星野源「人はいつか死ぬ。だから今、みんなで一緒に歌おう!」ーー『MAD HOPE』で体現した“今”を楽しむ理由

星野源、『MAD HOPE』SSA公演レポ

 星野源が、全国ツアー『Gen Hoshino presents MAD HOPE』を沖縄公演まで無事に完走した。

 今年5月より全国7カ所を回ってきたこのツアーは、オンラインライブやファンクラブ会員限定のイベントを除けば、2019年のドームツアー『星野源 DOME TOUR 2019「POP VIRUS」』以来、約6年ぶりとなる大規模な全国ツアーである。ツアー開始直前には、本人曰く「自分の生き写しみたい」だという6枚目のフルアルバム『Gen』のリリースもあり、この年月の間に彼自身に起きたさまざまな出来事や変化が、今回のツアーに落とし込まれていたように思う。そして特筆すべきは、このライブにずっと横たわっていた“とあるテーマ”だ。

『Gen Hoshino presents MAD HOPE』(撮影=田中聖太郎)

 中でも印象的だったのは、このライブで星野が主張していた“すべてには終わりがくる”というメッセージだ。そして彼は、“すべてはどうでもいい”、“すべては終わる”という一見すると希望のない物の見方が、“今を全力で楽しむ”というポジティブなマインドの原動力になるということを身をもって示していた。どんなに置かれてる状況が酷くても、どんなに世の中が地獄であっても、すべてには等しく終わりがくる。だからこそ今を楽しむんだ、それがこの瞬間を楽しむ理由になるんだ、と。

 こう書くと、ただ馬鹿騒ぎすればいいのかと誤解されるかもしれないが、決してそうではない。彼の言う“楽しむ”とは、演奏のグルーヴを“楽しむ”とか、クリエイター同士の化学反応を“楽しむ”だとか、ライブの高揚感を肌で“楽しむ”といった、理性的で実験的かつ文化的な意味においての“楽しむ”であるというのは、星野の近年の作品群や一連の活動を見ても明らかだろう。

『Gen Hoshino presents MAD HOPE』(撮影=藤井拓)

 たとえば、今回のツアーのセットリストの一つの特徴と言える、前半にミドルテンポの楽曲を多く配置していた点は、演奏のグルーヴを“楽しむ”という姿勢が非常によく表れているポイントだ。1曲目「地獄でなぜ悪い」で勢いよくスタートし、人気曲「SUN」を続けて会場は序盤から大きな盛り上がりを見せたが、そこから「喜劇」「Ain't Nobody Know」「Pop Virus」「Eden (feat. Cordae, DJ Jazzy Jeff)」「不思議」といった、どこかレイドバックしたリズムの中で演奏陣の密な連携が光るような楽曲が続けざまに繰り出された。サポートメンバーはベースの三浦淳悟をはじめ、キーボードに櫻田泰啓、ドラムに石若駿、サックス/フルートに武嶋聡、ギターに長岡亮介といった星野の音楽現場においてライブではお馴染みの敏腕プレイヤーたち。そこに今回はストリングスとホーンセクションも加わり、重厚かつ華やかなサウンドが展開されていた。彼らの奏でる有機的なアンサンブルに、現在の星野源の“楽しむ”の一側面を再確認できたような気がする。

『Gen Hoshino presents MAD HOPE』(撮影=藤井拓)

 クリエイター同士の化学反応を“楽しむ”という面は、とりわけ後半に顕著だった。海外の新進気鋭のミュージシャンたちが参加した「Mad Hope (feat. Louis Cole, Sam Gendel, Sam Wilkes)」では、武嶋による華麗なサックスソロがステージを支配すれば、今度は長岡と星野のギタープレイの応酬へ。そこにLouis Coleの歌声が神々しく響き渡り、自然と歓声が巻き起こる。韓国の女性ラッパーが参加した「2 (feat. Lee Youngji)」では、英語と韓国語と日本語が同居するボーダーレスなステージを展開。日本語ネイティブには出せない独特の柔らかいニュアンスが心地よく、これこそコラボレーションの賜物だと舌を巻いた。また、前半の「Pop Virus」でラップ歌唱にMC. wakaことオードリー若林正恭が映像で参加していたのもある意味で“化学反応のひとつ”であると言えるだろう。こうした人と人とが個性をぶつけ合った時に生まれる今までにない斬新なアウトプットを、今の星野は見せてくれている。

『Gen Hoshino presents MAD HOPE』(撮影=藤井拓)

 ライブの高揚感を肌で“楽しむ”というのは言ってしまえばそれがすべてなのだが、あえて限定するならラストスパートの畳み掛けに集約されていたと感じる。あらかじめ「一番難しい曲をやります」と言ってから演奏を始めた「創造」での会場全体の意識がステージの一挙手一投足に集中する独特の緊張感であったり、そこから銀テープが発射されて一気に解き放たれる「Week End」での祝祭感は、まさにライブの現場でしか味わえないもの。ニセ明に扮して歌唱した「異世界混合大舞踏会」「Fake」「REAL」のコント的な面白さと不思議な感動は、多くの人々が集まる会場の一体感があってこそのものだ。

『Gen Hoshino presents MAD HOPE』(撮影=藤井拓)

『Gen Hoshino presents MAD HOPE』(撮影=藤井拓)

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