なきごとの音楽は“直感”を“確信”に変えていく 混ざり合いの中で生まれた新たな代表作『マジックアワー』

「人生の中で今が一番いいと思いながら生きていたい」
ーーあと「0.2」は一目惚れを切り口にした曲ですけど、どんなきっかけでできたのか気になります。
水上:0.2秒って、人が恋に落ちるまでの所要時間だってことを調べて知りまして。その0.2秒で好きかどうかが決まるのであれば、その気持ちをちゃんと確信に変えていく時間の方が愛おしくない? っていう、“一目惚れアンチテーゼ”みたいな曲です。例えば「この人のここが好きかも」って瞬間的に思ったとしても、そこからお互いをよく知っていく過程で、「こういう部分も一緒だったんだ」とか「こっちにもすごく共感できるな」というのが積み重なっていったら、より強固な関係性になるじゃないですか。
ーー0.2秒で決まったことを覆したい意図ではないわけですよね。
水上:そうですね。もし好きなのであれば、本当にそうなのかをしっかり見極めていこうよって。どこ目線の曲なんだって感じですけど(笑)。あと、楽曲としても“一聴惚れ”してもらいたくて。まずは冒頭を聴いて「めっちゃ好きかも?」と思ってもらって、最後まで聴き終わると、なきごとをもっと深く味わえるような曲になっていると思います。“一聴惚れ”できたなら、100回聴いてもちゃんと“百聴惚れ”できるんじゃないかなって。

ーー面白いですね。「0.2」を聴いて、自分は「深夜2時とハイボール」を思い出したんですけど……。
水上:へぇ!
ーー〈生きてることをどうにか正当化したくて〉という歌詞があったじゃないですか。死にたいと思っていたけど、直感的に沸き出てきた“生きたい”という気持ちをどうにか正当化したくてもがいていたのが「深夜2時とハイボール」だとしたら、一方の「0.2」はモチーフは全然違いますけど、一目惚れという直感を、どうやって自分の中で正当化しようかっていうプロセスの曲だと思うんですよ。そういう意味では、初期の楽曲と根底で繋がっているような気がしたんですけど、どうですか?
水上:確かに……! すごく面白いし、その通りだなって思いました。私の生き方ってわりとそういう感じで。直感を大切にしますし、その上で「本当はどうだったかな」って見極めたいタイプというか。“一目惚れ”って言うと恋愛のことだと思われるかもしれないけど、クリエイティブとか何事においても変わらないなと思います。なので、めっちゃ私が表れてますね(笑)。
ーーそういうクリエイティブの在り方になったのは、なぜなんでしょう?
水上:いろいろ話した結果、やっぱり最初に直感で言ったやつが一番良かったよねっていうことが経験上多くて。「こういう表現は良くないね」とか「今は違くない?」っていろいろ目を向けすぎた結果、どんどん平らなものができ上がってしまって、自分の表現が何なのかわからなくなっちゃう気がする。だから振り返ってみると、誰にも気を遣っていない初期の歌詞の方がやっぱり好きなんですよね。そういう初期衝動には何よりも“個”が出ていて、それこそ人間臭さみたいなものだと思うから、私は直感がすごく好きだなと思います。
ーーそういう直感とか、パッと閃いたときの鮮度を保つために意識していることってあるんでしょうか。
水上:それ聞かれて「わかる〜」と思ったんですけど(笑)、曲を書いた時期、それをレコーディングする時期、ライブで演奏する時期って、本当に全部違うんですよ。「明け方の海夜風」なんて3年前からずっと寝かせていて、「0.2」ですら書いてから半年ぐらいタイムラグがあると思うと、やっぱりその頃の気持ちを“思い出す”作業に近づいてくるんです。けど、私は直感を信じているからこそ、時が経った今聴き直しても、そういう初期衝動を感じる楽曲かどうかってことはすごく大切にしていて。「3年前の気持ちって半分くらいは風化してしまったかもしれないけど、残り半分に対しては、今なら100%以上の感情を乗せられる」みたいなこともありますし。その頃の情景や匂いを頭の中に置きつつ、そのシーンの中に今の自分が入っていくっていうイメージが近いかもしれないですね。そうやって“百聴惚れ”に近づけることで、いつ歌っても「これは私の意思なんだ」って思えますし、だから今の気持ちで歌えるんじゃないかなって思います。
ーーなるほど。
水上:ライブのときにそんなことを考えているの? ってよく言われるんですけど、やっぱり曲を作った当時のことを思い出しながら歌うんですよ。最近のツアーでも「メトロポリタン」とか「癖」とか、作った当時の、自分でも「幼なかったな」って思う頃を思い出しながら、その頃っぽさを意識して歌ったりするんです。だけど、時ってどうしても流れてしまうものだから、その中に入っていくのは“結末を知ってしまっている自分”なんですよね。どうやっても作った当時の自分にはなれないからこそ、その時だけの歌があって、それが楽曲としてパッケージされるってめちゃくちゃロマンだなって思います。

