THE YELLOW MONKEY「CAT CITY」MV撮影に潜入! 衝撃の傑作はどのようにして生まれたのか――計14時間完全密着

THE YELLOW MONKEY 密着

 ゴールドのベースを手に、HEESEYがカメラの前にやってくる。ANNIEが「HEESEYはもともと猫っぽいから、ただ猫耳をつけただけ(笑)」と言っていたが、4人のなかでも特に猫然としている。スタッフからも「かわいい!」という声が飛ぶ。照明のタイミングを確認したり、「ニャア」のタイミングを確認したり、丁寧に組み立て、いちばんいい画になるように準備を重ねているHEESEY。耳の角度まで入念にチェックしていた。撮影を終えたHEESEYに話を聞くべく、「猫がテーマのMVですが……」と切り出すと、すぐさま「ニャ!」と返事をしてくれた。「メンバーでいちばんこのへん(顔)に違和感がない気がする(笑)」と、まさにANNIEの言葉には自覚があるよう。この日の撮影を楽しみにしていたのだと話し始める。結成から35年以上の時を経てもなお、わくわくできることがバンドにはあるのだ。

HEESEY「THE YELLOW MONKEYはデビュー前からギンギラギンな格好をしてたから。そういう要素が今回は衣装にも入っているから、原点回帰というかね。(最近は)ここまでのことはやってきてなかったから、『やるなら振り切ったほうがいいんじゃないか』って、みんなも思ってると思いますよ。それに、それぞれがちゃんと猫になってるんですよね。漠然と猫になってるんじゃなくて、カラーが出ているというか。歌詞にも出てきますけど、猫って言ってもいろんな猫がいますからね。それがうまく表現できてるのかなって。EMMAの曲がついにシングルとしてリリースされるというのも含めて、今回はすべてが一本に通じているんです。EMMAは最近すごくアニメを観ているし、彼も猫好きだし、そこにきて猫がテーマになったアニメのタイアップ。吉井は猫を飼ったことはないと言いつつも、やっぱり言葉の魔術師だなあと思いました。猫好きが納得する、あるあるな表現もありながら、吉井和哉的なフレーズもちゃんとあったりして、僕的にも新鮮だった。『猫ってどんな感じなのかなあ?』って、いろいろ質問もされたし(笑)。吉井和哉なりの、THE YELLOW MONKEYなりの世界観をアニメのストーリーにリンクさせながら、うまく仕上がったと感じています」

 メンバーたちが口にし、ここまですでに何度も文字にしているが、「CAT CITY」のMVのテーマのひとつとして、グラムロックの魂が貫かれている。ビジュアルは、「(スタイリングを考えるにあたっては)ただの猫ではなく、“ロックスター猫になったTHE YELLOW MONKEY”というイメージが強かったので、光沢ある煌びやかなステージ衣装、ファーやフリルなどグラムロックのフレーバーが思い描くスター像ととてもマッチしました」と監督は語る。THE YELLOW MONKEYのまま、猫にミューテーションしているというわけだ。メンバーそれぞれにモチーフとなる猫の種類やカラーリングがあり、たとえばANNIEは三毛猫、吉井は『不思議の国のアリス』のチェシャ猫がモチーフになっているという。

 14:57。吉井も変異が完了し、これで全員が猫になった。その状態でまず撮るのは、CMでも印象的だった、メンバー全員が振り返って「ニャア」の顔をしているシーンである。EMMAとHEESEYはそれぞれギターとベースを、ANNIEはドラムスティックを、吉井は長く伸びた爪を携えている。監督にタイミングをしっかりレクチャーされる4人。テイクを重ねていくなかで、4人横並びになっていることがむず痒く感じたのだろうか。ANNIEが「照れくさい!」と叫んだ。たしかに当の本人たちはそうかもしれない。しかし、誰か想像できたものだろうか、とふと考える。THE YELLOW MONKEYが再集結し、猫の姿になって、仲良く横並びになって笑っているだなんて――。吉井が朝イチ宣言していた「最後までダレずに」という言葉を思い出す。この日4人は終始朗らかな表情をしていた。何度テイクを重ねても、である。まとう空気が柔らかい。

 猫用の小さな扉から吉井が顔を覗かせるシーンは、監督曰く『トムとジェリー』でトムがネズミ穴を覗くシーンから発想を得たそう。猫キャラの金字塔として“神”的な存在であるトムへのリスペクトなのである。猫好きのEMMAも、猫扉から顔を覗かせる吉井の姿を見て「猫に仕上がってきた」と呟く。再び4人のシーンへと移り、吉井とダンサーの3ショットへと続く。時刻は17:00を回ったところだった。

 セットチェンジの合間に、吉井に話を聞かせてもらうことに。撮影部屋の外へと移動すると、EMMA、HEESEY、ANNIEが同じ机を囲んで、それぞれが休憩をしていた。何も言わずとも集まってしまうらしい。猫耳をつけて円卓を囲んでいる姿はなんとも不思議で、新鮮である。隣で「猫耳は初めて。でも、やれてよかったです」「猫の気持ちがちょっとわかりました(笑)」と吉井。そして、「なんせEMMAがうれしそうで(笑)」と続ける。その言葉を聞いたEMMAは微笑んでいる。

吉井「猫というワードは初期の頃から頻繁に(歌詞に)出てきていて、ロックとの相性もいいんですよね。でも、こんなに猫が主人公の曲は今までなかったので。アルバム『Sparkle X』で言いたかったメッセージ――目に見えない神さま、魂、願いとか祈りとか、猫がそれを象徴する動物のような気がしているんですよ。『神さまにいちばん近い動物だ』というふうに言っていて、EMMAとHEESEYが。で、たまたまですけど僕らは猿で、今回のテーマが猫で、カタカナの“ネ”と猿は“申”とも書くじゃないですか。それで“神”(=ネ申)になったという(笑)。実は相性がスーパーいい。猫と我々が合わさることで神さまになれるのではないか、と。少しでも神さまに近づけたらいいなって」

 吉井がたどり着いた、THE YELLOW MONKEYがこの先表現していきたいこと。そのひとつが、人間の根源的なテーマを歌うということだった。稲穂の精霊、富のシンボル、神に愛された存在……世界中で古くから猫という動物が愛でられてきたという記録や言い伝えがある。猫という存在も、ある意味では人間の根源と結びついている。猫というテーマこそが日本でいちばんロックな猿たちの魂を全開放させたのかもしれない。最初から最後までノンストップで突き抜けていく吉井の歌詞、EMMAのどストレートなロックチューン、HEESEYのベースとANNIEのドラムは圧倒的なダイナミズムでリズムを刻む。今のTHE YELLOW MONKEYが本編であり、最強で、だからこそ日本のロックバンドの最前線に君臨し続ける。その証明が、『Sparkle X』と、もうひとつの物語「CAT CITY」という作品なのだとあらためて思う。

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