RADWIMPS、スピッツ、KinKi Kids、n-buna、五十嵐ハル……「蛍」にまつわる楽曲はなぜ名曲揃い?

ボカロシーンで象徴的なのがn-bunaによる「夜明けと蛍」。2014年に初音ミクのボーカルでリリースされたこの楽曲は、Adoや天月-あまつき-ら多くカバーされ歌い継がれている。乾いたギターとずっしりとしたリズムはここまで挙げてきた曲とは一線を画すが、徐々に夜が明けていく景色の中で見つけた淡い光としての”ホタル”を描く上では理想的なサウンドと言える。青年期特有の焦燥感と夏の風景が重なり合い、物悲しさと高揚感が交差する1曲と言えるだろう。
そんな蛍をモチーフにした楽曲の系譜に、新たな名曲が生まれた。6月4日にリリースされたばかりの「蛍」はこれからの夏の歌として定着し得る1曲だろう。
五十嵐ハルは元警察官という経歴を持つシンガーソングライターで、作詞作曲やアレンジのみならずアートワークやMVなどもすべて自ら手がけている。すべてDIYな活動ながら、昨年リリースの「少しだけ」は全国32局でパワープレイを獲得するなど今、勢いに乗りつつある。ボカロP・ぺむとしても活動していた過去があり、現在の楽曲もDTMの延長上で作られた端正なポップソングが多い。
新曲となる「蛍」はイントロに虫の鳴く声をサンプリングし、幕開けから情景が目に浮かぶ。淡々としたビートに五十嵐のロートーンなボーカルが重なり、夜のムードを高めていく。音数の少ないオケだからこそ際立つ妖しげな歌の魅力が楽曲世界へと引き込んでいく。
オリエンタルな節回しや、神秘的なノイズが漂うアレンジなどはいわゆる日本的な夏の侘び寂びが感じられる。しかし五十嵐ハルの「蛍」で歌われている事象はとても切実で物悲しい。恋した相手の本命になることができないという悲痛な心情を描いた危うく揺れるラブソングだ。他の“蛍”の楽曲と一線を画すのは、屋外の景色がほとんど描写されない点だろう。物語の舞台はホテルが中心で、シャワーの音を思わせる水の音が曲中に差し込まれるなど、ある一室での逢瀬がサウンド面でも強調されている。沁み入るような情緒でなく、熱さを言い訳にした閉塞感のある関係性を描く、極めて現代らしい夏の楽曲と言える。
“蛍”というモチーフはまず〈夏の夜風 蛍の光 恋をまた切なくする〉と抽象的に登場する。しかしその後、〈蛍みたいな私 夜しか灯らない光/朝や昼だって光りたかったな〉という一節で効果的に用いられ、意味を持つのだ。想い人に求められることを“光”と表現し、それが時限性であるという儚さを捉えた描写だろう。強い湿度を帯びたトラックとチルなメロディが暑い夜を演出しつつ、歌詞では若いリスナーの心を射抜くような刹那的な恋慕を描く。先人たちから受け継がれてきたエッセンスと新鮮なアプローチが交差しているのが五十嵐ハルの「蛍」の独自性だ。
夏の夜をイメージさせる“花火”とは異なり、“蛍”を題材にした楽曲はささやかでパーソナルな感覚を表現したような楽曲が多いように思う。蛍に触れる機会もない程の苛烈な酷暑でも、こうした音楽に込められた想いを介して、少しばかり切なく、そして涼しげな気分になれるはずだ。

■リリース情報
「蛍」
6月4日(水)配信リリース
配信リンク:https://HaruIgarashi.lnk.to/Hotaru
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