ーー作風や個性は地続きなのに、作ってる渦中で歌うのと振り返って歌うのとでは、心持ちはきっと違いますよね。
水上:……こないだ『閃光ライオット』(『マイナビ 閃光ライオット2025 produced by SCHOOL OF LOCK!』3次ライブ審査のゲストアクト)に出たときに、自分で言って気づいたんですけど、大人になりたくないなと思ったんですよね。最後の最後で「私だって大人になんかなりたくねーよ!」と言ってライブを終えたんですけど(笑)。
ーー(笑)。
水上:“大人になる”って一概に悪いとは思わないし、むしろそうなることが必要なときもあるんですけど、風化していくこととか、もう青春じゃないという意味合いで言われがちじゃないですか。昨年「グッナイダーリン・イマジナリーベイブ」でも書いたんですけど、大人になった自分と、心の奥に眠っている赤ちゃんみたいな自分が共存していて、後者の“まだ子供のままでいたい自分”がライブの瞬間に出たんだなって。だから私はずっと、その“渦中”にいたい気持ちがあって、一生青春していたいんだなって思います。…………いや、青春っていう言い方は若いかもしれないけど、“ずっとピークでいたい”というか、人生の中で今が一番いいと思いながら生きていたいですね。
ーーよくわかりました。でも、そういう子供でいたい気持ちがある一方で、ふとしたときに「大人になったな」と気づく瞬間もよくあるじゃないですか。そうなったときに子供でいたい気持ちを救ってくれるのが、初期に書かれたご自身の曲だったりするんじゃないかなって想像したりもしました。
水上:ああ、それもあるかなと思いますね。ライブで昔の曲を歌うたびに、そうやって気持ちが更新されていく面はある気がします。
2つの側面の混ざり合いこそが“なきごとらしさ”
ーーずっとピークでいるためには、緩やかな変化を重ねるのはむしろ良いことなんじゃないかと思いますが、サウンド/歌詞ともに新鮮な変化を取り入れたEPが完成した今、お二人にとってのなきごとらしさって、どう定義されますか。
岡田:私にとってのなきごとらしさは、聴く人によって曲の捉え方が変わったり、繰り返し聴く場合でも、時間帯とか心境によって新しい面が見えたりするところなのかなと思います。サウンド面では練りに練られたアレンジがあるので、違う楽器に注目しながら1曲を何回も聴けたり、右で鳴るのか左で鳴るのかとか、そういうところを1つずつこだわっているのも、なきごとらしさなのかなと思います。

水上:EPタイトルになっているマジックアワーって、昼と夜、夜と朝が混ざり合うような時間だと思うんですけど、なきごとってマジックアワーみたいだなと思うんですよね。私がポップでどこか毒っ気のあるサウンドを、岡田がロックなサウンドを持っているので、その2つが共存しているのがなきごとの大きな主軸で。その中をさらに見ていくと、歌詞の中に2つの感情が入っていたり、楽曲自体にも2つの側面があったり。それらが互いに手を繋いだり、繋がなかったりもするんだけど、根っこになきごとがあるから共存できているっていうことが定義なのかなと思いますし、このEPを作ってよりそう思いました。
ーー水上さんって人と人の混ざり合いも歌い続けていますよね。最初に「誰かがいるからこそ思う気持ち」とも言っていましたけど、そこに興味を持ち続けているのはなぜだと思いますか。
水上:映画やドラマを観ていてもそうなんですけど、誰かが誰かを思いやる気持ちとか、純粋にそういうものに弱いんですよ。親が子供のためを思って作ったお弁当とか。そこに愛情を感じるし、裏側に果てしないストーリーが見えてくるんです。

