a flood of circle「行けるところまで行くって決めてる」 “約束の年”へ向けて鳴らす、剥き出しのロック

a flood of circle、約束の年に向けて

 a flood of circleが昨年11月にリリースした『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』は、収録曲のいくつかを山小屋でレコーディングして完成したアルバムである。バンドとしては新たな試みだったが、佐々木亮介(Vo/Gt)は「いろいろやってみたけれど、あんまり変わらなかった」と語った。そんな嘆きのような言葉に続いたのは、「だから、このままいくことにした」という決意表明だった。アルバムのリリース以降、昨年11月から開催された全国ツアー『a flood of circle TOUR 2024-2025 “WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース”』。6月13日に行われたZepp DiverCity(TOKYO)公演でのことである。

a flood of circle(撮影=新保勇樹)

 会場BGMも、SEもなし。定刻になるとステージにメンバーが現れ、佐々木の「おはようございます。a flood of circleです」というお決まりの挨拶でライブが始まる。そのひとことから、すぐさま佐々木が〈ブルシットな世界に〉と歌い上げると、渡邊一丘(Dr)、HISAYO(Ba)、アオキテツ(Gt)のどっしりとしたアンサンブルが鳴り響く。アルバムの表題曲、「WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース」だ。この曲で佐々木は〈マサムネにも カートにも なれずに死ぬんだな〉と歌っている。憧れの存在にはなれないことを知りながら、そんな自分が生きている証を世界に刻むように、〈誰にも選ばれない世界を走ってく〉と歌う。ステージの照明は明るいまま。派手な演出もなく、ただ4人が鳴らす音が届けられるのみ。この曲に限らず、この日のライブはずっとそうで、生身の演奏が「このままいくことにした」という佐々木の言葉を体現しているようだった。

a flood of circle(撮影=新保勇樹)
佐々木亮介(Vo,/Gt)
a flood of circle(撮影=新保勇樹)
渡邊一丘(Dr)

 そんな純度が高い空間に惹きつけられる人が大勢いたことも、この日のライブからは感じられた。イントロから観客が沸いた「Dancing Zombiez」から、佐々木がギターをかき鳴らして「ファスター」へ。疾走するバンドサウンドに駆り立てられるようにフロアの熱も帯びていき、その熱を保ったまま「I'M FREE」へと突入する。HISAYOが弦を叩き、ゴリゴリにベースを奏でて始まったのは「D E K O T O R A」。佐々木もギターを置き、ハンドマイクでステージを自由に歩きながら歌う。そこから渡邊が力強くリズムを刻み、佐々木とアオキのツインボーカル曲「11」へと続いていく。まだ6月21日の沖縄公演が残っているものの、半年以上にもおよぶツアーももう終盤。フロアでは常に掛け声やハンズアップが繰り広げられており、ツアーを通して『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』の楽曲たちが成熟したことが窺えた。

a flood of circle(撮影=新保勇樹)
HISAYO(Ba)
a flood of circle(撮影=新保勇樹)
アオキテツ(Gt)

 「人は生きているだけで誰かを救っていることがある。俺は救われてます。きてくれてありがとう」と佐々木が感謝を告げてから「ベイビーブルーの星を探して」を披露すると、「世界は君のもの」を経て、漫画『ふつうの軽音部』(集英社)のなかで使用されて注目を集めた「理由なき反抗(The Rebel Age)」が演奏された。佐々木が途中でマイクをスタンドごと高く掲げ、それにあわせてフロアから〈シャララララ〉のシンガロングが響く。歌声を聞いて、HISAYOやアオキの顔にも笑みが浮かぶ。ポジティブなエネルギーが会場に満ちていた。

a flood of circle(撮影=新保勇樹)

 観客のシンガロングは次の「キャンドルソング」でも続き、曲が終わると佐々木、HISAYO、アオキがドラムセットの近くに寄っていく。4人が向かい合って始まったのは「プシケ」。ライブでずっと演奏され続けているこの曲が、この日のステージにも刻まれた。同じくライブ定番曲の「シーガル」から、「人生なんて3秒ぐらいだよ!」という佐々木の叫びから始まった「ゴールド・ディガーズ」は、「全力でこい」という合図だろう。言葉を受け取ったフロアの熱もより一層高まっていく。その光景に、歌詞中に登場する〈武道館〉のステージが決して夢物語ではないことを思わされた。

a flood of circle(撮影=新保勇樹)

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