KinKi Kids、三浦大知、観月ありさ……ドリカム提供曲で味わえる“作詞 吉田美和&作曲 中村正人”の真骨頂
また、他アーティストへのドリカムの提供曲についても触れておきたい。自身のオリジナルアルバム『DO YOU DREAMS COME TRUE?』(2009年)と『THE DREAM QUEST』(2017年)でセルフカバーしている、「大っきらい でもありがと」(青山テルマ/2008年)、「あなたが笑えば」(観月ありさ/2011年)、「普通の今夜のことを -let tonight be forever remembered-」(三浦大知/2017年)の3曲である。
観月ありさ「あなたが笑えば」(作詞:吉田美和/作曲:中村正人)
まずは観月ありさ「あなたが笑えば」。フィリーソウルを彷彿とさせる爽やかなアップチューンだ。歌い出しの発音のクリアさ、音符にジャストなリズム感、フレーズ終わりのトーンの処理の丁寧さなど、歌手デビュー当時から見せていた観月の才能を活かし、正面から楽曲と向き合ったアプローチをしている。リズムの低音をほとんど出さないバックトラックからは、中村正人がワールドトレンドにしっかりアンテナを張っていることが窺える。
歌詞にも注目したい。吉田美和は“恋する楽しさ”を一過性のものではなく普遍的な感情として言葉に落とし込める、稀有な作詞家だ。失恋や片思いといったネガティブな感情ほど内に向かうエネルギーが強くなるから、歌詞として吐き出しやすいと語るアーティストも多い。現に吉田が手掛けた歌詞にも、失恋や片思い、大きな意味での“愛”を綴った曲は多いのだが、彼女の場合は片思いでも失恋でも、“恋をした自分を肯定する”内容がよく見られる。特にすごいと思うのは〈あなた〉に対する観察眼。恋をしているからこそ見えてくる〈あなた〉の些細な仕草を落とし込むなど、日常の中にある“恋する視点”を掬い取るのが抜群にうまいのだ。しかも擬音を使いコミカルな軽快さを出してくるパターンもある。本曲でも〈ぼぉっと〉〈二ヤッと〉〈でっかく笑った!〉など作詞家・吉田美和の真骨頂が堪能できる。
青山テルマ「大っきらい でもありがと」(作詞:MIWA YOSHIDA/作曲:MIWA YOSHIDA・MASATO NAKAMURA)
続いて青山テルマ「大っきらい でもありがと」。失恋を綴ったラブバラードである本曲の魅力は、最初から最後までグッドメロディが次々と繰り出されるところ。作曲は吉田と中村の共作だが、両者ともに、稀代のメロディメイカーであることを改めて痛感する1曲だ。そんな中でも、サビを最も強く印象に残す吉田の言葉とメロディのマッチングの手腕は、他に類を見ない。口語体と文語体、感情の吐露と現実の描写、思わず出た言葉と飲み込んだ言葉、過去と未来……というような、相反する要素を巧みに使い分けるバランス感、そして多岐にわたる要素を使いながらもトゥーマッチにならない言葉の取捨選択など、繰り返し聴けば聴くほどよくわかる吉田の歌詞のすごさ。それも相まって、言葉とメロディを同等のポテンシャルで聴き手の心の中にスルリと滑り込ませてくる。青山もサビの大切さ、そして歌詞も含めた楽曲の世界観をしっかり咀嚼し、サビ以外では多彩な母音のニュアンスも出しながら、トーンでの発声を抑え気味にして歌っているのがよくわかる。
三浦大知「普通の今夜のことを -let tonight be forever remembered-」(作詞:吉田美和/作曲:吉田美和・中村正人)
最後は、三浦大知「普通の今夜のことを -let tonight be forever remembered-」。グルーヴィでメロウなミディアムチューンだ。まず印象的なのはイントロからAメロにかけたファンキーなベースラインとメロディ。アップテンポなら「決戦は金曜日」(1992年)に通ずるかも……なんてデビュー当時からドリカムを聴いてきたリスナーの心をくすぐってくる。メロディライン、楽曲構成、バックトラックなど、どれをとっても攻めていて、制作はニューヨークで行われたというが、2020年代以降再び注目を集め、掘り返されているブラックコンテンポラリーに通ずる空気がある。聴けば聴くほど浮かび上がってくる、一つひとつの音色やメロディにこだわり、何度も試行錯誤している吉田と中村の姿。そうでなければ、己のルーツとトレンドをこれだけシームレスにして、しかも日本語で聴かせることはできないだろう。本曲にはドリカムの楽曲が色褪せない理由が凝縮されているように思う。ほとんど休むことなく全編にわたり次々とメロディが展開する構成も、歌唱するには難易度が非常に高い。時には楽曲が持つあるグルーヴの良さを増長させ、時には自身の歌のアプローチで異なるグルーヴを作り出す三浦のスキルや、楽曲に対する解釈の深さも相まって、じつに解像度の高い1曲になっている。
