ーーどうしてそこに弱いんでしょうね?
水上:なぜなんでしょうね(笑)。学生時代とか、自分でそういう思いやりに気づいてこなかったからかもしれないです。でも、それを知ったときにハッとするんですよ。私って同じ話を結構よくしちゃうんですけど(笑)、聞いてる友達から「その話、何回目だよ」じゃなくて、「その話好きだからまた聞けて嬉しかった」って言われたときに、「あぁ、これって思いやりだな」と思って。そういう言い回しがあるんだって気づかされたし、私を傷つけないために考えて、その人ならではの言葉で言ってくれたんだって……。そういうものに私は感動しやすいし、人間の優しい心がすごく好きなんです。それをいいと思っているから、自信を持って曲にして人に提示できるんだと思います。
岡田:赤鬼と青鬼(『泣いた赤鬼』)みたいな世界線だね(笑)。
水上:(笑)。そういう想いに気づける人生でありたいし、人にあげられるようになりたいですね。実はそれって最初に出したシングル『nakigao』(2019年)に入っている「Oyasumi Tokyo」でも歌っているので……やっぱり私は変わってないみたいです。
※1:https://realsound.jp/2024/07/post-1735256.html

◾️リリース情報
なきごと メジャー1st EP『マジックアワー』
7月9日(水)発売
配信:https://erj.lnk.to/1hFMBl
【初回生産限定盤】(CD+DVD):¥4,840(税込)
購入:https://erj.lnk.to/uuDjUZ
【通常盤】(CD):¥2,420(税抜価格¥2,200)
購入:https://erj.lnk.to/R2JEPY
<収録曲>
[CD]
01. 短夜
02. 0.2
03. 愛才
04. たぶん、愛
05. 明け方の海夜風
[DVD]
『超超超超大切なお知らせワンマン×水上生誕祭! 2025.04.08 @Shibuya WWW X』
01. sniper
02. 連れ去って、サラブレッド
03. グッナイダーリン・イマジナリーベイブ
04. 私は私なりの言葉でしか愛してると伝えることができない
05. D.I.D.
06. マリッジブルー
07. ユーモラル討論会
08. Summer麺
09. 忘却炉
10. 合鍵
11. さよならシャンプー
12. 退屈日和
13. 不幸維持法改定案
14. 愛才
15. メトロポリタン
16. 憧れとレモンサワー
en 1. たぶん、愛
en 2. 終電
◾️ライブ情報
『初心にかえるman to manワンマンツアー日程・会場』
7月11日(金)[宮城] 仙台enn 3rd
7月13日(日)[北海道] 札幌KLUB COUNTER ACTION
7月31日(木)[愛知] 名古屋HeartLand
8月2日(土)[広島] Cave-Be
8月3日(日)[福岡] Queblick
8月11日(月・祝)[香川] 高松TOONICE
<チケット情報(各公演)>
・チケット受付URL:https://nakigoto.com/feature/0b01be00954b1c476f782103a0f6fa7e
・座席:オールスタンディング
・金額:4,000円(税込)
『これからもよろしくお願いしman to manツアー2025』
8月31日(日)[愛知] 名古屋QUATTRO
9月6日(土)[大阪] 梅田QUATTRO
10月12日(日)[東京] 恵比寿LIQUIDROOM
<チケット情報(各公演)>
・チケット受付URL:https://nakigoto.com/feature/9c1efa7e3d7920b4d330923c8b7c8ab3
・座席:オールスタンディング
・金額:4000円(税込)




















