なきごと、「愛才」で見せる新しい姿 ドラマ『それ妻』とリンクする“君”に届けたいという強い願い

なきごと、『それ妻』とリンクする強い願い

 テレビ大阪・BSテレ東のドラマ『それでも俺は、妻としたい』がおもしろい。売れない脚本家のダメ夫・柳田豪太(風間俊介)が「鬼嫁」柳田チカ(MEGUMI)による夫婦の「セックス攻防戦」を通して家族とは、仕事とは、そして愛とは……といったテーマを描く、足立紳の原作をもとにしたドラマだ。関係ないが、個人的にもいろいろな意味で身につまされるところがたくさんあって、毎回泣いたり笑ったりしながら楽しんでいる。

真夜中ドラマ「それでも俺は、妻としたい」1月11日(土)深夜24:55~スタート!
「それでも俺は、妻としたい」第5話 2/8(土)深夜24:55~

 そのドラマにオープニング主題歌「愛才」を書き下ろしたのが、なきごとだ。水上えみり(Vo/Gt)と岡田安未(Gt/Cho)の2人から成るなきごとは、2018年の結成以来、ライブとリリースを重ねながら一歩ずつスケールアップを果たしてきた。2024年7月には2ndフルアルバム『ふたりでいたい。』をリリース、そのリリースツアーのファイナルでは渋谷・Spotify O-EASTでのワンマンライブをソールドアウトさせている。

 なきごとの音楽を形作っているのは、曲を書く水上の視点と感性だ。孤独や愛情、自分に対するやるせなさや人とのわかり合えなさ、生きていく中で生まれてくるささやかな感情の揺れ動きを、彼女の言葉とメロディは繊細にキャッチして歌にしていく。『ふたりでいたい。』に収められた「生活」という楽曲で、彼女は〈いきてくいきてく/たったそれだけのこと/いきをすう いきをはく/たったそれがくるしい〉とあまりにも率直な言葉を綴っているが(この曲は水上が学生時代に引きこもっていた頃の心情を込めたものだそうだ/※1)、その“生きづらさ”のようなものがなきごとの音楽の底にはずっと流れている。だからこそ聴いていると時折胸を締めつけられるような切なさに襲われるのだ。

なきごと / 『生活』【Live Music Video】

 その切なさに寄り添うようにエモーショナルなフレーズを弾くのが相方である岡田のギターだ。ときに歌と会話するように、ときにメロディを後押しするように鳴り響くその音は、まるで水上の心のドアをノックし、外に向かって開け放つ合図のように聞こえてくる。ライブではサポートメンバーとともにパワフルなプレイを見せる彼女の存在こそがなきごとの肝で、水上の書く楽曲と、それをいちばん理解し、いちばん近くで見続けている岡田のギターという両輪が2人組ならではの距離感で回り続けてきたからこそ、なきごとはここまで進んでこれたのだと思う。

なきごと / 『メトロポリタン』【Music Video】
なきごと / 『癖』【Music Video】

 心の奥底にある思いも含め、こうして音楽にならなければ決して誰にも届かなかったであろう“本音”を表現していくという意味で、なきごとの楽曲は水上えみりという人の人生と分かち難く結びついている。その“本質”は2018年に始動してから今まで変わらないが、ここ1〜2年、具体的にいえば2023年に1stフルアルバム『NAKIGOTO,』をリリースして以降、なきごとの音楽は大きく変化してきた。楽曲ごとに多彩なミュージシャンと音を鳴らし、外部のアレンジャーとタッグを組み、それによってサウンドがどんどん開けたものになっていくのと同時に、『ふたりでいたい。』という最新作のアルバムタイトルが象徴するように、かつてはひとりの世界に閉じこもるようだった水上の楽曲には自分ではない誰かの存在が見え隠れするようになった。ライブで水上が話す言葉も、オーディエンスを煽るようなパフォーマンスも、彼女自身が新たなモードで音楽を鳴らし、バンドに向き合っていることを雄弁に物語っていた。

なきごと / 『安酒にロマンス』【Music Video】

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