを感じる歌声で熱唱し、最後の音まで渾身の力を込めてギターソロを奏でた。今井に対してこうした表現を使う日が来るとは思ってもいなかった。

 「渋公ベイビーズ! 最高の夜ができました! また、会いましょう」と今井。去り際に「……このあと、ユータ(樋口)が渋谷公会堂の思い出話を」と無茶振りをし、最後1人ステージに取り残された樋口が「初めてやった時は、ここで(ザ・)ドリフターズがやってたんだなぁと思って感動しました!」と笑いを誘い、会場を和ませると、オーディエンスへ秋のツアーでまた会う約束をした。

 恒例となっている年末の日本武道館公演がファイナルとなる『BUCK∞TICK TOUR 2025 -ナイショの薔薇の下-』が発表されたばかり。BUCK∞TICKの進化はとどまることを知らない。

◾️新規ツアー情報
全国ホールツアー『BUCK∞TICK TOUR 2025 -ナイショの薔薇の下-』
ツアー特設サイト

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